【3行要約】・管理職は「魅力がない」と言われる一方で、組織の成果と人間関係の バランスに苦しむ難しいポジションになっています。
・本田英貴氏は「マネージャーは上からも下からも板挟みになる立場で、 嫌われ役も担わなければならない」と現状の厳しさを語ります。
・それでも管理職を目指す人は「仲間や会社へのピュアな動機」を持ち、 企業はその役割の意味を明確に伝えることが重要だと提言しています。
前回の記事はこちら 心理的安全性は“ゆるさ”じゃない
——メンバー間で、心理的安全性を高めるために有効なことは何だと思いますか?
本田英貴氏(以下、本田):これは、心理的安全性をどこまでやるかが、まず大事なポイントだと思います。先ほども話したように、心理的安全性を履き違えて、ただ“ゆるい状態”を心理的安全性だと思ってしまったら、まず無理だと思っていて。
本来の心理的安全性って、そこで働くみんなが仕事を前提にしながら、自分の考えをきちんと伝え合えること。時には厳しいこともある状態だと思うんですね。
そもそも「この人、誰かわからない」という状態は、とても怖くて、心理的安全性は生まれません。だからこそ、本当に心理的安全性をつくるなら、まずお互いを知ることからだと思います。
お互いを知った上で、実際の仕事の場では、心理的安全性のちょうどいい状態はAさん・Bさん・Cさんで違うと思うんです。
例えばCさんにとっては、上司から何も言われないことが心理的安全性かもしれない。一方でAさんにとっては、むしろ今の仕事について「ここが足りていないよ」と言ってもらえることのほうが、この場で働く上での心理的安全性になるかもしれない。だとしたら、Cさんの感じる状態=心理的安全性だと最初から思い込まないことが大事だと思います。
その上で、Aさん・Bさん・Cさんそれぞれにとって、この場がどうあれば良いのか。上司としては、個別に違う前提を踏まえて、この場をどうデザインするかを考えることだと思うんです。そのための前提として、まずはお互いを理解し合うことだと考えています。
一人ひとりで“安心の形”は違うので、まず話す
——上司の方も、部下の方一人ひとりをきちんと見ていないと正しくその人を理解できないだろうなとは思います。例えばリモートワークの中で、一人ひとりを見ていくのはけっこう難しいのかなと思うのですが、何かできる工夫はありますか?
本田:ポジショントークではまったくないのですが、やはりまずきちんと話す、ということですね。もうそこが基本になると思います。
私たちの事業をやっていても、上司に本音を言えている人の割合は5割もいないです。仕事における本音も言えている人は5割いなくて、20パーセントぐらいの人は(上司を)敵だと思っています。先ほど言ったように、一番下のレベルなんです。
まず、本音で話すのは難しいんですよね。本音で話せる状態は、段階を踏んでつくられる。警戒が薄れ、「相手は自分のために頑張ってくれている人だ」と感じられること。さらに、話してみたら「この人は自分にとって意味のあることを返してくれる」とわかること。こうした段階を経て、はじめて本音で話す意味が出てくるんだと思います。
占いの場のように「本音を言えば意味がある」が前提になっていない限り、上司と部下って、そんなふうにはまず成り立たない。いきなり「上司だから、本音を言えば意味のあることを返してくれる」とは、誰も思っていないですよね。
だからこそ、まずは本当に基礎の話ですが、お互いを理解し合うことをきちんと積み上げる必要がある。ここで注意したいのは、「部下のことを理解しよう」と片側だけに寄ると、少しおかしくなるということ。やっぱり自分のことも理解してもらう必要があるんです。
——上司の方がということですか?
本田:そうです。そこを履き違えて、「君のことを理解したくてさ」とこちらだけが言っても、まったくの無意味ではないにせよ、相手も「本田さんってこういう人なんだ」と受け取って関係は詰まっていきます。だから、自分のことも理解してもらうこと、相手のことも理解すること、その両方が必要です。
「理解し合う」ためには、まず話すことが一番早いし、普通の組織では避けて通れない。結局、そういうことだと思います。