「いいことばかりじゃない」から管理職はやりたくなくて当然
——管理職になりたくないという声をけっこう聞くのですが、管理職になりたくない人に対して管理職の魅力を伝えるとしたら、それは何だと思いますか?
本田:いやぁ、魅力ないでしょう(笑)。
——(笑)。ないですか?
本田:「普通にお給料をただもらって生きてりゃいいかな」ぐらいだったら、管理職は絶対やらないほうがいいと思います。先ほど話したように、組織としてやらなきゃいけないことがある一方で、そこには生身の人がいて、普通に嫌われることもある。
そして、全体にとって“いい人”でいようとすると、もしかしたら組織としてやるべきことができていないのかもしれない。それって、大変なところだと思うんですね。
そういう中でも、仕事をしていく上で、人と関わるたびに自分のダメなところや足りないところを突きつけられる。それでも「自分は変わっていく」「そんな中でも、目の前のみんなの役に立つ自分になっていく」と思えているなら、とてもいい仕事だと思うんです。そこに喜びを見いだしていけるから。
ただ、これは本当に難しい。瞬間、瞬間で何も返ってこないことも多いし、苦しいこともたくさんある。
それでも、やはりそこに喜びを見いだしていくことですね。自分の仕事人生において、その経験が意味のあることだと思えるなら、ぜひそうしたほうがいい。そう思えないなら、無理にやらないほうが本当にいいと思います。
それくらい、人の人生にも影響を及ぼすし、単なるステップアップとして扱えるほど、ぬるい話ではない。そう思います。
それでもやる人は、仲間や会社へのピュアな動機を持っている
——上からも下からも言われる複雑なポジションで、場合によっては嫌われ役も担わなきゃいけない厳しい立場でありながら、本田さんは当時、管理職になったことに関しては、けっこうポジティブだったんですよね。それはどうしてですか?
本田:さすがの展開ですね。本当に難しい展開になっちゃったなって思いながらしゃべっていて。
——(笑)。
本田:いや、そうなんですよ。でも、今も「管理職になるんだ」と思っている人は一定いるじゃないですか。それはやはり、例えば一緒に働いている仲間が好きとか、会社が好きとか、近くの人の役にできるだけ立っていきたいとか、本当にそういうピュアな気持ちなんですよね。
私たちのお客さまにも、同じ気持ちの方が本当に大勢いらっしゃいます。 「チームのために役に立ちたい。会社のために役に立ちたい」「一緒に働く仲間の役に少しでも立ちたい」。私自身もそうでした。だから、まず動機はそれでぜんぜんいいと思うんです。ただ、その先にはやはり難しさがある。それは本当に、そういうものだと思います。
私の経験に限らず、今「大変で、志望者が少ない」と言われるこの職種において、その役割を担おうとするのは、まさにその動機を持つ人たちでしょう。
マネージャーを増やすには“この役割を担う意味”を会社が伝える
本田:企業にとって難しいのは、ロイヤリティが高くないと、マネージャーという重い役割はなかなか引き受けられないという点だと思います。仕事の大変さを理解した上で、それでも担う人をいかに生み出すか。
そのために企業は、マネージャー職の難しさを踏まえつつ、会社が実現したい目的や社会に提供する価値が、社員、とくに管理職候補にとってどれほど意味あるものとして伝わるかを高めていく必要がある。ここで、組織ごとの差が大きく表れると感じています。
マネジメントの本質は“チームをゴールに連れていくこと”
——最後になりますが、本田さんが考えるマネジメントの本質とは何でしょうか?
本田:マネジメントの本質って、難しいんだよなぁ。たぶんぜんぜん合っていない話をするんですけど……結局、組織のゴールにチームを行かせることなんですよ。
だから、ちょっと質問の趣旨と違うかもと思いながらも、あえて話します。そのための手段として、「じゃあ、みんなとどう協働するのか」がある。そこに苦しさがあるんです。なので、本質はまさにゴールに到達すること。いや、本当にそれしかないんですよね。
だから、そのためにどうやったらそうなるかを考える。例えば、昔から会社はこういうやり方でやってきたけど、こう変えたらもっと楽にそっちへ行けるとか。あるいは、一人ひとりがこう思っているなら、この仕事をこう伝えて説明すれば力がそちらに向くとか。
もっと言うと、だからこそプライベートの状況も踏まえながら、全体としてチームを動かしていかないといけない、そういう話なんです。
決して、「ゴールに行かせるのが本質だから、みんなを一律に管理すればいい」ということではまったくない。むしろ、それではゴールにたどり着けない。そこが本質で、難しさもそこにある。そう思っています。
——ありがとうございました。