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本田英貴氏インタビュー(全3記事)

寄り添っているのに離れていくのはなぜか 上司と部下の“見えないズレ”をほどく方法

【3行要約】
・上司と部下の関係構築は小手先のテクニックでは改善できないという現実が、多くのマネージャーの悩みの根底にあります。
・KAKEAIの創業者・本田英貴氏は「リーダーが代わるだけでチームが変わる」という現象に着目し、対話支援サービスを展開しています。
・本田氏は、上司として構えるより人として自己開示することが信頼関係構築の第一歩であり、組織と個人の最適な結びつき方を探り続ける姿勢が重要だと語ります。

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小手先で“すばらしい上司”にはなれないという前提

——復職後、360度評価はありましたか?

本田英貴氏(以下、本田):あったけど、普通でしたね。当然人も替わったりしたから、一概にそこからよくなった、みたいな比較はできなかったと記憶しています。

そういうことをやったからといって、自分自身がすばらしい上司になったかというと、今もそうですが、ぜんぜんなっていません。むしろ、その瞬間、その瞬間だけで、目の前の人に対して最適なこと、一番いい自分や素敵な上司であるということは、もうぜんぜんできません。

今この瞬間自分が取っている行動が、今の瞬間においてはベストなんだ、ということをどれだけ自分の中で思えるかぐらいしか、信じられるものはないというか。それぐらいしかがんばれるポイントはありません。

相手にとって「これが一番いい」と断言して選び切ることも、行動し切ることもできない。その前提に立つと、将来やいつか……この瞬間ではなくどこか別の瞬間に、自分ではなく誰かにとっての「ありがとう」になること。それくらいのことしかできないのだと、日々思っています。

だからといって、その後にやり方を変えたところで、小手先の工夫だけで関係性が変わるわけではないと、今も思いながらやっています。

サービスに落とし込んでいるのは「現場のずれるポイント」

——ご自身のしくじりの経験が、現在の事業にはどういうふうにつながっていますか?

本田:これは深くつながっています。私たちの事業、サービスは、まさに上司と部下の対話を支えていく、補助していくようなサービスです。

例えば、当時の私はかなり具体的にアドバイスしていたんですよ。「それだったら、こうやったらいいんじゃない?」みたいに。

今振り返れば、みんなは僕にアドバイスなんて求めていなかったんです。求めている瞬間もあったかもしれないけれど、そうじゃなくて、むしろ「困っていることをとりあえず聞いてくれればいい」だけだったのかもしれない。そういうズレって、自分が「こうだろう」と思い込んでいる現実の中では、よく起きていると思うんです。

今やっている事業では、そうした期待とのズレが生まれないようにすること、そして現場のみなさんのリアルなコミュニケーションでの「困るポイント」「ずれるポイント」を意識しながらサービスにつなげていくこと。その両方で、当時の体験が本当に活きていると思います。

でも、何より活きていると思うのは、仕事をしていれば上司との関係は崩れることもあれば、うまくいくこともあるという現実です。そもそも、本当の信頼関係が築けているケースなんて、世の中にそんなに多くはない。なのに上司は、ついそこを期待してしまって、間違ってしまうことがある。

仕事をしていると、年齢が少し違うだけで、感覚がまったくかみ合わないこともあります。そんな、働くみなさんの現実。自分自身が仕事を通じてそれを知れたことが、一番サービスに活きていると思います。その上でのコミュニケーションだと考えているので。


「リーダーが代わるだけでチームは変わる」を増やしたい

——KAKEAIを立ち上げるに当たって、こういう上司が増えてほしいなという理想像みたいなものはありましたか?

本田:いやぁ、難しい質問ですね。例えば、組織でやっていることもメンバーも変わらないのに、上司が代わるだけで元気になるチームってあるんですよね。逆に、上司が代わったら一気にダメになっていくチームもある。

よくなっていく時って、決してぬるいわけじゃなくて、時には厳しさもある。それでも人は辞めないし、業績は上がって、個人も仕事にやりがいを持てる。そういうふうになっていくことがある。これは特に、リーダーという存在の影響がかなり大きいと思っていて、そういうリーダーがもっと増えたらいいな、とは思っていました。まあ、難しい話ではあるんですけどね。

——難しいですね(笑)。

本田:(笑)。むちゃくちゃ難しいんですけど、それは今も思っています。でも、やはり難しいですね。

「寄り添う」と「組織でやり切る」の間で生まれる葛藤

——正解を持って導くという姿勢から、傾聴を意識するように変化されたと思いますが、その変化の中で葛藤は特にはなかったですか?

本田:組織でやるべきことをいったん置いておけば、いくらでもメンバーには寄り添えるんですよ。例えば、「あぁ、大変なんだ。じゃあ早く帰ったら?」とか。これは組織でやるべきことがなかったらできるんです。

ですが、組織でやるべきことをどうみんなでやり切るか。それがマネージャーとして一番大きな仕事です。そう考えると、そこに難しさが生まれてくるんですね。

だから葛藤があるんです。「寄り添うこと」を目的化してしまえば、いくらでもできる。でも、それが本当に今のこの組織にとってよいことなのか? 「一人ひとりに徹底的に寄り添えばいいのか。人だから流されたい気持ちや弱くなる瞬間がある中で、それに合わせ続けるのは本当に正しいのか?」そんな葛藤です。これは、いまだにあります。


個別支援だけでは職場は成り立たないという現実

——それをきれいに解決していくのはやはり難しいですか?

本田:そこは正直、無理だと思っています。サークル活動のように、報酬を伴わない前提であれば可能かもしれません。しかし実際は、私たちは仕事として報酬を得ながら共に進めていく。その場で最適な状態を、互いに見いだしていく必要があります。

近年は「管理ではなく個別支援へ」という潮流がありますが、個別支援に徹底的に振り切った時、そもそも仕事や職場、社会は成立するのか。私は、しないと考えています。

ゆえに、組織と個人、マネージャーとメンバー、会社と従業員、その間をどう設計すれば最適に結びつけられるのか。結局は、それを探り続けるしかないのだろうと思います。難しいテーマですが(笑)。

“上司として”より先に、人として自己開示する

——部下との関係に悩んでいる上司の方は非常に多いと思いますが、最初の一歩になる行動は何だと思いますか?

本田:ここは、実はシンプルだと考えています。そもそも「上司として部下に向き合う」と構えるほど、関係は苦しくなりがちです。

目の前の相手はメンバーで、自分は上司という役割で接している。けれど、会社の上下関係でなければ友人になれていたかもしれない。パパ友や地域の知り合いのように。ところが「会社の上司」であると意識した瞬間に、「こうあるべき」「こうしなければならない」という縛りに囚われやすい。

土台にあるのは、人と人の信頼です。人はまず相手を「敵かもしれない」と疑い、警戒する。逆に「この人は味方かもしれない」「自分のことを思ってくれているかもしれない」と感じられれば、一歩前へ進める。

だからこそ、警戒を緩める最初の一手は自己開示です。「自分はこういう人間だ」「あなたに害を及ぼす存在ではない」と、こちらから差し出す。それがまずできることだと思います。

それをしていなければ、相手にとっては当たり前に怖い。いくら「課長」という肩書が付いていても、むしろ“誰かわからない人”は怖い。関係づくりは、そこから始まるのだと思います。

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