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本田英貴氏インタビュー(全3記事)

“丁寧に1on1していたはず”なのに伝わっていなかった “感謝されているはず”という思い込みを外してマネジメントをやり直すまで

【3行要約】
・マネジメント能力に自信を持つリーダーほど、部下からの本音のフィードバックを受け取れずに孤立してしまう問題が深刻化しています。
・本田英貴氏は360度評価で痛烈な批判を受けてメンタル不調に陥り、休職を経て自分のコミュニケーションを根本から見直しました。
・同氏は、誘導的でない対話を通じて部下の小さな悩みにも真摯に向き合う必要があると語りました。

「誰もついていきたくないって知っています?」と書かれた360度評価

——360度評価で「あなたには、誰もついていきたくないって知っています?」と伝えられた時の状況を振り返っていただけますか?

本田英貴氏(以下、本田):当時はまだ30歳ぐらいで若かったと思います。仕事も順調で会社も大好きで、とにかく自分自身、もっとここで大きい仕事をしていくんだと思っていました。

当時、自分は人事の部署にいて、かついろいろな組織のみなさんに「マネジメントはこうやってくださいね」と言う立場でもあったので、自分自身のメンバーに対するコミュニケーションに自信があったんです。

「絶対みんな、私に対して『ありがとう』と思ってくれているに違いないし、感謝されているはずだ」とか、「みんなきっと、『本田さんと働けてうれしい』と思っているんだろうな」とか、そんなことばかり考えていました。

そういう自分だったので、360度評価があると聞いた時、早くやってほしかったんです。早くやってもらったら、いいコメントや点数をもらって、自分はうれしくなるだろうし、なんだったら自分の上司がそれを見て、「本田、さすが」となって、もっと大きい仕事を任されるようになるんじゃないか、ぐらいに思っていました。

そうしたら、お話があったように無記名のフリーコメントで「あなたには誰もついていきたくないって知っています?」と来たんです。

最初は自分宛てじゃないと思いました。絶対別の人宛てのコメントが間違って私のところに紛れ込んだんだろうなと思いました。その360度評価は、私が所属する人事部が実施の所管だったので、誰がどう書いたかまでは私にも見えないようになっていますが、自分宛てに来たものかどうかの確認ぐらいは仕組み的にできました。確認したところ、やはり自分宛てのもので間違いありませんでした。

どう思ったかというと、めまいがしたというか、「自分自身が思っていたものは何だったんだろうな」ということを受け入れるまでに、時間がかかりました。

自分が見ていた現実と、目の前で一緒に働いている、まさに同じ島で働いている誰かがくれたコメントという事実との違いがあまりにも大きくて、受け入れるのに時間がかかったんですね。当然ショックでしたし、みんなと関わるのが怖くなりました。


崩れた自己イメージと部下に近づけなくなる恐怖

——メンバーと関わることが怖くなったんですか?

本田:そうです。少なくとも自分が見ていた現実は正しくないんだなと知った時に、では自分自身はふだんどういうふうにコミュニケーションをしていくのが正しいのか、自分に自信が持てなくなって、関わっていくのが怖くなりました。

時間が経つ中で、自分自身が間違っていることは認識しながら、関わり方を変えていかないと駄目なんだなとは認識していました。でも、どう関わったらいいかわからない状況の中で、仕事をアサインしながらやっていくべきなのに、それができなくなっていったんです。

かと言って、組織のマネージャーが担う仕事は減らないので、何でもかんでも自分でやっていかないとしょうがない、という感じになっていきました。

そうしながらも、常に「みんなは自分のことをどう思っているのかな?」と思い続けていて、怖い状態になっていました。仕事は減らないので、とにかくそれを自分自身でしっかり乗り越えていくしかない、背負い込んでやっていくしかない、という状況でした。

私の場合は、ひどく頭が痛くなりました。自分も人事の仕事をしていたので、「寝られなくもなってきているし、これって絶対メンタルがおかしくなっているな」とは思っていたんですけど、「そんなことを言っていてもしょうがない」と考えていました。

いよいよきつくなって病院に行ったら、やはり「うつですね」と言われ、休まなくてはいけなくなりました。

——360度評価で、無記名でかなり刺さるものがあったということですが、他の評価は別に悪くはなかったのでしょうか。

本田:いや、めちゃめちゃ悪かったんですよ(笑)。コメントとしては、「いつも、すごく勉強させてもらっていて、なんとかかんとかで、ありがとうございます」みたいなのもありました。

けど、それはもう目に入ってこないというか、あまりにマイナスのほうが、自分の中でギャップが大きかったんです。


“丁寧に1on1していたはず”なのに伝わっていなかった

——「誰もついていきたくない」と言われた時のマネジメントスタイルは、どういうものだったのでしょうか?

本田:今で言う1on1のようなことを、相当丁寧にかなりの頻度でやっていました。その中では当然仕事の話もしますが、「将来どういうふうになっていきたいのか?」とか、「今の仕事を意味のあるものにどう咀嚼してもらうか?」とか、僕から見た現実で言うと、かなり丁寧にやっていたんです。

それは1対1だけじゃなくて、チームに対してもやっていました。例えば「こう決まったからこうしましょう」とではなく、みんなの意見を踏まえながら、そこに対してやるべきこととの交点を見つけていくということを、丁寧にやっていたつもりでした。

事実として、行動ではそうだったとは思うんです。一生懸命やっていたのも事実なんですけど、やはり自分自身が見ているものと、相手が捉えていることはぜんぜん違ったんだと思います。

休職期間に直面したのは“自分が壊したかもしれない時間”への後悔

——休職中はどういう感情や問いと向き合っていましたか?

本田:休職中は、とにかく「なんでこうなっちゃったんだろうな?」と思っていました。当時は「自分の人生は、ここの会社でどう認められるかなんだ」と思っていたんです。

そんな中で休職することになって、恥ずかしい話なんですけど、自分の人生が終わったな、というか……一生懸命やってきたものが崩れたな、という気持ちでした。

きっと会社ではいろんな人が「本田はもう終わったよね」とか、メンバーは「休みに入ってよかったわ」ぐらいのことを言っているんだろうな、と思っていました。

ただ最初は正直そういうのがあったんですけど、だんだんと「自分が見ていた現実って何だったんだろうな?」と思い始めたんです。自分自身が一生懸命やっていたのは確かなんだけど、相手にはそれがまったく真逆のように映っていたし、感じさせていたんだろうな、と振り返られるようになっていきました。

それと同時に、強い申し訳なさが込み上げてきました。誰と働くかなんて、たまたまじゃないですか。そういう中でたまたま私と働くことになったみなさんに対して、自分自身がみんなの仕事の時間や、ひいては人生の一部において深く嫌な気持ちにさせていたことに、計り知れない申し訳なさを感じました。恥ずかしくなって情けなくなって、という気持ちで頭がいっぱいになりました。

「あまりに恥ずかしいし、出ていってもいろいろ思われるだろうな」「もう会社を辞めようかな?」とも思ったんですけど、恥ずかしさとか情けなさとか申し訳なさにきちんと向き合わないと、自分自身の人生がもう本当にここで行き詰まっちゃうなという気持ちもあって、めちゃくちゃ嫌だったんですけど、会社に行ったんですよ。

行ってから考えては動けないと思っていたので、自動的に行動すると決めておきました。もう行ったら、心を無にして誰かのところに行って、「本当にごめんなさい」と言おうと。とにかく行ったらそれをやるだけなんだと思って、感情を殺して行って、それで言えたんです。

戻る時に決めたのは“自分の見方は正しくない”という前提

——復職後に最初に変えようと決意していたことはありますか?

本田:まず、自分がまず見ているものは正しくないと思うようにしました。自分自身が見てどう思うかを疑わなくてはいけないな、と。

それから、やはり期待していたところがあったと思うんです。メンバーが自分に対して「ありがとう」と思ってくれていると期待していたし、自分が見たいものに合わせて人に期待をするのは抑えなくちゃ駄目だな、と。この2つは当時とても思いましたね。


聞きたい答えを言わせる1on1から、“小さい困りごと”を聞く1on1へ

——実際に、それをマネジメントの手法に落とし込んだりしたんですか?

本田:そうですね。例えば先ほど、1on1のようなものをやっていたという話をしましたが、そういう機会は引き続きありました。

それまでは、自分が聞きたいことを言わせていたと思ったんです。例えば、「この仕事を通じて、こういう自分になっていきたいんです」みたいに、おそらく休職する前の自分は「そういう構文で言え」ぐらい言っていたと思うんですね。

「『どうなりたいのか。そのために今の仕事をどういうふうに活かしたいのか?』というふうに言ってみよう」ぐらい。言い方はぜんぜん違ったとしても、たぶんそういうことを言っちゃっていたと思うんですよ。

そうやって言ったら、みんなそのとおり埋めてくれるんですけど、そもそもそういうこと自体がぜんぜん間違っていました。

例えば、仕事に対して今やる気がないことも当然あるでしょうし、困っていることもそんな大層な話じゃなくても、細かいことで困っている、悩んでいるみたいなこともあるはずなんです。

だけど当時の私は、そういうことがむしろ出てこないように、もっと大層な話に強引に持っていっていたと思うんですね。

当時は「仕事っていうものはこういうふうに捉えてこうすべきだ」みたいな信念があって言っていたと思うんです。でも復職後は、そういうことじゃなくて、もっと普通の感覚で困っていることや、小さな悩みもたくさんあるだろうし、そういうことをできる限り聞かないと、本当の意味で役に立つことはできないんだろうな、ということを意識しながらコミュニケーションを変えていきました。

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