【3行要約】
・働き方の多様化により人材の流動化が進う一方で、プロジェクトマネジメントに新たな課題が生じています。
・プロジェクトマネージャー歴20年以上の米山知宏氏は「現在は価値観の共有が難しく、異なる背景を持つメンバーとの協働が増えている」と指摘します。
・上司は部下の主体性を引き出すため、対話の場を設け、納得感を持って働ける環境づくりに取り組むべきだと提言します。
今プロジェクトマネージャーが直面している課題
——米山さんは20年以上にわたり、さまざまなプロジェクトを率いてこられましたが、最近のチーム運営や若手メンバーとの関わり方で感じる変化や難しさはありますか?
米山知宏氏(以下、米山):若手メンバーとの関わり方において、世代間の考え方の違いは常に存在すると思いますので、近年になって特に変化を感じているということはありません。
一方で、働き方が変わってきたことによる変化や難しさは日々感じています。
具体的には、人材がより流動化していく中でのチーム運営、プロジェクト運営の難しさです。
私たちの価値観の変化やリモートワークの普及により、以前からずっと知っているという関係のメンバーだけで働く機会は大きく減少しているでしょう。
みなさんが所属している会社の中を見ても、中途入社の方が増えたり、隣の席には業務委託や派遣契約で働く方々が座っていたりということが当たり前になってきているのではないでしょうか。
また、その仕事は会社の中だけに閉じるものではなく、外部のさまざまなパートナー企業とともに推進されていることも当たり前になってきているでしょう。
こうなってくると、「同じ釜の飯を食う」という形で、時間をかけて共有されてきた価値観や前提となる考え方というものはもはや存在せず、お互いにどういう人かもわからないし、どんな価値観や考え方を持っているのかもわからない人たち同士で、一緒に仕事を進めていかなければなりません。これは、私たちの働き方やチーム運営に影響を与える大きな変化と言えるのではないかと思います。
「部下が指示待ちで困る」という上司が見落としているもの
——これまでのマネジメント経験のなかで、「指示待ち」社員が変化した事例はありますか?
米山:私が指示待ち社員を変化させた事例という意味では、1つもないですね。と言いますのも、指示を待たずに行動するとか、後ほどの自律や主体性も、すべて本人が本来持っていたものが周りの環境との関係の中で発揮されたりされなかったりするだけのものであって、第三者である上司的な存在が何か直接的に関与できることではないからです。
「指示待ち」社員が変化したならば、それは本人が自分に矢印を向けて、自ら勇気を持って一歩を踏み出したということ以外にはありません。
上司的な立場の人にできることがあるとすれば、失敗しても大丈夫だという安心感がある場を提供し、部下のチャレンジを応援し、チャレンジした後には一緒にふりかえるというような、「実践と内省」をサポートするくらいではないかと思います。
そもそも自律とは、「自律してほしい」と促されてそうなるものではなく、一定の環境や条件の中で自然とそうなっていくものだと考えています。たとえば、まったく信頼できない上司から「自律しろ」と言われて自律したいと思えるでしょうか? そのような人はいないでしょう。
人間は誰しも、本来は自律的な存在だと考えています。実際、生まれた直後から、泣くことで意思を表現し、頼まれずとも、少しずつ言葉を発声しています。また、その後も、自らの意思に従って行動し、もし失敗したり危険な状況に陥ったりしたならば、程度の差こそあれ、また意識的かどうかはともかく、学んでいるわけです。
ですから、大事なことは、人間が本来持っている自律性が発揮されやすい環境や状況を作ることであり、そのためには、相手のことを理解しようとすることが何より重要ではないかと思っています。
そして、もし、上司が部下に対して「指示待ちで困る」と考えているのであれば、まず何より、そのように思っている上司側こそ部下の主体性を奪ってる原因がないかを省みるべきではないかと思います。
プロジェクトが始まる前にしておくべきこと
——個人の主体性を育てるために、上司がプロジェクト設計で工夫すべきポイントはありますか?
米山:プロジェクトが始まる前からプロジェクトの終わりまで、いたるところに「私はこう思う」「私はこう感じている」という意見や考えを表明する場をつくることが重要だと考えています。
プロジェクトが始まるタイミングであれば、どんなゴールを目指したいか、そのためにチームとして何に取り組めるとよいか。そのためにメンバーそれぞれがどんな役割を担えばよいか。プロジェクトを推進する段階においては、いま何を議論すべきかという会議のアジェンダや、発生している問題は何か、それをどうしたいかというふりかえりなど。
このようなことを上司的な立場であるプロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーだけでなく、メンバー全員が発言し、それをお互いに対話し続けるという小さな積み重ねが、誰もが本来持っている主体性を引き出すことになると考えています。逆に、思っていることを発言することすらできない状況で、主体性が生まれることはないでしょう。
誰しも「納得感」がない状態では力を発揮できない
——チームとして成果を出しつつ、人を育てるには「どのフェーズで手を離すか」の見極めが重要かと思いますが、その判断基準を教えてください。
米山:見極めるというよりは、部下の方の意思や気持ちを確認しながら、両者で判断していく形でよいのではないかと思います。この考え方は、状況対応型リーダーシップ(Situational Leadership)と呼ばれるもので、部下の思いや状況に応じて、上司側のリーダーシップスタイルを柔軟に変更する考え方です。指示や依頼の関係性について、「私はこう思う」を共有しあって、すり合わせていくということです。
誰しも、納得感を持てない状態で仕事を受け取ったところで、本来持っている力を発揮することはありません。それは本人の成長につながらないだけでなく、結果的にチームとしての成果にもつながりません。
——米山さん、ありがとうございました。
参考サイト:
『両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術』米山 知宏/著(翔泳社)
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