【3行要約】・リード投資家の撤回で給料が払えない危機に陥る――多くの経営者が直面する資金繰りの問題が、渡邉拓氏にも襲いかかりました。
・コロナ禍の2020年3月、決裁済みの資金調達が突然白紙に。渡邉氏は給料日5日前に事業売却で危機を脱し、その後の急成長では人材問題に直面しました。
・渡邉氏は「80億総クリエイター時代」の到来を予測し、分散化する市場ではテクノロジーとデータ活用で対応すべきだと語ります。
前回の記事はこちら 翌月の給料が払えない
――「翌月の給料が払えない」リード投資家の突然の撤回で、絶体絶命の危機に陥った渡邉拓氏。給料日5日前の奇跡的な事業売却で会社を救った後、今度は急拡大による人材問題に直面しました。
そんな波瀾万丈の経験を経て見据えるのは、誰もがクリエイターになる「80億総クリエイター時代」。分散化する市場で勝ち残る戦略について詳しくうかがいました。
リード投資家の突然の出資撤回
藤井創(以下、藤井):いろいろ続けていく中で、やはりいろんな波があったと思うんですけど、例えばそれこそコロナ禍とかは、ひきこもり需要とかもあって、逆に良かったりしたんですか? それとも大変だったんですか?
渡邉拓氏(以下、渡邉):大変でしたね。経営の中で一番クリティカルにネックになるものが、「ヒト・モノ・カネ・情報」。お金が尽きた時に会社は終わっちゃう。
資金調達を私たちはこれまでに何回も繰り返してきている中で、コロナの緊急事態宣言が4月に確かあったと思うんですけれども、3月末に資金調達するというタイミングがありまして。3月28日ぐらいにリードの投資家さんが急にオフィスにノーアポで来られて、「なんか『オフィスを見たい』って言っています」みたいなかたちで、「あっ、そうなんだ」と思いながら私も出先から急いで戻ってきて。
確かに出資するのにオフィスを見たことがなかったので、必要だなと思って、案内させていただいて、終わりかなと思ったら、「ちょっと待ってください。話があるのでちょっと会議室いいですか?」ってなって、「単刀直入に言いますと御社への今回の出資、なかったことに」って言われて。
藤井:その理由は何だったんですか?
渡邉:理由はグループ会社の救済の優先順位が上がったということで、その言い分だけ聞くとわかるんですけど、2週間前に決裁されているんですよ。「経営会議で決裁された」って対面で聞いていて、「もう大丈夫だから」って聞いていた。
にもかかわらず、2週間で意思決定が変わるというのはけっこう大きなことでした。取締役会でも議案としても上がっちゃっている話なので、当然フォロー投資家にも言わないといけないしってなると、リードがいなくなったらみんないなくなっちゃうみたいな。翌月の給料が払えないという状態になって、その時が一番大変でしたね。
そこから、もう事業の切り売りだとか、当然、売掛を早く回収し買掛を遅くするとか、あと銀行の借入だとか、コロナの助成金はできないかとか。売上は上がっていたので助成金も取れないし、なんか人づてで怪しい会計士の人とかとも、喫茶店とかで会ったりとかして。
それだけだと不十分で、リアルビジネスを撤退したこともありました。
あとは、知り合いが設定してくれて、たまたま3月の30日か31日に、Donutsという、「ミクチャ」とか「ジョブカン」をやられている西村(啓成)さんと会食の機会があって。
うちのビジネスに興味があるってなって、うちのサブのビジネスを切り出して、そこで売却をする意思決定をしました。給料日の5日前に、3月20日に入金していただくみたいな(笑)。
藤井:それは大変だ(笑)。
渡邉:それで1ヶ月は生き延びはしたんですけど。いわゆる投資の方々からすると「結局1ヶ月延びただけじゃん」というので、リストラプランですとか、いつまでにいくら集められるかとかの打診がありました。
一生懸命、100社か150社ぐらい、投資の方とかにお会いして、まずエンジェル(投資家)の方から8,000万円集めて、2ヶ月生き延びられるようになってきて、それが3ヶ月になりました。売却とかも考えましたね。それでも投資家の方々からは、「それ、延びただけじゃん」とか詰められて。
結果、丸井の社長さんとか、セガ(サミー)の社長さんとか、あと電通さんとか、いろんな方々が入って、当時、最終的には10億円、フォロー投資家がいなくなったところの投資家さんも入ってくれて。リリースできた時には会社さんの名前もすごく良かったですけども、結果的にはそうなっただけで、そこまでメチャクチャ大変だったという感じでしたね。
急成長の代償 人材採用とオンボーディングの失敗から学んだこと
藤井:そのいろいろ大変なことを乗り越えて、軌道に乗ったというのはどのぐらい経ってから?
渡邉:資金調達した後の2020年の後半から2021年、2022年とすごく良くてですね。ただ、そこから今度は人をガッとメチャクチャ採用したという時期もあって。
特にロシア・ウクライナ戦争があった2022年のタイミングで、思い切って投資しようと決めて人の採用を進めました。それが、すごく大変なことになってしまって。
藤井:けっこう大変でしたか?
渡邉:はい。なかなかオンボーディングもできていないとか。コロナの時はオンラインでけっこう限界があったりして。今だと採用の最終フェーズでワークサンプリングとか、リファレンスチェックとか入れたりとか、ちゃんとステップを踏んで採用するというかたちにしたり、オンボーディングを事業ごとに充実させたかたちでやっているんですけど。
当時はあんまり仕組みとしては脆弱だったのかなと思っていまして。新しく来た役員の人にも、ある程度権限委譲して、私は最終面接に出ないとかやっていたんですけど、そこから採用ミスマッチが増えて元に戻したり、採用で重要な考え方の共有、マネジメント教育などいろいろやりました。
だから1回、人は増えるんだけど生産性がすごく落ちて、2年目からはまたガッと生産性も上がっていって、メチャクチャいい具合になった、というところですね。