【3行要約】
・話し方は重要だと言われますが、日本では体系的な学習機会がほとんどないという問題があります。
・千葉佳織氏は「日本人は1日平均6.1時間話しており、人生の4分の1を占める」と指摘し、AI時代こそ人間的な共感力が差別化要因になると語ります。
・ビジネスパーソンは「良いものなら伝わるはず」という思い込みを捨て、戦略的な話し方を身につけるべきです。
人は1日平均「6.1時間」も話している
――まず
『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』執筆の背景にある問題意識や狙いについて教えてください。
千葉佳織氏(以下、千葉):私自身は、話し方というのは「人生を左右する究極のポータブルスキル」だと思っています。それは、私たちが1日に話している時間に関連しているからです。
6.1時間(※)。この時間が、日本人が平日に平均で話していると言われている時間です。つまり睡眠時間とほぼ同じで、人生の4分の1の時間は話していると言えます。そうなった時、話の質がものすごく人生に影響してきます。 (※出典:国⽴国語研究所
「一日の会話行動に関する調査報告」)
ぜひご自身の状況にも当てはめていただきたいと思っているんですけれども……。例えばリーダー職やマネジメント職をされている方は、周囲の人たちを鼓舞させ、チームのまとまりを作ることができれば、得をします。一方で誰かを傷つけてしまったり、なかなかまとめられないコミュニケーションをしていると、損をしてしまうと思うんです。
営業職の方も、モノについて魅力的に話せて、たくさん売ることができたらキャリアアップにつながります。一方でうまく伝えられなくて売れなかったら、伸び悩んでしまうと思います。人事職の方も、自分たちの会社や人の魅力を伝えられて初めて、採用候補者の方をたくさん増やすことができます。一方でそうじゃない人は損をしてしまいます。
自分の職業に当てはめてみても、結局「話す」「コミュニケーションが取れる」ということが、結果の出方やキャリアの先を描くことに結びついてくるんです。そう考えれば、「話す」ことを省みる重要性は大きいです。
――どんな仕事においても、自分の考えを相手にきちんと伝えられるスキルは欠かせないということですが、それほど重要なものだと認識されていない方も多いかもしれませんね。
千葉:はい。特に日本では、話し方の学習はほとんど浸透していない状況だと思っています。義務教育の中で、国語や数学などは、ある種「正解」を求めながら学習をしていくことが多いと思います。
ただ、今は正解が少なくなってきている時代ですし、いろんなバックグラウンドを持っている人たちが共存するような、自分で正解を見出さないといけない時代だと思っています。
これまで学習形態がなかったから、みんな「うまくできない」と困惑してしまうんですけれども、今は「話す」という学習形態が必要な時代に突入していると考えています。
AIには作れない共感と信頼
――AIやテクノロジーが話し方やコミュニケーションに及ぼす変化について、現場で感じていることはありますか。
千葉:AIが発展したことによって、ますます話す力、コミュニケーション能力の重要性が大いに高まってきていると思います。
例えばAIは大量のテキストを読んで要約したり構成したり、テンプレートを出力することは得意ですよね。ただそこに共感や信頼を作ることができるかというと、また別の話だと思っています。
私たちがコミュニケーションを取る上で、やはり声色や声のトーン、その場で紡いでくれる言葉の重さで「信頼できるな」と思ったり、「この人についていきたい」と共感したりすると思うんです。これはAIで出力できないものであって、人間のすばらしいところだと思います。
やはりAI時代だからこそ、仕事の差別化や自分のキャリアを築く上で、この人間らしい営みを強化していく必要はものすごくあると思っています。
――AIが進化している今だからこそ、話し方のスキルを磨く必要があるんですね。
「良いものだから伝わるはず」という思い込みが招く“もったいない”状況
――千葉さんがビジネスシーンで「もったいないな」と思う話し方をされている人はいますか?
千葉:そうですね。「魅力があるのに伝えられていない」という状況自体が、まずすごくもったいないと思っています。
これはいろんな考え方があるんですけど、例えば「良いものを作っているから、魅力を持っているから、別に伝えなくても誰かが気づいてくれるでしょ」と思っている方がすごく多いです。
――「すごく良い商品だから、アピールしなくても売れるだろう」とかですね。
千葉:そうです。もともと持っているものが良い。だから相手のことよりも自分のペースで、とにかく伝えたいだけ長く話してしまう。あとは事前にどんな言葉でその魅力を伝えればいいのかを考えないで、なんとなく頭の中で浮かぶものを相手に伝えている。
これも結局時間が限られていたり、相手がたくさん情報を受け取っている状態で、あまり考え抜いていない言葉を話してしまうと、結局魅力がうまく伝わらないよね、と。
あとは自分のいわゆるデリバリー技術……声色とか抑揚とかスピードは「特に気にしなくてもいいよね」と思っていらっしゃる方もいて、そこももったいないなとすごく思います。
“面接が苦手”な人が見落としているもの
――千葉さんはどういうシーンでそう感じられることが多いのでしょうか?
千葉:私たちは個人のお客さんと企業のお客さんがいらっしゃるんですよ。特に企業のお客さんから「コミュニケーション全体のコンサルティングをやってほしい」と言われて、実感することが多いですね。例えば製造業のお客さんだと、これまでは良いものを作っていたら売れる時代だったけれども、今はそういう時代ではないと。
でも技術者の方は、あんまりコミュニケーションの訓練をしていなかったり、その必要性を感じていない方も多いとうかがいました。
今企業の話をしましたが、これは対個人にも言えることだと思っています。例えば転職活動をしていらっしゃる方からは、「これまでものすごく仕事をがんばってきて、たくさんの実績を積んできました。でもなかなか面接を通過しないんです」という相談をもらうことがあります。蓋を開けてみると、「何をどの順番で伝えるとわかりやすいのか」が整理できていなかったり、自分の魅力が言語化できていなかったりするんですよね。
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