【3行要約】
・多くの組織で指示待ち部下が問題視されているが、実は「言われたことに従うほうが得」という環境が原因となっています。
・高橋浩一氏によると、上司個人の判断基準に依存する組織では、部下は失敗を恐れて自発的な行動を避ける傾向が強まるといいます。
・解決には「質問を促す→過剰なコミュニケーション→徐々に任せる」という段階的アプローチで、部下の自立を促すことが効果的です。
「言われたことに従うほうが得」部下が指示待ちになる理由
——指示待ち部下が生まれる原因には、上司・部下・組織のそれぞれにどんな要因があるとお考えですか? またそれぞれに有効な解決策があれば教えてください。
高橋浩一氏:まず、指示待ち部下が生まれやすい環境があります。 それは、正しい・正しくないという判断軸が非常に強い場合です。 正しい・正しくない、好き・嫌い、やりたい・やりたくない、お客さまのためになる・ならない、いろんな軸がありますが。
上司の言うことが正しいとか、正しいかどうかは上司が決めるといったものが強いと、部下としては上司の「正しい」の尺度から外れた行動を取ることは損か・得かというと、損する確率が高いわけです。そうすると何が起こるかというと、上司から否定されそうなことはやらないほうが得だとなるわけですね。
有効な対策として、「よくわからないけど上司という個人が、正しいか正しくないかを判断するんだ」と周りが思わないように、組織として価値判断の尺度を定めるのが一番王道かなと思います。
例えば、それがお客さまのためになるかどうか、世の中をよりよくするものであるかどうか、当社が事業成長できるかどうか、などの尺度の候補があります。 もちろんこれも考え出したらキリがないですが、上司も部下も一体となって、こういった価値基準を決める議論に加わっているかどうかは1つ重要なポイントです。
というのは、その基準の裏側にどんな考え方や背景があるかについて、自分なりの理解を深めることができるからです。 いきなり決まった基準を押し付けられても、結局それが自分がよくわからない基準だとしたら、自分の頭で考えて行動するよりは、言われたことに従ったほうが簡単だし、安全だということになります。
指示待ち部下が生まれる原因には、誰か特定の個人が考える正しい・正しくないという基準が大きく影響を持ってしまっている場合が多い、というわけです。
また、部下のパーソナリティによって指示待ちになりやすい人は確かに存在します。例えば自己効力感や自信がないような場合ですね。 「自分が何かやることがかえって組織に迷惑をかけるんじゃないか」「自分の考えていることが本当にいいかどうかわからない」みたいに自信がないときは、やはり自分で何か考えて動くよりは指示を待ったほうが得だとなりやすいです。
では、どうやったらいいのかということなんですけども、上司からの承認や褒めるといったメッセージが出されているかどうかがポイントになります。 自己効力感が高められるようなコミュニケーションをしているかということですね。
「口を出しすぎ」や「放任しすぎ」にならないさじ加減
—— つい口を出しすぎてしまったり、逆に放任になりすぎてしまうマネージャーが適切に部下に任せていくにはどうしたらいいでしょうか?
高橋:口を出しすぎてしまったり放任になりすぎてしまうというのは、要するにさじ加減がわからないからですよね。 つまり、やりすぎだったり、やらなさすぎだったりということに対して、良い加減がわからないということです。
よい加減とは何かというと、部下が適切に感じるかどうかということ、また、それで成果が出るかどうかということです。 従って、口を出しすぎてしまっていないかとか、放任になりすぎていないかということに対して、よい加減を探っていくためには、答え合わせや検証の作業をこまめにやっていくことが必要です。
例えば受け取り側として「それはもうちょっと助けてほしかったのに、助けてくれなかったので大変でした」「これは細かく指示されすぎだったのでちょっと窮屈でした」といったことを、部下から上司に対してフィードバックできるといいと思います。
また部下に対する上司の指示の加減がグッドだったのかバッドだったのかということについて、後から振り返って検証することを行っていけば、よい加減とは何なのかが見えてきます。
しかし、検証を重ねてもよい加減が見つかりにくい場合、両方極端にやってみて落としどころを探るという方法もあります。
要するに、少し多めに具体的に指示を出してみようという時期が一定期間あり、また一定期間、思い切って任せて口を出さないようにしよう、ということをやってみる。この両方の極端を経験することによって、良い落としどころやバランス感を探るやり方です。
指示待ち部下が自ら動き出す上司のひと言
——実際に指示待ちだった部下が、自分から動き出すようになったエピソードはありますか?
高橋:「自分が『君、質問が多すぎるよ』と指摘をするまで、たくさん質問してくれ」と、私はよく若手の方に言います。
部下からすると、自分がどれだけわからないのか、どう動いていいのか、ぜんぜんわからないことがあるわけです。 このわからないということに対して、本来は上司に一言聞ければ済むわけですが、それがなかなかできずにコミュニケーションの非効率となり仕事のパフォーマンスが上がらないことはよくあります。
そこで私は若手に対して、とにかく「自分が『もう質問しすぎて困るよ』と言うまでは、たくさん質問していいからね」と言うわけです。
そうすると何が起こるかというと、だいたい質問が足りないわけです。 私は「もっと質問してくれ」「もっと聞いてくれ」と言います。 次第にコミュニケーションが過剰になってきます。そうすると、何がわからなかったのか、何がやりにくかったのか、だんだん解消されていくわけです。
そしてある地点から、「自分はなるべく関与しないで任せていくようにするからよろしくね」と合図を出します。 これはその前の段階である程度、たくさん質問しすぎるぐらいの時期があったからこそ活きてくるわけなんです。
徐々に補助輪を外していくかのごとく、コミュニケーションを過剰にとる期間を経てから任せていくことによって、指示待ちになりがちなところが、自分で判断していいんだとなっていきます。
仕事ができる部下・できない部下の特徴
——これまで見てきた中で、仕事ができる部下の共通点はありますか? 反対に仕事ができない部下の共通点も教えてください。
高橋:やはり仕事ができる人は成果やパフォーマンスに非常に忠実です。 逆に、うまくいかない人は自分の小さな承認欲求を優先しすぎてしまう側面があります。
自分の小さな承認欲求を優先しすぎてしまうとはどういうことかというと、「こういうことをしたら自分が褒められるかな」とか、「こういうことをしたら自分ができない奴だと思われるんじゃないか」みたいなことが、仕事において頻繁に登場しすぎて、逆にそれがパフォーマンスを発揮することを妨げてしまう。これがなかなかパフォーマンスが出ない方によくあることです。
逆に仕事ができる方は、その成果やパフォーマンスに非常に忠実なので、自分がどう見られるかとか、評価される・評価されないみたいなことではなくて、何がお客さまのためなのか、何が成果につながるかということに対して非常にピュアに動けるなと感じます。
例えば、部下から上司に対して小さな答え合わせや検証を繰り返し行うことができる、 頼りすぎなのか自分でやりすぎなのか、このへんのさじ加減を自分で検証作業を繰り返しできる、といった人は総じてパフォーマンスが高いなという印象があります。
上司と部下の「信頼関係」をつくるには
——これまで周囲から相談を受けた中で、上司と部下の関係でよくある悩みを教えてください。
高橋:上司からすると、なかなか信じて任せきることができない、といったお悩みはよく聞きます。逆に上司に対して部下が思うこととしては、上司を健全に頼りきれないみたいなことがあったりします。要するに、信頼関係のお悩みですね。
信頼関係を育むということにおいて、もちろん時間は必要です。しかし、「実際、本音のところどう思っているの?」みたいなことをやり取りする機会そのものがなかったりするんですよね。 昨今だと、1on1などが解決策の1つではありますが、1on1をやっていても、実際にどう思っているかがお互いにわからないこともあります。
そこで、第三者が入ってお互い実際に思っていてもなかなか言えないことを聞いてあげるのは、1つの解決策かなと思います。 実はその第三者が間に入ることによって、意外と見えていなかった盲点が見えてくるみたいなことがあったりして、これが解決策として機能することもあります。
——高橋さん、ありがとうございました。