【3行要約】・細胞性食品は環境問題解決の可能性を秘めつつも、日本では法整備の遅れから海外へ投資が流出しています。
・吉富氏は「2025年に入りアメリカでの承認事例が増え、次の希望が見えてきた」と現状を分析。
・日本の食文化や在来種の保存、味のチューニングなど新たな可能性を開拓し、輸入国から輸出国へと転換するチャンスが細胞性食品にはあります。
前回の記事はこちら 淘汰を経て次の希望へ
——細胞性食品に関心を持つ企業は、潜在的には100社規模――。2019年から2021年のブームを経て淘汰期を迎えた業界ですが、2025年に入りアメリカでの承認事例が増え、次の希望が見えてきました。
環境問題への効果は牛肉で約8割の穀物削減。2030年は高級路線、2040年頃にはスーパーでの販売も視野に入ります。吉富氏が描く未来には、日本の在来種の細胞保存や、カカオの「味のチューニング」など、食の新しい可能性が広がっています。
関心企業は100社規模
藤井創(以下、藤井):先ほどの話で、消費者にはちょっとまだ早いけども、企業であったり食品に関わる人たちは、もうそろそろそこらへんはちゃんと理解したほうがいいんじゃないか、みたいなところがあると思うんですけど。
そこって今、企業の人たちにはみんなけっこう賛同してもらっている感じではあるんですか?
吉富愛望アビガイル氏(以下、吉富):肌感覚なんですけど、例えば実際にJACAにも入ってくださっている企業さんって、日本の会社さんは40社ぐらいなんです。トータルでは50社程度はいるんですけど。ただたぶん、もうちょっと関心度は低いんだけれども、触手をちゃんと伸ばしているっていう意味だと、その2~3倍はあるんじゃないかなとは思っています。
ただ当初、日本企業が続々参入を発表したのが、だいたい2019年から2021年ぐらいの、本当にコロナ禍ぐらいの間だったんですね。その時がたぶん一番関心が高くて、そこからなかなか販売事例が思ったように世界で蓄積されていかないっていうところで、1回トーンダウンした。
で、最近今年(2025年)に入ってから、アメリカでの事実上の販売承認事例がポコポコ出てきたっていう感じで。淘汰の時代を経て、今もまだちょっと淘汰中なんですけど、ただその次の希望が見えてきたようなタイミングなのかなと思っています。
その中で約40社、もしかすると潜在的には100社ぐらいの中で、大企業として社内でどのように継続的に細胞性食品、細胞農業にリソースを割く説得ができるかみたいな。もうちょっと様子見で「あと2~3年放置しておいて、また話題になったら戻ってきます」みたいな会社もたぶんあるかもしれないですし(笑)。
日本の法整備に時間がかかっているので、先に海外で事例を作るっていう、海外の販売とか海外企業に投資という人たちも出てきています。
もともとオールジャパンみたいな考え方だったのが、最近はちょっと短期的には外資にお金が流れちゃっている状態なんです。海外投資とか海外に工場を作るとか、海外で販売するとかっていうオプションも考え始めてきているみたいですね。残念ながら、私どもの実力が及ばなくて、というところですが。
藤井:今は海外ですけど、日本でもそういうことが行われて、日本発のものがいろいろ出てくるような時代というのは来そうですか?
吉富:はい、そう思います。日本の会社さんも結局、最終的にはやはり日本の市場で売りたいと思うんですね。それは日本市場が一番、外資と比べてレピュテーションを武器にして戦いやすいですし。
今までの日本の大手さんって、日本で実績を出してから海外にってパターンだったので、日本で実績がないままっていう考え方そのものに、そんなに馴染みがないというか。最後は日本に持ってきたい、というのはあると思いますね。
藤井:なるほど。日本発のものがいろいろできてくるのかなとも思いつつ、ちなみに先ほど2019年から2021年の間で1回盛り上がったっておっしゃっていたじゃないですか。それって何か原因とか理由はあったりするんですか? コロナがやはり理由だったりするんですか?
吉富:確か2020年ぐらいにシンガポールでの初めての承認があって、あと2019年もアメリカのFDAとUSDAで役割分担が発表されたりしたので。一部の国、アメリカ・シンガポールでかなり議論が進んだり、承認事例が出てき始めたところが大きいかなと思います。
藤井:なるほど、わかりました。
資源効率性は牛の8割削減 環境問題へのインパクト
藤井:それで、さっきSDGsがちょっと出てきたので環境の話になるんですが。
例えば今の若い人って、環境問題にすごく興味を持っている子が多かったりすると思うんです。そういう人たちが細胞性食品に環境問題として興味を持って、例えば高校生が聞きに来た場合は、どういう効果があるみたいなことを話したりしますか?
吉富:やはり資源の効率性が高いっていうところが大きくて。同じ資源があった時にできるお肉の量が、牛を介した場合と細胞性食品の場合、牛だともともとの資源に対して本当に数パーセントぶんしかタンパク質ができない。
けれども細胞性の食肉の場合は70パーセントぐらいの変換率になるので、引き続きもともとの穀物は輸入しなきゃいけないかもしれないんですけれども、そのぶん輸入の依存度が下がったりとか。あとは従来の食肉生産でのボラティリティを、少しでも抑える素材として使えるんじゃないか、みたいな話はしています。
従来のお肉に比べて鶏肉の場合は47パーセントぐらい、牛の場合は8割ぐらい必要な穀物を削減できるっていうところがあるので、よくその数字を使っていますね。