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食の革命 - 細胞性食品が描く持続可能な未来(全3記事)

「普通の肉も実は人工的」細胞性食品への違和感を変える視点 日本が世界のルール作りをリードできるワケ [1/2]

【3行要約】
・細胞性食品は「人工的」という先入観があるものの、日本人のSF文化への親しみや従来の食肉生産の実態理解により、新たな食の選択肢として受け入れられる可能性があります。
・吉富氏によれば、細胞性食品は食料安保強化や伝染病リスク回避だけでなく、ウナギやウニなど希少化する食材の代替として食文化を守る役割も担えるとのこと。
・過去の遺伝子組換え食品の教訓から、消費者の信頼を得るためには明確な制度設計が不可欠であり、日本が食の信頼性を活かした国際ルール提案をリードすべきだと提言しています。

前回の記事はこちら

「人工的」への抵抗感 日本人のサイエンスフィクション受容性に期待

——「人工的に作られている」というイメージが先行しがちな細胞性食品。しかし吉富氏は、日本人のサイエンスフィクション受容性や、実は従来の食肉生産も人の努力で成り立っているという事実から、消費者理解の可能性を探ります。

食料安保の観点では、動物の伝染病に左右されない生産方法として注目される一方、ウナギやフォアグラなど消えゆく食文化を守る選択肢にもなり得ます。なぜ制度設計が重要なのか。過去の遺伝子組換え問題を振り返りながら、日本発のルールづくりへの期待を語ってくれました。

細胞性食品をどういうナラティブで伝えていくか

藤井創(以下、藤井):私が最初にいわゆる細胞性食品を知ったのは、たぶん10年ぐらい前か、ちょっと前ぐらいか。わからないんですけど、美術館かなにかで未来のことをやっている展示があった中で。

私はそもそもテック系のメディアをやっていて、テクノロジーにすごく興味を持っていたので、そういうので「未来にはこういうのがあるよ」みたいに(培養肉が)出ていて。

それを見ていて、技術的にすごいな、とも思ったし、今はこの展示ぐらいだけど、将来的にはもっと大きくなっていくだろうな、とは思っていたんです。

でもそれって、私はそれを見ていたからなんとなく馴染みがあったと思うんですけど……なかなか一般の人には、「細胞性食品ってこういうものだよ」って言っても、そもそも拒否反応が起きやすいかなとも思ってもいるんですよ。

要するに「人工的に作られている」みたいなイメージが強くあると思うんですけど、そこってやはり払拭していかなきゃいけないことであったりはするんですか?

吉富愛望アビガイル氏(以下、吉富):そうですね……ちょっとここも含めて、今年度は細胞性食品をどういうナラティブで伝えていくかみたいなところは、外部の専門家の方も入れて検討しようかなと思っているんですけれども。いくつかやり方はあるかなと思っていて。

今相談しているブランディング会社の方の受け売りではあるんですけれども。日本の消費者の方って例えばアメリカとかの海外と比べて、ロボットとかサイエンスフィクションに対する需要がもともとあると。『鉄腕アトム』だったり『ドラえもん』だったり。

アメリカでも映画で『アイ,ロボット』ってあったじゃないですか、ロボットが人間を駆逐するみたいな(笑)。でもああいう考え方とはまたちょっと違うところが(日本人には)あるので、そういう遊び心に訴えかけていくっていうのが、1つあるかなと思っています。

あとは従来の生産方法が自然だ、という考え方にも、細かく見ていくとけっこう「人の血と汗と涙の結晶」みたいなところがあるじゃないですか(笑)。

きちんと子牛を産んでくれなきゃいけない。人工的に受精させたりとかっていう努力もあれば、お肉ではないですけど、例えば乳牛にちゃんと妊娠してもらわないとお乳が出ない。なのでじゃあ、その妊娠している間のお腹は、黒毛和牛の子どもを育てるのに使おうとか。

実はナチュラルだと思って享受していたものも、いろんな人の努力によって成り立っているみたいなところがある。別に「だから実は人工的です」って言いたいわけではなくて、天から降りてきているものじゃないというか(笑)。

なのでちょっと答えにはなっていないんですけど、たぶんこの分野の議論を伝えていくことで、今の生産者さんがどれぐらい大変なのかにもきちんと焦点を当てるというか。

そんな中で従来のお肉も、本来はもっと高いはずっていう認識を持ってもらったほうがいいような気がするんですよ。もっと貴重なものなんだけれども、いろんな方の努力で比較的安くスーパーにも並んでいるっていうだけで。

前提は壊れ得るんだっていうところも含めて、たぶん食の分野の理解を促進していったほうがいいのかなと思います。その中で、ちょっとずつ変わってくるようなものなのかな、というふうには思いますね。

藤井:確かに馬の血統とかも人工的だったりしますし、あとよく言われるのが里山とか。人間が手を入れているから里山だ、みたいな。そういうことなのかなって、今聞いていて思いました。

食料安保の切り札に 伝染病に左右されない生産方法

藤井:それこそ肉肉学会(編注:食肉を愛する人たちが集まり生産から消費まで、さまざまな分野における専門家や愛好家が議論する学会イベント)とかに私も参加することがあるので、見ていてすごい努力をしているんだな、おいしいお肉を作るのは大変なんだなっていうのは、もちろん思っていたんですけど。今おっしゃったように「今の状態が普通じゃないんだよ」というか。

値段の問題もあるし、例えば今後の食料問題とかもいろいろ出てくると思うんですよね。それはやはり日本に限らずですけど、人口が増えてきたりとか、あとは自給率の話も。

今は牛はいますけど、それもいつまでいるのか。もしかしたら、なにかの拍子で育てられなくなる可能性も、ぜんぜんあるとは思うんですよね。そういった時に細胞性食品というのは、有効な手段と言えるものなんでしょうか?

吉富:そうですね。不確実なところも含めて、特に安保という観点で関心を持っている側面としては、単位面積あたりのタンパク質の収量がどれぐらいになるのかっていうところが1つと。

あとは、動物の伝染病とはまた独立して生産できるっていうところがあると思うんですね。それは家畜伝染病の予防法で、法律上どう解釈されるかに関わってくるので、一概には言えないんですけど。

例えば、ハンガリーの領事館の人が言っていたんですけど、特にヨーロッパって陸続きなので、近隣の国で豚のコレラとかが発生すると、陸続きの我が国(ハンガリー)からも日本に輸出できなくなる。

なので結局ハンガリーの豚を日本に持ってきて、日本でハンガリーの種の豚を育てている。「マンガリッツァ」っていう髪の毛くるくるの豚ちゃんがいるんですけど、ハンガリーの国宝って呼ばれています。

フランスで鳥インフルが発生したので、フランス産のフォアグラが輸入できなくなったとか。もしかしたらそういう伝染病によらずに、その国の細胞であれば持ってこられる、みたいなところがあるかもしれないなとは思いますね。

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