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食の革命 - 細胞性食品が描く持続可能な未来(全3記事)

親に内緒で東大院退学、投資銀行も辞めた 吉富愛望アビガイル氏が細胞農業のルールづくりに人生を賭ける理由 [2/2]

副業か専業か 細胞農業研究機構への転身を決めた経緯

藤井:そこから、キャリア的には投資銀行をお辞めになって、こちらに専念するってなったと思うんですけど、ここは迷いとかはありましたか?

吉富:本当は私の器がもうちょっと広ければ……(笑)。副業というか、そういうかたちでこっちのJACA(細胞農業研究機構、細胞性食品等のルール形成を行う団体)をやりつつ、例えば細胞農業の分野の海外企業の買収とかで日本企業のサポートをしたかったんですけど。

体力も頭もぜんぜん追いつかなくなったので(笑)。かつ、両方やることによる周りからの目もあんまり良くなくて、両方とも中途半端になっちゃうので。特に当時勤めていた会社の方とか、フルタイムで仕事していても大変な分野なのに、ほかにもやっていると真剣じゃないんじゃないか、っていう目もありました。

もちろん給料の心配とかはありましたけど、あとから振り返ってみると、そこまで悩みはなかったかもしれないですね。

藤井:私もフリーランスになったりもしているので、こういうキャリアの変更ってけっこう、悩んだりはすると思うんですけど。

吉富:そうですね。でもまだ捨てるものがないと思っていたので、そんなに(笑)。投資銀行でいろいろ教えていただいた結果、今決算の時もちゃんと乗り越えたりできているので(笑)、本当に当時勤めていて良かったなと思います。

藤井:じゃあこのお仕事に移られた時には、こういう苦労があったとかっていうのは何かあったりしますか?

吉富:2019年の12月に法人登記をして、実際の会員さんを募集し始めたのは次の年からだったんです。なので給料は5ヶ月分ぐらいは何も支払われずという感じで、次の年度に入ってから(笑)。

当時は投資銀行を例えば週に何回とかにして、最前線じゃなくて裏方のリサーチャーとかで続けながら、細胞農業をやる可能性もあるかなって思っていましたし、当時の上司もいろいろ考えてくださったんですけど。結局もともと2つのことを同時にやれるほど器が大きくなくて(笑)。

これ、前にもあったんですね。東大の院の1年間にブロックチェーンの会社のインターンをやっていて、かつ本業であるはずだった院生自体の研究に行き詰まりを感じていて。その院の1年が終わったあと、親に内緒で勝手に退学届けを出して辞めたんです。

両親はマスターを取っておいたほうがいいし、もともと東大にも行きたくてせっかく入ったので、休学届を出してっていう話もあったんですけど。両方とも宙ぶらりんなのが嫌だったので、勝手に出して怒られたんです。出して3日ぐらいでバレましたね(笑)。

藤井:(笑)。バレた時は親御さんは何か言っていたんですか?

吉富:今でも母の声色を覚えているんですけど、仕事で会議中に母から電話がかかってきて、出たらけっこう涙声で。親不孝だったんですけど……(笑)。だって学業のお金とかも親が出してくれていたのに、勝手に辞めて。

「なんでそんなことをするんだ」みたいな感じで言われて、実はたぶんそれが初めて自分でちゃんと考えて動いたことだったみたいな。今までは親の言うことをずっと聞いていたんですけど、その時が初めてだったので、向き合い方がわからなくて。

当時は実家住まいだったんですけど、親が帰ってくるまでに荷物を運び出して、そのまま3ヶ月音信不通になって(笑)。友だちの家に転がり込んでっていう時期がありましたね。今考えると本当に申し訳なかったです。

藤井:(笑)。でも今は、もうやられていることは認めてもらっている?

吉富:はい、今はもう。昨日も実家に帰って秋刀魚をご馳走になりました(笑)。

藤井:そうですか、良かった(笑)。

「培養肉」から「細胞性食品」へ 消費者理解は製品が出てから

藤井:今やられている細胞性食品のところなんですけど、それこそ、この前のお話を聞いていて、培養肉ではなく「細胞性食品」という呼び方にしましょう、って話だったと思うんですけど(編注:JACAの呼びかけで、フードテック官民協議会細胞農業ワーキングチームにおいて、いわゆる「培養肉」等と称されてきた「培養細胞を原料とする食品カテゴリ」について、消費者等の一般社会に向けた発信においては「細胞性食品」という名称を基本とする方針が決められた)。


どんなものでもそうだと思うんですけど、今ある既成概念を変えるというのがなかなか難しいと思うんです。いわゆる細胞性食品そのものもたぶん、そんなに世の中が知っているわけじゃないですよね。

吉富:ないですね、はい。

藤井:さすがに植物性のお肉とかも食べられ始めてはいると思うんですけど、でも未だに「お肉って動物から作るものだよ」みたいな固定観念がある。そういうのってどうやって崩していこうとかっていうのは、何かあったりはしますか?

吉富:こればっかりは、相手がいて初めてのところだと思うんですけれども、そういう消費者の方との対話って結局、製品が出てこないとなかなか進まないところだと思うんですね。

例えば消費者団体さんとかにも、こういう分野があって、消費者庁でも議論が進んでいる、ということを話にいくんですけど。

「実際に見てみたい」とか「工場に行ってみたい」とか「食べてみたい」とか言ってくださるんですけど、それをやるにはシンガポールまで行かなきゃいけなかったり、国内の工場もそんなに企業数があるわけじゃないので、かなりの長旅になってしまう。

なので、おそらく消費者に、本当に実感して理解していただけるのって、もっと先。それこそ今消費者庁がルールを作って、来年出てきたとしても、そのガイドラインに沿って何かしら企業がアクションを起こして、省庁間がすり合わせて、となるとたぶん2〜3年ぐらいかかるんじゃないかなと思っています。

なので、まずは2〜3年のうちの、業界内での対外向けの発信に関しては、言葉を揃えましょうよっていうところを考えています。

で、より具体的に製品が見えてくると、消費者にとっての価値がもっとクリアになってくると思うんですね。例えば、これはあんまり良い例じゃないんですけど、昔、書籍で『クリーンミート 培養肉が世界を変える』っていうものがあったと思うんですけれども(編注:クリーンミートは培養肉の別の呼び方)。

これはなぜクリーンかっていうと、無菌状態で培養しないといけないので、従来の食肉よりも実は菌が付着している可能性が少ないっていう意味合いでのクリーンミートなんです。「クリーン」っていうのは「普通のお肉が汚いのか」みたいになっちゃうから、あんまり良い名前じゃないんですが(笑)。

こんな感じで大手の、コミュニケーションに長けている食品会社さんもいるので、たぶんそういう方々が具体的な製品でもってコミュニケーションを推進していくのかなと思っています。なので、その間のシフトのところは、業界で足並みを揃えて用語を統一していく。

消費者の方に直接わかっていただくのは難しいかもしれない。そこまで期待するのはこちらのエゴかもしれないんですけど、少なくともこの分野に関心を持っている……例えば栄養士さんとかお医者さんとか、もしくは食品会社さんとかが同じ言葉を使う、というところを今は考えていますね。

(次回へつづく)

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