【3行要約】・銭湯は年7軒ペースで減少し続け、物価統制令や高齢化、人口減少という三重苦に直面していますが、若者たちは独特の空間性とコミュニティに魅力を感じています。
・湊三次郎氏は「銭湯が減っていくことは歯止めが効かない」と断言し、10年後には若返りに成功した店舗のみが生き残ると予測。
・銭湯文化を守るには、インバウンド頼みではなく日本人の日常生活に根ざした価値を大切にし、唯一無二の公共空間としての役割を再認識する必要があります。
前回の記事はこちら 消え続ける銭湯の未来
——「銭湯が減っていくことは、もう歯止めが効かない」湊氏はそう断言します。現在、京都府内には70数軒の銭湯がありますが、10年前から約70軒が姿を消し、年7軒ペースでの減少が続いています。
物価統制令による料金制限、高齢化する経営者、人口減少という三重苦の中で、それでも湊氏が銭湯文化の継承にこだわり続ける理由とは何なのでしょうか。業界の構造的課題から若者が銭湯に惹かれる理由まで、銭湯の未来と文化的価値について湊氏の想いを聞きました。
入浴料550円の現実「物価統制令が残る最後の業界」
藤井創(以下、藤井):私もやはり銭湯によく行くので、銭湯文化として残ってほしいなという思いもすごくあるんですけど。銭湯を残すことの大変さはやはりすごく感じていて。ところで、京都だと今入浴料っていくらでしたっけ?
湊三次郎氏(以下、湊):550円ですかね。
藤井:これって全国で違うんですか?
湊:各県ごとですね。唯一まだ物価統制令が効いているのが入浴料なんですけど、都道府県によって上限が定められている感じですね。下限は一応ないので100円とかにしていいんですけど、上で揃えようというのが組合の方針なので、そういう流れです。
藤井:その入浴料でやっていかなきゃいけないというのが大変だなとは思いつつ、これはちょっと人によってなんですけど、入浴料が高いのか安いのかみたいな話になってくると、人によっては高いという人がいるし。
私はむしろ安い、スーパー銭湯と比べればぜんぜんだと思うんですけど、そういうところって湊さん的にはどう思われますか?
湊:銭湯、一般公衆浴場の意義としては、物価統制令下で縛られているのは市民の公衆衛生維持のためというところで、貧しい方でもお風呂にちゃんと入って衛生が保てるようにというところが大義です。
そこから考えると低所得者の方とか、極端に言えばホームレスの方とかにとっては高いかもしれないですね。ただ、今の若い子たちが高いかと思うかというと、「いくらです」って言うとけっこうな確率で「やっす!」って言う(笑)。
銭湯を知らない世代からすると安い。でも昔から知っている世代からすると、数百円で入れた時代を知っているので、それからしたら何も内容が変わっていないのに値段だけ上がっているという感覚はある。それは「高っ!」って思われるかもしれない。
難しさはありますけど、それなりのクオリティは出したいですし、とはいえ最低賃金の半分くらいの額でだいたい設定されているので。全体的な物価が上がっていて、昔と金銭感覚が変わってきているから、それを基準に考えてほしいなとは思うんですけどね。
知らないうちにラーメン屋でも1,200円とか、コンビニでちゃんとサラダも買って、ジュースとかも買ったりしたら1,800円くらいいくじゃないですか。今まで1,000円以内で収まるくらいだったのが、もう「え?」という。
だったらちゃんとしたレストランに入って1,800円くらいのプレートを食べたほうがいいや、ってなるような時代ではあるので。その中で銭湯ってまだ、確かにずっと使っているユーザーとしては感覚的には高くはなっているけど、でも全体を見渡したら……「同じやん」というところはあってほしいなって(笑)。
従業員90名の多くが2000年前後生まれ「お風呂好きではなく銭湯空間に魅力」
藤井:ゆとなみ社さんとして、従業員は80人ぐらい?
湊:90名近く、80〜90人ですね。
藤井:年齢層的にはやはり若い人が多いんですか。
湊:そうですね。ちょっと平均はまだ出せていないですけど、たぶん20歳後半くらいで、ほとんど20〜30代。ボリュームとして一番多いのが1999年生まれ、2000年前後くらいが、会社の中で今すごくボリュームが多いですね。
藤井:それはみなさん、銭湯が好きで入社されたんですか。
湊:好きで、というところですね。
藤井:若くして銭湯が好きになる、銭湯の奥深さに気づくというのは、何がきっかけになるんですか?
湊:何なんでしょうね……でもやはり銭湯に行ってみて、そこでの独特な空気というかコミュニティというか。そういう場所があるというのが、もしかしたら、僕らも彼らと10個くらいしか違わないのでアレですけど、何か得るものがあったとか。
コミュニケーションの取り方だったりとか、そういうものが「いい」という感覚がやはりあるんでしょうね。知らない人同士でしゃべれるとか、優しい気持ちになれる。
みんなの話を聞いていると、温浴が好きという感じではないですね。お風呂が好きというよりは、町にある銭湯という空間で振り広げられる交流だったりとか、そういう空間の重要性みたいなところがけっこうみんな好きなのかな。
藤井:その中で繰り広げられるものというか、いろいろなお客さん同士のコミュニケーションとか。
湊:あとはコミュニケーションだけじゃなくて、ちょっとそういう公共空間的なところ。けっこう銭湯に代わるような空間がないんですよ、本当に。酒場も限定的ですし、図書館はちょっと違うし。
銭湯って唯一無二の空間なんですよね。全員裸というシチュエーションもメチャクチャ変なことですし(笑)。そこの場所で管理者である銭湯の人たちが、一応管理はしているんだけど直接介入しないかたちで放置されて、そこで入浴という作業を共同的に行う。
そう考えたらけっこう難しい条件が重なっているんですけど、それをなんとかみんなでうまいことやっていく空間。それがポッとできたわけじゃなくて、50年、100年ずっと地域に続いているという流れがあって、どの世代も知っている空間性って本当にほかにないんですよね。
スーパー銭湯って歴史がまだ30年とかで浅いですし、数が多かったりするので。コアなところはあるのかもしれないですけど、そこでお客さん同士の面識は薄いじゃないですか。
銭湯はやはり近所に住んでいる方がメインなので、そういうつながりを感じられる場所なのかなと。
藤井:裸同士というのもそうですし、本当にあまりほかにない空間かなと思いますね。