「ハード改修なし、ソフト重視」ロビー改装のみで集客倍増の秘訣
藤井:今言った愚直にやっていく部分もありつつ、例えば老朽化とかいろいろ、建物的にちょっとリニューアルしたりとかということもやられたりはするんですか?
湊:ロビーの改装だけですね。お金がなくて浴室とかはできないので、ロビーの改装と、あとは裏の設備。最低限長く保つようにということで、そこだけやりますね。
藤井:ロビーの改装というのは、番台形式をやめるとかですか?
湊:そうですね。番台形式をやめて少しロビーに物販エリアを作ったりとか、人が座ってくつろげるようなスペースを作るくらいのことです。
藤井:私もこの前、京都の「玉の湯」さんに行ったら物販がいっぱいあって(笑)。
湊:「玉の湯」さんも前は違ったんですけど、ちょっと相談があって、うちがやった2号店を参考にロビーを改装しています。
藤井:そうなんですね、いろいろなものがあるなと思って、出てすぐ買っちゃって(笑)。いいなと思ったんですけど。
もちろんお金の問題はあると思うんですけど、浴室は改装しないというのは、やはり古き良きところも残しつつ、みたいなのもあるんですか?
湊:まぁでも、お金の問題が大きいですよね。そこのお金はけっこう、本当に2,000万円以上かかるので、どこまでやるというのもあるんですけど、それだったらちょっと違うところにお金をかけたほうがいいかなって(笑)。
別に今までやってきた銭湯、梅湯もそうですけど、昔のままで集客が取れているので。浴室は、なんにも変わっていないんですよ。LEDにしたとかそのくらいのレベルで、ほかはなんにも変わっていない。それでお客さんが増えている。
銭湯の肝、一番お客さんが長くサービスを受ける部分ってそこではないじゃないですか。ハードの部分を何もしなくてもお客さんが増えるってことは、結局問題はそこではなかったと。
銭湯の商売をしているお風呂屋さん側は「古い設備だから来ない」とか言うんですけど、そこじゃないですよ。けっこうマインドの問題というか、ソフト面の問題がかなり大きい。
掃除が行き届いていないというのもソフトの問題ですし。そりゃサウナのある・なしも、もちろんありますよ。でも、サウナなしで本当に小さい銭湯で「本当にこれ集客取れるの?」というような場所でも、売上が月に200万円とかいくので。もともと本当に始めたての時は、60万円とかそのくらいだったんですけど。
だからそういう問題じゃなくて、とにかくソフト面の改善で銭湯は伸びる。お客さんたちはそのハードでぜんぜん満足できる。
よくよく考えたら地方の温泉ってけっこう古くて、それでも満足して「また行きたい」ってなるじゃないですか。だからハードの新しさとか斬新さとかというのは、人々はあんまり求めていないですね。
藤井:そうですね。それが古いから行かない、ってならない。
湊:不潔だったらダメですけど、不潔じゃなくてきれいにしていて、最低限の……シャワーがぜんぜん出ないとかそういうものじゃなくて、不快に感じないようなかたちで利用できるのがあれば、お客さんは来ます。
藤井:そうですね。別に種類がいっぱいあるとかでもなくても。種類がいっぱいあるのに行きたければスーパー銭湯に行けばいい。
湊:そうなんですよ。おっしゃるとおりで、だったらスーパー銭湯に行けばいいじゃんって。そうじゃなくて、じゃあわざわざそこに来る理由は何って言ったら「なんとなく雰囲気がいい」とか「店員さんがいい」とか、そこから常連さんの雰囲気もいい。
そういう人間的な部分が大きいので、うちのやり方としてはそこをちゃんと育てていこうという方針でやっていますね。
業界の常識を変えた第三者承継「やめるか続けるかの2択時代終了」
藤井:お金の問題もありつつも「ここは変えなくてもいい、ここは変えたほうがいい」。今言ったソフト面は変えたほうがいい、ハード面は別に変えなくてもいいみたいな線引きというのは、やはり都度都度見ながら考えるんですか?
湊:そうですね、それは都度都度見ながらですね。本当に将来的には躯体の問題にもなってくるので。いつかは更地にしてまた建て直さなきゃいけない時期が来る。その時はその時かなと思っています。現状は今のものをうまく使っていけば、商売としてもぜんぜん成立すると思っています。
藤井:なるほど。銭湯をやっていくといろいろなご相談を受けると思うんですけど、最初のほうで少しおうかがいした「親子代々つないでいく」みたいなところで、やはり後継者不足みたいなのがあったりはすると思うんです。そういう問題に対しては、窓口になることはあるんですか?
湊:そうですね……ただ誰かにそれをマッチングさせていくところまではできていないんですけど。「うちでやらないか」とか「うちでやります」ということくらいでしかない。
でもやはり銭湯の方たちも、僕が始めてから10年間で、僕みたいな第三者がやる会社が何軒か出てきて、そこも複数軒やっていたりとか。そういう事例を見つつ、個人でも第三者が入って継業しているところが何軒か出てきて。
それまでは本当に業界内で第三者がやるというのが、選択肢として出てこない。今ようやく、なんとなく「その筋もあるよね」というのをフワッと知っている銭湯の人たちがいる状況です。
今まではもう続けるか、やめて売るかみたいな、その2択。誰かに貸すなんてできない。家が一緒にくっついているのも大きいんですけど。そういう中で今やっているのが高齢の方で、息子さん・娘さんは別の仕事をして別で暮らしている。
じゃあそこをやめて、そのあとお父さんたちが亡くなったとして、相続になるわけじゃないですか。相続がもう近くなっているタイミングで誰かに貸すというのが、不動産の運用としてはぜんぜん良くないですよね。
例えば僕らも今借りている身なので、そこを今のオーナーさんが亡くなった時に相続になって「いや、そんな低い家賃では貸せない。売って金にしたい。ちゃんと兄弟で相続できるようにしたい」というところはあると思うんですよね。それはもう当たり前だと思うので、そこのハードルはかなりでかいなと思っていますね。
藤井:なるほど。東京でも繁盛しているのに急にやめちゃうのは、やはり後継者問題なんだな、みたいなところがありますね。
湊:結局銭湯の仕事もその家系で育ってきている人たちはちっちゃい頃から見ているので、ある程度儲かっても「このしんどい商売は……」とか。東京だと売ったほうが明らかにお金になることがわかるので(笑)、それはそうでしょうという。
だから今続けている方は本当に地域のためだったりとか、自分の生きがいとして、生き様として銭湯をやっているということなのかなって思いますね。
(次回へつづく)