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井手直行氏インタビュー(全3記事)

“スタッフ総スカン”から始まった信頼の再構築 終わりなきチームビルディングの哲学と実践知 [1/2]

【3行要約】
・信頼関係は時間をかけて積み重ねる「貯金」のようなもの。しかし崩れるのは一瞬という、チームづくりの難しさに多くのビジネスパーソンが直面しています。
・ヤッホーブルーイング代表の井手直行氏は、かつて社内で「総スカン」を食らった経験から、誠実さとWin-Winの関係構築の重要性を痛感しました。
・井手氏は「チームづくりに終わりはない」と語り、諦めずに取り組み続ければ、どんな組織も必ず良い方向に変わっていくと強調します。

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自己開示の度合いは人それぞれ 土台は共有価値観

——先ほど、チームビルディングの中ではある程度の自己開示が必要だというお話をされていたと思います。

ただ、これは世代に限らずだと思うのですが、人によっては「仕事は仕事」「プライベートはプライベート」ときっちり分けて考えていて、「仕事上でそこまで必要以上に仲良くなる必要はない」と考える方もいらっしゃるのかなと思います。そういった考え方について、特に気になったり、何か感じることはありますか?

井手直行氏(以下、井手):もちろん、仲が良いに越したことはありません。ただ、すべてのプライベートをオープンにしているわけでもありませんし、仕事が終わったあとも特別に仲良くすることをお願いしているわけでもないんです。

ただやはり、ある程度の自己開示がないと、仕事上の関係だけではうまくいかないと実感しています。だからこそ、「自分の人となりも伝えながら一緒にやっていこう」といった考え方に共感してくれている方だけに入社してもらっている、というのが大きいと思います。

もちろん、自己開示のレベルには個人差があります。かなりオープンにされている方もいれば、「このくらいまで」と線を引いている方もいます。ただ、それぞれに違いはあっても、基本的な価値観は共有できているので、大きな問題になったことはありません。

うちの経営理念の中には、「顧客は友人、社員は家族」という言葉があります。もちろん、本当の家族ではありませんし、公私をきっちり分けるスタイルを否定するつもりもありません。ただ、私たちの会社はそういったスタイルとは少し違っています。

スタッフ同士、お互いのプライベートなことも気にかけ合ったり、仕事だけの関係にとどまらず、困りごとの相談に乗ったり、一緒に飲みに行って思いきり笑い合ったり。そういった関わりを大切にしています。お互いをしっかり理解し合った上で信頼を築いていく、そんな関係性を重視している会社です。

ですから、そういった考え方に共感して入ってきてくださっている方が多く、ベースの価値観に大きなズレが生じにくいのではないかと思っています。ただ、「これが絶対に正解だ」「うちのやり方が正しい」と思っているわけではまったくありません。あくまで、私たちの会社はこういう価値観やスタイルを大事にしている会社だということです。

わかりやすく言えば、外資系のコンサルティングファームのように、「仕事は仕事」ときっぱり割り切って、効率を最重視し、会社を出たら仕事のことは完全に忘れる。そういうスタイルを徹底している企業もありますし、それはそれで本当にすばらしいと思います。

でも、私たちの会社はその考え方とはかなり異なるスタイルなんです。だからこそ、もしそういった価値観を持った方がうちに入ってきてしまうと、たぶんお互いにとってすごく大変なことになってしまいます。

ですので、「うちの会社はこういう文化ですよ」「それに共感できる方に来ていただきたいです」といった話は、面接の場でも、採用説明会の場でも、何度も繰り返しお伝えしています。


長い時間で積み上げ、瞬時に失う“信頼の貯金”

——井手さんにとって信頼とはどのようなものですか。

井手:信頼というのは、積み重ねていった貯金みたいなものでしょうかね。実は最近も得意先と対談をして、「信頼」という言葉をかけてくれたんです。

最近ある対談でご一緒した、とても大きな取引先の偉い方がいらっしゃるのですが、その方とはもう長年のお付き合いをさせていただいています。ご一緒にお仕事をすればするほど、成果がどんどん大きくなってきているんです。とても有名な大企業の方なんですよ。

それでふと、「なぜ、そんなに大企業の方が、こんな小さな会社である私たちと、ずっと一緒に取り組みを続けてくださるんですか?」と質問してみたんです。そうしたら、その方は「信頼ですよ」とおっしゃってくださいました。

「これまでずっと付き合ってきて、積み重ねてきた“信頼の貯金”みたいなものがあるから、ヤッホーブルーイングさんはそれを裏切らないと信じているんです」と。とてもありがたいお言葉でした。

信頼って、やっぱり時間をかけて積み上げていく“貯金”のようなものなのかもしれませんね。1日、2日、あるいは10日くらいでは、きっとなかなか築けないもの。でも、崩れるのは一瞬かもしれません。

だからこそ、日々丁寧に積み重ねていった信頼が、最終的には人と人との心をしっかりつないでくれるのだと思います。

誠実とWin-Win 日常行動が信頼をつくる

——社内でも社外でも信頼を積み重ねるために、日常的に意識しておいたほうがいいことはありますか。

井手:いろいろあると思うんです。まずは当たり前ですけど、誠実であることは大事だと思います。例えば、心の中で思っていることと、実際にやっていることが食い違っていると、どこかでボロが出てしまうものだと思います。

常に誠実でいて、思っていることをきちんと行動で示していけるようになるためには、人間として、なかなか難しい部分もあります。ただ、あまりにも心の中と行動が乖離していると、やはりどこかで表に出てしまうのではないでしょうか。

だからこそ「信頼」が大切だと思っています。まず、人としての信頼があることが前提ですし、加えてビジネスパーソンとしても正しい行動を取ることが重要です。

たとえ自分だけが利益を得られたとしても、それでは長続きしません。自分にも利益が出るのは当然として、相手の会社にも同じくらいのWin-Winのメリットをきちんと提供できること。それが信頼を築く基本だと思います。

 一方的に得をする“ひとり勝ち”のような構図や、相手を騙すような行為は、やはり良くないですし、そういった考え方では良い関係は築けないと考えています。

そういったところは、私たちもとても大事にしていますね。うちのスタッフも本当に、人としてもとても良いメンバーばかりです。何か変なことをしているというような場面は、今ではまったく見かけないですね。

ただ、一昔前までは、まだまだ良い組織ができていなかったこともあって、得意先に対して横暴な態度を取ってしまったり、商談の場では表向き良いことを言っていたのに、会社を出た途端にその相手を批判してしまったりすることも、少なからずありました。

そういった時には、「姿勢は行動や言葉に必ず表れてしまうから、良くないよ」といった声がけをしてきましたが、今はそうした機会もほとんどなくなってきたと感じています。

やはり、誠実であること。そして、お互いにWin-Winの関係を築くことを常に考えることは、とても大切なことだと思っています。それは、得意先のようなBtoBの関係だけでなく、ファンのみなさんに対しても同じです。

特に私たちのように、ビールを買ってくださる消費者の方々に支えられている会社にとっては、「いかに喜んでいただけるか」を常に意識する必要があります。ですので、消費者のみなさんを欺いたり、何かを隠したりするようなことがないようにするということは、私たちが日頃から強く心がけていることです。


チームビルディングに終わりはない

——マネジメントやチームビルディングを続けてきている中で、今も「これ、ちょっと難しいな」と感じる場面はありますか。

井手:あります。完璧にいいチームができて問題がなくなることはたぶん永遠にないんだろうなと思っているので、やればやるほど難しいなぁと思います。

ただ、私が言うのもなんですが、うちのスタッフは、普通の企業から見るとチームづくりのスキルがかなり高いと思いますし、いわゆるビジネスパーソンとしての人柄の良さもあると感じています。

やはり、そうした力は研修の積み重ねもありますし、共感して入社してくるスタッフが多いこともあって、本当に良い仲間に恵まれていると実感しています。外から見ると、「ヤッホーブルーイングって、すごくいい会社だね」「楽しそうだね」と言っていただけることも多いのですが、中にいると、当然ながらそのレベルもどんどん上がっていきます。

10年前と比べれば今ははるかに良くなっていますし、20年前に比べたら、もう夢のような環境だと思います。ただ、やはり今の状況にいても、みんなそれぞれ課題を感じていて、「こういう問題があるなぁ」「ああいう点がまだまだだな」と思うこともあります。そう考えると、チームづくりって本当に終わりがないんだなと感じます。

もちろん、いいチームをつくろうと日々がんばってはいるのですが、やはりうまくいかないこともあって、「どうしてこんなに難しいんだろう」と思うこともあります。人は感情の生き物ですから、理屈だけでチームができるわけではないんですよね。

例えば、こんな経験はありませんか? 正論を言われて「ごもっともだ」と思う一方で、なんだかモヤモヤしたり、ムッとしてしまったりすることってありますよね。

やっぱり人って感情の生き物なので、そこが厄介なところでもあるなと思います。いくら正しいことを言われても、あるいは正しい行動をとったとしても、感情の面で受け入れられない関係性だったり、ちょっとした言葉や態度で誤解を生んでカチンと来てしまうことはどうしても起きてしまうんですよね。

私自身、「こんなふうに良いチームをつくって、みんなに幸せになってほしいな」といつも思っているんですが、それでもやっぱり全員が100点満点になることはないですし、今までそういう瞬間があったかというと、なかったと思います。やっぱりチームづくりは難しいものなんだなぁと、しみじみ感じています。だからこそ、「この研修や取り組みは、きっと永遠に続けていくんだろうな」と思いますね。

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