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井手直行氏インタビュー(全3記事)

“スタッフ総スカン”から始まった信頼の再構築 終わりなきチームビルディングの哲学と実践知 [2/2]

どの現場にも残る火種 人間関係のリアル

——具体的に「終わりのない課題」というのは、例えばどんなものがあると感じていらっしゃいますか?

井手:わかりやすい例で言うと、外から見るとすごく和気あいあいと、一致団結してやっているように見えると思うんですが、やはり他の会社と同じように、人間関係の問題はところどころにあるんですよね。

それは、感情的に受け入れられないとか、仕事上で大きなトラブルがあって、それがトラウマのようになってしまったりといったケースもあって。いくらいいチームをつくろうとしても、「あの人はちょっと苦手」とか、「あの人は仕事できないのに口だけ出す」というふうに思ってしまう方が出てくることもあります。

だからこそ、信頼関係が100点に達することばかりではないですし、人間関係はやっぱり簡単じゃないなと感じますね。でも、それも含めて「人間とはそういうものかな」と思っていて。たぶん、これは永遠の課題なのかもしれません。

とはいえ、他の会社と比べると、人間関係のトラブルは圧倒的に少ないと思いますけどね(笑)。

——それは、周りの他の企業の社長さんたちからお話をうかがっていて思うんでしょうか?

井手:それに、実際に他の会社を見てもすぐにわかるんですよね。雰囲気がギスギスしていたり、全体的に暗かったり。「うちの部長は本当にダメで……」とか「あいつは仕事ができなくて」みたいな会話が、普通に飛び交っていたりするんです。そういうのが、ある意味で世の中の縮図なのかもしれませんね。でも、うちの会社ではそういった雰囲気はまったくありません。


“総スカン時代”がもたらした財産

——冒頭で社員さんから総スカンを受けたというお話があったと思いますが、総スカン時代があったからこそ得られた最大の財産は何ですか。

井手:やっぱり一番の財産は、「いいチームをつくりたい」という気持ちが人一倍強くなったことかもしれません。かつては本当にギスギスしていて、どん底の状態で、人がどんどん辞めていって、ボロカスに言いながら辞めていった人も少なくありませんでした。

その時私はまだ社長ではなかったのですが、「こういう職場は嫌だな」「これは本当に悲しいな」と何年も思い続けてきました。だからこそ、自分がトップになった時に「今度こそ改善していこう。いいチームをつくって成果を出せる組織にしよう」と心から思えたのだと思います。あの時のつらい経験があったからこそですね。

あそこまでひどくなかったら、ここまで一生懸命にやっていなかったと思います。実際、いろんな企業の方や組織論の専門家の方から「ここまでチームづくりに労力をかけている会社は、日本でもなかなか見たことがない」と言っていただくことがあります。

それくらい長い間ずっとやってきたのは、やはり過去に悲惨な状況を経験したからだと思います。あれがなかったら、たぶんそこそこで満足して、「チームづくりよりも売上だ」と考えていたかもしれません。もともとは、どちらかというとそういうタイプでしたから。あの経験があったからこそ、今の自分があるのだと思います。

心は折れても会社を見放すことができなかった

——井手さんが社長になる前は会社の雰囲気があまり良くなかったとのことでした。それでも、ご自身が会社を辞めようと思ったり、心が折れてしまったりすることはなかったのでしょうか?

井手:いや、たぶん心は折れていたんだと思います。もしかしたら、あの頃は軽いうつ状態だったのかもしれませんね(笑)。実は私、この会社が4社目なんです。前の3社は、どれもわりと気ままに入って、気ままに辞めていったんですが、今回の会社だけは、正直いちばんひどい状況だったにもかかわらず、辞めませんでした。

なぜ辞めなかったのかなと、今になって振り返ることがあります。というのも、前の3社はすごく人気のある会社だったんです。上場企業だったこともありますし、個人経営の会社もありましたが、いずれも業績が良くて、私が辞めてもすぐに後任が来るような会社でした。

業績も良くて人も集まる。だからこそ「私がいなくても大丈夫だろう」と、どこか気軽な気持ちで辞めていたんだと思います。

ところが、この会社では初めて、倒産の危機に陥るほど業績が悪化したんです。一応創業メンバーとして立ち上げた会社ということもあり、やはり思い入れがあったので、簡単に見放すことができませんでした。まだ何人か一緒にがんばっているスタッフもいたので、彼らを置いて自分だけ辞めるのは、あまりにも無責任だと感じました。

私はどちらかというと責任感が強いタイプなので、「歯を食いしばってでも、やらなければ」と思ったんです。これまでの会社とは違って、どん底の状況にある会社を見捨てられなかった。仲間を見捨てることなんて、私にはできませんでした。

それに当時はまだそれほど多くはなかったのですが、創業時から一緒に育ててきた「よなよなエール」という、うちの看板ビールのファンも確実に存在していたんです。

当時はまだSNSなどもなかったので、そういったファンの方からは、手紙や電話で声が届いていました。売上が下がっていた頃に、「『よなよなエール』をいつも買って飲んでいたのに、最近近くの酒屋さんで見かけなくなったんです。どこで売っていますか?」といったお問い合わせがあったんです。

その時は、「お住まいの近くでは今取り扱いがないのですが、少し遠くの〇〇スーパーではまだ販売されていると思います」とご案内したり、「もしよければ、こちらで電話注文を受けて通販でお届けすることもできますよ」とご提案したりしていました。

そうすると、「久しぶりに『よなよなエール』が飲めてうれしいです。がんばってくださいね」なんて言葉をかけていただけて……。

そんなファンの存在に触れた時、「これだけ思いを寄せてくれている人がいる中で、自分だけ去ってしまうのは申し訳ない」と強く思ったんです。一生懸命に取り組んできた商品が、たまたまうまくいかない時期にあたってしまっただけで、それを理由に投げ出すことはしたくなかった。だから、辞めることはできませんでした。たぶん心は折れてたような気がしますけど(笑)。


続ければ必ず良くなる “急がば回れ”を手放さない

——「チームビルディングって難しいなあ」と悩んでいるマネージャーの方は多いと思います。そうした方に向けて、心がけると良いことや、アドバイスがあれば教えていただけますか?

井手:まず、チームビルディングというのは、基本的には本に書かれているとおりで、やればやっただけ良くなっていきます。ただ、成果が出るまでには時間がかかるので、多くの人はその途中で諦めてしまうんですね。

でも、本当に良いチームをつくろうと思うなら、会社全体でなくても、自分の小さなチームだけでも。やはり「急がば回れ」という言葉を呪文のように唱えるくらい、焦らずに取り組むことが大切です。時間はかかりますが、諦めずに続ければ、少しずつ良くなっていきます。

難しいことではありますが、時間をかけてでも、諦めなければきっとチームは良い方向に変わっていくと思います。ぜひ、がんばってください。

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