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井手直行氏インタビュー(全3記事)

研修導入で起きた3年の社内分断 「特にありません」の朝礼が小さな成功でほどけるまで [1/2]

【3行要約】
・チームビルディングは重要ですが、その導入には社内の分断という壁が立ちはだかることも。多くの組織で変革への抵抗が生じています。
・ヤッホーブルーイング代表の井手直行氏は「3年かけて小さな成功体験を積み重ねることで、社内の分断を乗り越えられた」と語ります。
・「急がば回れ」を合言葉に、指示型から問いかけ型のリーダーシップへと転換し、多様性を活かした組織づくりを進めることが、真のチーム形成への道筋となります。

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社内研修が灯した“最初の火”と、予期せぬ分断

——自社にその研修を取り込むのはスムーズにいきましたか?

井手直行氏(以下、井手):いえ、研修が終わって、自分は「これが革新的だ」と思ったんですけど、どうやって会社に持ち込むかと悩みました。悩んだ末に、何を血迷ったか、「この研修は自分にもできそうだな」と思って、私が講師役で、見よう見真似で社内のチームビルディング研修をやり出したところがちょっと画期的というか(笑)。

社内のメンバーは当時20人ぐらいだったんですけど、私以外に7人が「一緒にそういう研修をやってみたい」と手を挙げてくれて。素人ながら一生懸命やったんですけど、もともと自分が講師役をやろうと思ってはいなかったので、研修の内容もよく覚えてないし(笑)。

スキルもないし、ただなんとなく「あの時こんなことを講師役の人はやっていた気がするなぁ」なんて振り返りながらやった研修がかなりうまくいったんです。参加してくれた7人にチームづくりの基本を伝えられて、火をつけるような意識変化がありました。それが、だんだん周りにも広がっていった。こんなきっかけがあって良くなっていったんです。



——社内で研修をされた時からすぐに社員さんの反応が変わった感じですか。

井手:そうですね。少なくともマインドが変わったと思います。「あ、こうやってチームはつくられていって、1人ではできないことが2人〜3人集まると、すごく大きな成果が出るんだ」というのを、みんなが研修の中で実感するんですよね。その人たちはまだうまくチームで仕事することはできないんだけど、私と同じように感触をつかんで、意識はだいぶ変わったんです。

ところが、あまり想定していなかったんですが、7人と私はそうやって「やった!」という達成感があるんですけど、他の人から見ると「何をやっているんだ、こいつらは」という感じだったんですね。業務時間中にやるから、「こんなに忙しいのに、研修なんかやって、いつ売上は上がるんだ」「いつ利益になるんだ」みたいなことを言われました。

「いやいや、そういう問題じゃなくて、活動していく中で、後から成果が出てくるんだ」と言っても、誰もそんなことを理解できるはずもなく、ただ遊んでいるような研修に見えてしまって、そこで分断しちゃったんですね。

——想定していなかった分断ですか。

井手:研修を受けた人たちと研修を受けていない人たちで、溝がバーっと開いていました。「チームづくりなんて意味がない」と言う人たちと、「いやいや、これは大事だから、少しずつみんなでやっていこうよ」と言う人たちに分かれてしまったんです。

僕は「もうこれしかないな」と思っていたので、そのメンバーと1個1個現場に広げていって、いいチームができるようにする取り組みをしぶとくやっていったんですけど、やっぱりけっこう長い間、この溝は埋まらなかったですね。

分断の3年間 小さな成功が空気を変える

——その分断はどのくらいの期間続いていたんですか?

井手:結果的に、3年ぐらいは分断状態が続いていましたね。

——3年を経て、だんだん溝が埋まっていった感じですか。どのように埋まっていったのでしょうか?

井手:本当に「仕事をもっとやってくれ、そんな研修よりもみんなで仕事をやってくれ、売上につながらないなら研修はやめろ」なんて言われる状態は、ずっと続いていたんですが、だんだん、研修を受けた人たちが、少しずつ成果を出していったんです。

1人では難しいようなことに、研修を受けたメンバー数人で取り組み、業務上の成果を出した時、周囲から「あれ、あの人たちの活動って、ひょっとしていい活動?」という声があがるようになったんです。小さな成功が、少しずつ見え始めてきたんですね。

あと、研修を受けた人たちの心がすごくポジティブになっていったんです。それまでは暗い感じで、人の悪口を言ったり人の足を引っ張ったりする雰囲気だったんですが、「いや、チームで協力してもっとこういうふうにしよう」というふうに前向きな感じに変わっていったんですね。

ほかにもお互いのことを尊重しあいながら手を取り合って、お互いに得意・不得意も開示して、ジグソーパズルのでこぼこみたいに、得意な人のでこは苦手な人のぼこを埋めるように組んでいって1つの絵を作ろうみたいな考え方がだんだん浸透していって、小さな成功体験も生まれてきたんです。

そうするとうれしいわけですよね。今まで長い間1人で仕事をしていて、グチグチ不満を言っていたけど、小さな成功体験が生まれることで、みんなでそれを「やったー!」なんて言って喜べる。そうすると成果が出てくるだけじゃなくて、「あの人たち、なんか楽しく仕事してるなぁ」みたいに周りの目も変わってくるんです。

その頃から業績も少し良くなってきて、人も採用しだしたので、研修を受けていない人向けに、翌年もこの研修をやりました。3年目もその研修をやっていく中で、小さな成功体験を生み出す人が増えていくと、だんだんチームビルディングに文句を言っていた人たちが少数派になっていったんです。

成果を出す人たちが増えていく中で、「じゃあ私も研修受けてみようかしら」とか「私もちょっと参加してみようか」という人が1人、2人増えていって、3年ぐらいかかりましたが、多くの人が研修を受けて成果も出して、気持ちもポジティブになっていきました。

全員じゃないですけど、「あ、この取り組みっていい活動なんだなぁ」と多くの人が思うようになっていったというプロセスでしたね。だから3年ぐらいかけて、少しずつ結果を出していって、会社の雰囲気も変わっていって、みんなが認めてくれたという感じですね。


“楽しく働く”の回復 変化がもたらした手応え

——だんだん変わっていく様子を、どういうふうに見ていましたか?

井手:素直にうれしいですね。業績が良かった最初の3年間はみんな仲良かったんですよ。志を持っていてね。

昔は大手4社しかクラフトビールをつくっていなかった時に、小さな会社が自分でビールを造るという夢のようなことに共感して入ってきた。だけど、3年目以降はずっと業績が悪くて、だんだん心が離れて、一緒に飲みに行ったり、一緒に遊びに行っていたはずなのにお互いに悪口を言って辞めていくのを見るのが悲しかったのがトラウマになっていた時期がやっぱり長かったので。

そういうふうに仕事を通して喜んでくれたり「やったー!」なんて言う人が1人でも2人でも増えていくと、やっぱりすごくうれしかったです。

「あ、やっぱりこうやって楽しく仕事をしないとだめだな」ということをみんなが共感してくれるようになってきていたので、「やってよかったなあ、こうやって仕事ってみんなで楽しくやるからこそ成果も出ていくんだな」と当時は思っていましたね。

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