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井手直行氏インタビュー(全3記事)

研修導入で起きた3年の社内分断 「特にありません」の朝礼が小さな成功でほどけるまで [2/2]

多様性の理解と“でこぼこ”を埋め合う設計

——チームづくりを進める中で、「これが大きな転機になった」と感じた気づきや学びはありますか?

井手:チームづくりにはいろいろな要素があると思いますが、その中でも「お互いを理解し、尊重すること」はとても大切だと感じています。

以前の私は、「自分ができることは、相手も当然できるはず」と思い込んでいました。でも実際には、自分とはまったく異なる資質や考え方を持っている方も多くいますよね。当時は「多様性」という言葉をまだ知りませんでしたが、今で言えば、まさにそれが多様性なんだと思います。

自分はこう思うけど、相手はこう思う。例えばチームビルディングする上で資質テスト(ストレングスファインダー)をやるんですよ。ある理論によると人は34の資質に分類されて、テストすることでテストすることで上位の資質がわかるんです。

私は1位が戦略性で2位が最上志向なので、常に最上を求めて戦略的な行動をとるんですよ。でも、人にはそれぞれ違った強みがありますよね。例えば、ある人は社交性が高くて、コミュニケーションが得意で、誰とでもすぐに打ち解けられるようなタイプだったりします。

一方で、戦略的に考えるのがあまり得意ではない場合もあって、私が「戦略的なこともできるんじゃない?」と促してみても、なかなかうまくいかないことがあります。

その人は、戦略性はあまり高くないかもしれませんが、代わりに私があまり得意ではないタイプの人ともうまく関係を築いて、周りとのつながりを広げてくれるような力を持っていたりするんです。

だから、そういうことを研修で学んで、「あ、人ってそれぞれ違うんだ。みんな資質がバラバラなんだな」って気づくんですよね。それをちゃんと理解して、お互いを尊重していく。
でこぼこがあるからこそ、自分の得意なことはしっかり発揮して、逆に苦手な部分は、誰かの得意な力で補ってもらう。そういう考え方をするようになりました。

「自分が絶対正しい」じゃなくって、自分はこう思うけど相手のことも理解してチームをつくっていく。このお互いを理解して尊重しあいながらチームをつくっていくという感覚はそれまでまったくなかったので、とても大きな気づきでした。

合言葉は“急がば回れ” 指示型から問いかけ型へ

——信頼関係を築き直す中で一番大切にした言葉や習慣はありますか。

井手:今ふっと言われて思い出しましたが、当時呪文のように唱えていた言葉があるんですよ。「急がば回れ」。私はせっかちで、資質の上位にも「指令性」というのがあるんですよ。要するに「あれやれ」「これやれ」と、指示・命令ばかりするんですよね。また僕が社長だから、社長の権限みたいな感じで、いわゆる昭和の時代のトップダウンみたいな感じだったんです。

でも研修を終えて、「みんなの意見を聞くようにしないとなぁ」と意識が変わったんですね。資質があるのでつい出ちゃう時もあるんですけど。チームビルディングとはそういうもんじゃなくて、みんなで協力して時間がかかるもんなんだと意識しています。

そもそも信頼の前に、お互いのことがよくわかっていないですよね。チームづくりをやる時にけっこう自己開示するんですよ。仕事上の話しかしていなかったので「私、実はプライベートでこんな趣味があって、こういうとこで生まれて育って、兄弟はこうあって、出身地はこうで」みたいな話はしたことなかったんですね。

でも、いいチームをつくろうとするなら、ある程度は個人的なプライベートのことも共有して、自己開示を通じて信頼を得ることが大事だと思うんです。けれど、当時はその共有すらなくて。そもそも「この人のこと、よく知らないな」っていう段階からのスタートでした。

ただ、信頼を得るのも、いいチームをつくるのも、1日や2日でできることではありません。せっかちな私は、ついすぐに指示や命令ばかりしてしまう。でも、そんな時に自分に「いやいや、待て待て」と言い聞かせていました。

チームづくりには時間がかかるもの。だからこそ「急がば回れ、急がば回れ」。「あれをやって」「これをやって」と指示を出すのではなく、「どうしようか?」「どう思う?」と問いかける。

まずはお互いを知ることから始めて、少しずつ相互理解を深めていく。そのうえで尊重し合いながら、一緒にチームをつくって、成功体験を重ねていく。そうして、ようやく信頼関係が生まれ、チームが育っていく。だからこそ、自分にずっと言い聞かせていました。「急がば回れ、急がば回れ」と。

そうしないと、つい以前のクセで「あれやれ」「これやれ」と指示ばかり出してしまって、気づけばチームというより、ただの指示命令系統になってしまうんです。そうなると、言われたことしかやらない状態になってしまって、信頼関係も築けません。

「信頼」というのはやはり時間がかかるものなんですよね。 だからこそ焦らず、少しずつ積み重ねていくことが大事なんだと、すごく実感しました。「急がば回れ」って、ずっと自分に言い聞かせていましたね。焦らずに、少しずつ、丁寧に積み重ねていくものだと思っています。

——ご自身の性質として指令性があったり、せっかちな性格であるいうところで、自分がもともと持っているものとは違うことをしなきゃいけない、待たなきゃいけないというところに、ストレスがあったのではないかと思うのですが、それはどう考えられていましたか。

井手:それを覆すくらい衝撃的だったのが、チームビルディング研修での出来事でした。「こんなふうに変わるんだったら、ちゃんとプロセスを経て、焦らず見守っていくことが大事なんだ」って、心から思えました。その瞬間、私の中の意識が根本から変わりました。


世代論より“価値観の合致” 採用と育成の設計

——社員の中には、おそらくZ世代といわれるような、比較的若い世代の方々もいらっしゃるかと思います。そうしたZ世代の社員について、「こんな特徴があるな」と感じることや、印象に残っていることがあれば教えていただけますか。

井手:いえ、特にないですね。Z世代も含めて、世代別での違いはあまり感じません。もしかすると、世の中的なデータではあるのかもしれませんが、私たちの会社ではそれを実感することはほとんどないです。

うちの会社は1人で完結させるような働き方ではなく、チームで仕事を進めています。お互いの強みを伸ばしつつ、苦手なところは努力しながらも、そこは誰かが補ってくれる。だからこそ、チームでやることが前提になっています。

それに、自己開示も大事にしています。プライベートな話も交えながら、みんなで楽しく会話して、楽しく働く。でも、成果にはしっかりコミットする。そうした社風をずっと大事にしてきました。

もちろん、世の中にはいろんな若い世代の感覚を持った人がいるとは思います。でも、私たちの会社には、そうした考えに共感してくれる人が集まっているので、世代による感覚の違いはあまり感じませんね。

せいぜい感じるのは、好きな芸能人が世代によって違うな、くらいです(笑)。そのあたりで「ああ、やっぱり違うな」と思うことはありますが、資質的なところで違いを感じることは特にないです。

——そうなんですね。けっこう「自分と世代が違うのでマネジメントに悩む」という声を聞くので今のお話は新鮮でした。

井手:一つ大きいのは、入社の段階で「こういう会社なんだな」と理解した上で来てくれている、という点だと思います。つまり、同じ価値観にぐっと集まってきてくれる。それを私たちは「経営理念」と呼んでいるんですけど。この経営理念をしっかり明示して共感してくれた方だけを採用しているので、まずその時点で土台が揃っているのが大きいのかなと思っています。

もしここがバラバラだと、価値観の違う人同士では話がかみ合わなかったり、やりづらさを感じてしまうかもしれません。ただスキルだけを求めて採用してしまうと、それぞれが大事にしていることもバラバラになりますし、そういうズレが起きやすいのではないかと思います。

私たちはまず「この経営理念というベクトルの中に入っているかどうか」を重視して採用していますし、入社後もチームビルディング研修を通じて相互理解を深めるようにしています。

お互いのことをしっかり理解して、自分のこともきちんと理解する。そして、自分自身を相手に知ってもらいながら、相手のことも自分が理解していく。そんな相互理解を大切にする研修を、私たちは初心者向けから指導役向けまで段階的に用意して、1年間かけてじっくり行っています。

もちろん、多少の世代間の違いはあるかもしれませんが、そもそも入社の段階で会社の考え方に共感して入ってきてくれている方ばかりですし、その後の研修を通じて、「違いを理解し、受け入れながら、一緒に成果を出していく」というスタンスやスキルもしっかり身につけてくれています。なので、多少の個人差はあれど、ご質問にあったような世代間ギャップのようなものは、少なくとも私自身はあまり感じたことがありません。

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