【3行要約】
・「言われたことはやるが自分から動かない」指示待ち部下の存在は多くの職場で課題となっています。その背景には部下本人の目的意識の欠如や上司のマイクロマネジメント、組織風土の問題があります。
・部下の主体性を引き出すには「背伸び仕事」を任せ切り、コーチング的コミュニケーションを取ることが重要です。
・働きがい創造研究所の田岡英明氏は「信頼関係の構築」こそが鍵であり、部下が「この上司のようになりたい」と思える魅力を醸成することが指示待ち解消への第一歩だと指摘します。
なぜ、あの部下は「指示待ち」になってしまうのか?
——なぜ、言われたことはやるが自分からは動かない「指示待ち部下」が生まれてしまうのでしょうか?
田岡英明氏(以下、田岡):いろいろな原因が考えられますが、部下本人の原因、上司のマネジメントの原因、組織風土の原因に分けて考えていくことが大切です。部下本人の原因としては、仕事の目的や意義を見失っていることや仕事に対してやり遂げることができるといった有能感が育まれておらず、目の前の仕事が辛い作業になってしまっていることが考えられます。
上司のマネジメントの原因としては、マイクロマネジメントが大きな原因になっています。部下に考えさせず、上司のいった通りに仕事を進めさせていくことは、考えない受け身な部下を生んでしまいます。そして、組織風土の問題としては、組織の理念やビジョンが風化し浸透していないといったことが大きな原因になっていきます。組織の理念やビジョンは、部下が仕事をしていく上での判断軸になっていきますし、仕事への工夫をもたらしていくものになるからです。
「結果が出た時」の振り返りを忘れない
——部下に主体的に動いてもらうために、上司はどのような行動をしたらいいでしょうか。
田岡:働き方改革が進む中、上司の仕事は増えるばかりです。そのような中で業績のプレッシャーは高く、多くの上司の皆さんがマイクロマネジメントについ走りがちです。部下に対する不信感から、「私の言った通りにやってほしい」といったマネジメントをしてしまうのです。
マイクロマネジメントは、部下の自己効力感を下げるので、部下の受け身的な態度を醸成してしまいます。また、マイクロマネジメントが続くと、部下の不満にもつながり、更に受け身的な態度が高まります。そのような状態を避けるためにも、上司としては、①少し高めの背伸び仕事を、部下にその意義を伝えながら任せ切る。
②仕事を部下自身が考えながらやり遂げるために、ティーチングではなくコーチング的なコミュニケーションをとっていく。
③仕事の結果が出た際には、「どうしてうまくいったのか」、または「どうしてうまくいかなかったのか」を振り返らせるコミュニケーションを取っていき、「こうすれば仕事がうまくいくのか」といった概念化を促す。以上の3点を回しながら、部下の主体性を育んでいただければと思います。
言いづらいことを伝える時の「サンドイッチフィードバック」
——部下に言いづらいことを伝える時のネガティブ・フィードバックのポイントはありますか?
田岡:ネガティブなポイントは、改善項目として伝えていく必要があります。なぜなら、人はネガティブなフィードバックを本能的に嫌うからです。改善項目として伝えていく手法に、サンドイッチフィードバックといったものがあります。
これは、いい面でネガティブなポイントを挟みながら伝えていく手法になります。日頃の具体的ないい点を「〜〜な点は、すごくいいね」と伝えていき、その後に改善してもらいたいネガティブな部分を「〇〇の部分を改善すると、更に仕事がワンランク上になるね」と伝え、最後にがんばっている面を抽象度高く「毎日モチベーション高く仕事をしてくれていて助かっているよ」と労っていきます。
このフィードバックは、ネガティブな部分を部下が心理的に受け止めやすくなるコミュニケーション手法になります。また、言いづらいことを伝える際には、「ここからは上司として伝えるからね!」といった枕詞を入れると伝えやすくなりますので、こちらもお勧めです。
「仕事ができる人」と「できない人」を分けるセルフイメージの差
——田岡さんがこれまでマネジメントしてきた中で「仕事ができるな」と思った部下の特徴はありますか? 反対に、評価されない人の特徴はありますか?
田岡:私はもともと営業組織におりましたので、「仕事ができるな」=「売り上げを上げ続ける部下」といった観点でお伝えしますと、「仕事ができるな」と思う部下は、仕事に対するセルフイメージが高いです。
自身の仕事に誇りとプライドを持ち、その仕事がもたらすお客様への貢献やその先の社会への貢献までを見据えながら仕事ができています。逆に「仕事が思うように進まない」評価されない部下の特徴は、セルフイメージの低さです。
自身の仕事に重要性を感じられず、仕事の目的や意義があやふやです。なので、仕事が作業になり、いつも辛そうに仕事を進めています。また、行動的な部分でお伝えすると、「仕事ができるな」と思う部下は、仕事を進めていく中で見つけ問題を、他人事にせず自分が動いて解決していきます。「評価されない」部下は、問題を見つけても他人事で文句を言うか、「〇〇すればいいのに」といった評論家的な態度で終わってしまいます。
言うことを聞かない部下の本音
——これまで田岡さんが相談を受けた中で、部下との人間関係でよくあるお悩みや解決策があれば教えてください。
田岡:部下との人間関係でよく聞く悩みとして、部下が自分の言うことを聞いてくれないといったものがあります。この悩みを伺った際には、「厳しいことを言うようですが、何を言うかが大切なのではなく、誰が言うかが大切です」とお伝えしています。
みなさんも、上司のAさんに言われたらやる気になるのに、同じことを上司のBさんに言われたら、なぜかやる気になれないといった経験をされているかと思います。本質的に、人間は信頼を寄せている人の言葉に従うので、まずは信頼関係を醸成することが大切です。
信頼関係を育むためには部下の話を傾聴し、部下に「この上司は自分のことを受けとめてくれているな」といった思いを育むことがポイントになります。そして、結果のみならずプロセスへの関与を強め、見守り支援をしていくのです。
また、上司自身が達成していきたいことや自身の夢やキャリア感を語り、部下が「一緒に働いていきたい」と思うような魅力を醸し出していくことも大切です。「〇〇さんみたいになりたい!」と思っていただけたなら、言葉もしっかり伝わり主体的な行動になっていきます。