【3行要約】・組織や個人の成長には「見えている問題」だけでなく「見えていない問題」を発見し解決する思考法が不可欠になっています。
・見えていない問題には、テーマ設定、現状理解、課題決定、目標設定という独自のプロセスで取り組みます。
・これからのAI時代では、見えている問題はAIに任せ、人間は見えていない問題の発見と意思決定に集中し、AIをコーチとして活用すべきでしょう。
前回の記事はこちら 未来の「もっと良くなる部分」を見つける思考法
——前回、組織や個人が成長する上では、まだ組織で表面化していないような「見えていない問題」を探して解決する思考が大事だとうかがいました。組織の「見えている問題」と「見えていない問題」について、詳しく教えていただけますか?
高松康平氏(以下、高松):見えている問題というのは、過去から現在において一定の基準があって、その基準に満たなかった差のことです。例えば、「売上はここまでいきたいよね」とか「利益はここまでいきたいよね」「スケジュールどおりいきたいよね」というのがありますよね。でもできなかったとします。ここの過去から現在のギャップが、見えている問題です。
一方で、「今は悪い状況じゃないけど、より良くしたい」といった時に、「もっと良くなる部分」がわからない。それが「見えていない問題」です。今は見えていない問題がより重要になっていると感じています。
問題が見えないからこそ「まず現状を知る」ことから始める
——書籍『課題解決の思考法 「見えていない問題」を発見するアプローチ』の中でも書かれていますが、見えていない問題の解決のステップを教えていただけますか?
高松:前提として、「見えている問題」の時は、問題を定義して分解して「なぜそうなったのか」と考えますよね。でも、「見えていない問題」はそのやり方だとうまくいかないんです。というのも、見えていないのでまず問題が定義できないからです。
先に問題があれば、それを分けたり「それはなぜか」となぜなぜ分析したりできるけれど、そもそも問題が見えていないので、分解もできません。そもそもの思考法が、見えている問題と見えていない問題では違うと理解するのが大事です。
見えていない問題を発見するには、まずステップ0でテーマを設定します。まず、どういうテーマ・お題に取り組むかという認識を持つことが大事です。自分自身がどういう領域・役割を任されているかというところと、より良い未来をどういう軸で作りたいかというテーマを設定したあとに、じゃあそのテーマで何が起きているか、「現状がわかる」というのをステップ1でやっていく。
「こういうことが起きているんだ」とか「こんな未来が来るんだ」というのがわかってきます。そしたらステップ2で「じゃあこういうことに取り組んでいこう」「こういうことは取り組まないようにしよう」という課題を決める。
ステップ3で、「どこまでいけるか」という目標を設定し、最後にステップ4で解決策を決める。なので、見えている問題と見えていない問題の解決方法で大きく違うのは、今までは問題ありきなので目標と現状のギャップがあった。つまり目標が最初にあったということです。
けれど、見えていない問題の場合は、「こういう課題に取り組めば、ここまでいける」と目標を後に決める。つまり「こういう問題がある可能性があるよ」というのを決める技術を身につけなきゃいけないということですね。
思考を整理する最強のツールは「手書きの図」
——まず見えていない問題を見つけるには、現状を整理する段階が必要なんですね。会社で「今やっている仕事だけじゃなくて、自分から考えて動いて」と言われることも多いと思いますが、自分で問題を見つけるのって難しいですよね。
自分なりに問題を見つけたと思っても、すでによく言われていることだったり目標に組み込まれていることだったりして。ステップ1の「現状がわかる」について詳しく教えていただけますか。
高松:そうですね。いきなりはわからないので、まず何が起きているかを整理します。情報認識と呼んでいるんですが、今起きている情報を抽出して書き出してみることが大事です。仕事をしていると、膨大すぎる情報があるので頭に入りきらない。なので書き出して言葉にする。大量の情報がある中で、その段階で自分が重要だと思うことを書き出してみる。つまりそれは(考えるべき)要素を減らすということなんです。

そうするとちょっと心が落ち着いてくるというか、「こういうことが起きてるのね」とわかってきます。その時に、ただランダムにいっぱい書き出していくのではなく、ステップ1-2で「構造化」と呼んでいるんですが、図にしてみる。
「なんで今こういうふうになっているのかな」と、良いことも含めて書いてみるんです。良い状態だとしたら、なぜそれができているのか、悪い状態だとしたらそれはなぜなのか。そこですぐ解決策を出そうとしてはダメで、「今みんなこういうふうに思っているけども、何か見逃していることがないかな」とか、現状の認識を変えるような気づきがないと(いけない)。
今の認識が変わっていないまま何か解決策を出そうとしたら、結局今やっていることになってしまうので。現状の認識ができてくると、もっと知りたいことがでてくるものです。
例えば、大量の情報を見た時に「何か気になることない?」って言われても「特にない」となりませんか? 部長さんが1時間話した後で「何か質問ある人」って言われても、ないじゃないですか。
でもその部長さんの話も、自分なりに1枚の図にしてみると「部長さんってこういう姿を目指してるんだな。そのためにはこれが必要なんだな」とか「今ここがダメなんだな。で、こういうことが必要だと部長さんは思ってるんだな」と、整理していると話の余白に気づいたり、「このつながりはどうなのかな」という質問が出てくる。
いきなり質問はなかなか出ないので、構造化することによって自分なりにわかったつもりになることが大事です。だけどその認識のままじゃいけないので、質問を作ったり疑ったり、未来を想像してみる。そこで日頃仕事をする中で「実はこうなんだ」とか「お客さまのこんな相談が増えてるよね」って気づきが生まれてきて、「じゃあこんなことに取り組んだらいいよね」と。そういうふうにして、今までと違った課題が設定できるんです。
「見えていない問題」を解決するAI活用術
——今、課題の解決にAIを使っている方もいるかと思いますが、「見えていない問題」についてAIで解決することはできるのでしょうか?
高松:活用できると思います。見えている問題であれば、もうAIに全任せできる時代になってくるんじゃないかなと。つまり見えている問題の場合は目標と制約条件が所与なので、AIが答えを出してくれる。
かつLLM(Large Language Model)で大量のデータがセットされていますし、自社で過去に同じような問題が起きていれば、それをどう解決したかというデータをAIにセットすれば「こうすればいいよ」と出してくれる。
じゃあ見えていない問題の場合はどうかというと、そもそも問題・目標がわからないので、やはり人間の意思が必要。ただ、AIをコーチ役にして使えると思います。だから見えていない問題の場合は「人 with AI」になるんじゃないかなと思っています。
生成AIにどう聞いたら良い返答が来るかって、みんなプロンプトを工夫してやっていますよね。でもその前に大事なことは、「生成AIは私のことは何も知らない」ということ。そんな状態でプロンプトを工夫して「これ聞いたらどうかな」ってやっても、良いアウトプットは出てこないんです。
だから、見えていない問題に取り組む時は、自分のことをAIに知ってもらうことがまず大事です。「私はこういう人間です。世の中をこんなふうにしたいです、会社をこんなふうにしたいです」と、ちゃんと自己紹介をするんです。
——高松さんもふだんから問題解決にAIを活用されているんですか?
高松:自分の問題解決などの時には、そういうかたちでAIを使っています。本を書く時はAIを使いませんが、実務ではAIとコミュニケーションをしていきます。そうすると、やはり何を知らなければいけないかが見えてきます。それに、私は1人の人格しかありませんが、AIはいろんな人格を持つことができるので、便利でおもしろいかなと思っています。
——ありがとうございます。