【3行要約】
・問題解決の手法は多いが、「今は悪くないがより良くしたい」という課題に対応できる思考法は少ない——多くのビジネスパーソンがこの新たな課題に直面しています。
・元マッキンゼーの高松康平氏は、自身の挫折経験から生まれた思考法を著書で紹介。現場からの相談が新たな課題解決法の必要性を浮き彫りにしています。
・これからは現場が自ら目標を設定し、見えない問題を発見する時代。経営層だけでなく現場の一人ひとりが「ありたい姿」を考える力が、企業全体の成長につながります。
挫折から生まれた思考法——苦労したマッキンゼー時代
——高松さんは『課題解決の思考法 「見えていない問題」を発見するアプローチ』(日本実業出版社)を7月に上梓されました。もともとマッキンゼーのご出身だとうかがいましたが、当時から課題解決について本を書きたいと考えていらっしゃったんですか?
高松康平氏(以下、高松):元マッキンゼーという肩書はいちおうあるんですが、私は1年しかマッキンゼーにいなくて。たぶん元マッキンゼーやコンサルの人が書いた本って、超できる人が「こんなふうにやるよ」って紹介するものが多いと思うんですね。
私は元マッキンゼーを名乗らせてはいただいていますが(笑)、当時は自分のスキルがなかなか通用しなくてボロボロになっていました。苦労したマッキンゼー人生、リクルート人生があったからこそ、「どうやったらあんな風にできるのかな」とかをずっと考え続けて、今こういう研修講師の仕事をさせていただいています。

ただ、念のため言いたいのですが、1年で辞めたと言ってもクビにはなっていませんよ(笑)。出来が悪かったのでだいぶ先輩にはご迷惑はおかけしましたが。まだまだコンサルの仕事はできたかもしれないけど、自分が疲れていく感じがあったんです。その時から人材や教育に興味があったので、リクルートに転職したという経緯ですね。
きっかけは「プロダクトが強いから成長してしまう」という贅沢な悩み
——高松さんがこの「課題解決の思考法」テーマに本を書こうと思ったきっかけはありますか?
高松:はい。まずロジカルシンキングとか問題解決の本って、世の中に本当にたくさんあります。ただ、私がスキルベースという会社を立ち上げた時に感じたのは、今までの問題解決の本では対応できないような相談がめちゃくちゃ多いということです。
例えば本にも書きましたが、成長中のベンチャー企業のCOOから「うちはプロダクトが強いから成長してしまう。その場合はどうしたらいいのか」という相談がきたんです。「問題ないですね、良かったですね」って思うかもしれませんが、COOとしてはやはり満足してしまっている組織に危機感があるし、もっと良くなるかもしれないと考えている。
こう言われた時に「あれ?」と思ったんです。今までの問題解決だと、「今期の売上はここまでいきたいけど届かなさそう」とか、もしくは未達だったとか、ミスが起きたとか、最初に問題があるんですね。
でもそうではなく、「今は悪くないけど、より良い未来を作りたい」っていう相談がベンチャー企業からあった。また金融機関(の経営層の方)から「支店長さんに、そのエリアでどういう姿を目指すかを、自分たちで考えてほしい」みたいな相談をいただいたり。
また人事の方からは「人的資本経営の時代」とよく聞く中で、「うちの組織をどうより良くしたいか、人事が考えてほしいと言われたけど、どうしていいかわからない」という相談があったり。そうすると今までの問題解決本のような、ありたい姿、もしくはあるべき姿が前提としてあるものだと対応できないとわかったんです。
「今のままではヤバい」と感じる、現場から経営者まですべての人へ
——なるほど。この本はどんな悩みを持つ読者に届けたいですか?
高松:大企業とか中小企業とかにかかわらず、「今の見えている問題を解決するだけではもう先が見えないな」とか「今のままだとちょっとずつビジネスがジリ貧になっていきそう」みたいな、なんとなくの危機感を持っている方ですね。
それから経営者だけじゃなくて、現場の営業やエンジニアとか、「うちの会社このままじゃヤバいよね」「もうちょっと変わらなきゃいけないよね」と思っている方に読んでほしいですね。

——新規事業担当者の方とか、既存のサービスだけでなく新しい事業にチャレンジしたい方も当てはまりそうですね。
高松:そうですね。新しいサービスを立ち上げなきゃいけないとか新規事業をやらなきゃいけない時も、自分でどこまで目指すかを考えなきゃいけないし、どこにチャンスがあるかを自分で探さなきゃいけない。
でも、どこまで行けるかを自分で決めるやり方って、あんまり習っていないですよね。今までは、上から目標が落ちてきて、メンバーは目標達成することが求められた。でも今は、どこを目指すかという目標設定を自分でやって、良い未来とか可能性を広げることも、ビジネスパーソンに求められる時代だと思います。
——個人にとっても、今ある課題を解決するだけじゃなく、会社の先のことまで考えられるというのは、大きなアドバンテージになるのではないかと思います。組織を率いている方だけじゃなく、個人のキャリアのステップアップにおいても大事な考え方ですよね。
高松:そうですね。多くの会社の中期経営計画は、かなり抽象的になっているかなと思っています。また、エリアや領域によって状況は違うので、「こういうことをやるよ」ってところまでトップダウンでは落とせないんです。
やはり現場の人が一番物事を知っている。だからこそ、「今こういうことが起きている」とか「お客さまは、こういう困り事が新たに出てきているので、もうちょっと工夫したら、こういう未来が作れるよね」って考えられる力は、個人にとっても重要だと思います。
——会社がより成長していくには、現場から課題を発見して提案していかないといけないということですね。
高松:戦略というと経営者とか経営企画部が考えるものだと思われるかもしれませんが、具体的にどういうことをやるかとか、その事業部やそのプロダクトがどこまで伸ばせるかは現場で考えて現場でやる。
だから今回の本は経営戦略というよりも、現場の戦略論ですね。今までは会社が目標を決めて全体の道筋を決めたかもしれない。でもこれからは、それぞれの現場でどこまでいけるかを考える。そこで新たな「現場のありたい姿」が見つかったら、もっと会社が成長することにつながるので。会社の戦略と現場の戦略が両方融合しながら、より良い会社ができていくんじゃないかなと思います。
——今ある問題だけでなく、見えていない問題を探して解決する「課題解決の思考法」が、経営層にも現場の方にも大事なんですね。ありがとうございます。