ゼロから自分で考えずに、とにかく人に頼る
——なるほど。PRに限らずどんな業界や仕事でも活用できる考え方ですね。
黒田:ちょっと大きい話になりますが、日本はそういう新しいビジネスを生み出すことをしていかないと立ち行かないと思うんです。今までやっていたことをそのままやるのだと、単価が安くなって厳しくなっていく。
とはいえ、とんでもない発明をする必要はなくて、例えばAIと何かを組み合わせるだけでも新しいものが生まれるかもしれない。営業であっても、ほかの業種がやっていることで出版業界がやっていないことってあるんですよ。例えば「美容業界が当たり前にやっているポップアップショップみたいなのを本でもやれないのかな?」とか考える。
僕らは宮崎駿さんじゃないんだから、ゼロからとんでもないものを生み出す必要はなくて、誰かがやっているものを真似ればいい。ダメだったらまたやり方を変えるというふうに、トライ&エラーの量をすごく重視しています。
これは売り上げがなかなか上がらないという営業パーソンにも、同じように言えます。例えば保険の営業だったら、あるお客さんに「保険はどういうものだったら契約したくなりますか?」と聞いてみる。
「保険の内容とかじゃなくて、私はけっこう営業さんの手土産で選んじゃう」とか言ってくれる人がいたとしたら、「次は、そのへんで買った手土産じゃなくて、もっとこだわってやってみようかな」と実践する。「手土産なんて」と思わずに、可能性があることをすべてやることが大切です。自分で考えちゃダメで、とにかく人に頼るんです。
「今契約しているサービス」への不満を聞き出す
——黒田さんが書店の営業時代に実践して、実際に効果があった伝え方はありますか?
黒田:学校に書籍の営業をしていた時代は、アポイントを取る時に、「契約しないでいいのですが、営業の担当になったのでお会いさせてください」と言っていました。さきほど触れたように、「今契約していらっしゃる⚪︎⚪︎書店さんはすばらしい書店さんだと思いますが、もっとここを改善してくれたらいいのに、ということを教えてください」と言うのがポイントです。
今契約している会社に対して、何かしら不満に思っている点はあるんですよね。ここが僕たちにとってはチャンスなんです。例えば大好きな旦那さんであっても、「すごく素敵だけど朝が弱いところを直してほしい」とかはある。
「新刊がなかなか入ってこない」とか「これをやってくれない」というのを聞き出せれば、そこと契約できなくても、「ほかの学校も書店に対してそういう不満を持っている可能性が高い」ということがわかります。
そこで他の学校に営業に行った時に「新刊はちゃんと入ってきていますか?」と聞いて「ぜんぜん『ハリー・ポッター』が入ってこなくて困っているの」とか言われたら、「うちでしたら持ってこられますよ」と言ったり。
つまり、営業で効果的な伝え方としては、「今契約しているところの問題点はありますか?」「僕は新米でまだ新規営業がうまくいっていないので、勉強のために教えてください」ということです。僕が今転職するとしたら、どこの業界にいっても同じことをやると思います。
売れない営業にありがちなこと
——たとえそのお客さんには売れなかったとしても、お困りごとが聞けたら、別のお客さんの時に活かせるということなんですね。目の前の売り上げだけではなく、広い視点で考えるのが大事だとわかりました。
黒田:営業で売れない理由があるとすると、会社からの「こう言いなさい」ということに縛られてしまっているのかなと思います。もちろん自社の中で「こうやればいい」っていうノウハウがあると思うんですけど、どうしても他社と似通ってしまう。
そこに自分のオリジナル性を見つけて、「こういうふうに言ったら決まったので、これ、みんなで共有したらどうですかね?」とかどんどん上に上げていって、むしろ会社のマニュアルを変えていくぐらいのほうがいいと思います。