本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。
今回は、『適職はどこにある? 夢なしOLの「転職・休職・副業・起業」実践ストーリー』著者の土谷愛氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事では、職場の“理解できない相手”との向き合い方や、「売れる強み」がわかる自己分析の仕方をお伝えします。
職場の人間関係で「こうしておけばよかった」
——3社目の退職理由には「人間関係に悩んだ」と書かれていましたね。今振り返って、職場の人間関係で「こうしておけばよかった」と思うことはありますか?
土谷愛氏(以下、土谷):うーん、そうですね。もっと嫌われる勇気を持つというか、あんまり人の顔色を気にしすぎずに、自分の意見をちゃんと主張すればよかったですね。なんでもかんでもじゃなくても、何か自分がすごく大事にしていることに関しては、折れずにたくさんアプローチし続ければよかったと思っています。
——自分の意見を言わずに後悔したことがおありなんですか?
土谷:そうですね。「どうせ言っても伝わらないかなぁ」とか「あんまりこの人が好きな企画じゃないから、どうせ通らないかなぁ」とか思って引っ込めてしまったりすることはありましたね。
結局それで、「やっててあんまりおもしろくない」とか「誰のために仕事してるのか」みたいな気持ちにもなってしまったので。組織で働いてる以上そこは難しいんですけど、私は人の顔色を見すぎていたところがあったと思うので、嫌われる勇気を持つことと、あとはうまい伝え方を勉強したらよかったかもしれないなと思います。
“理解できない相手”と向き合うには
——自分の言いたいことは曲げずに、受け入れてもらえるような伝え方をするということですね。具体的にどんな工夫ができると思われますか?
土谷:相手が大切にしていることを、もっとちゃんと理解しようとすればよかったかなと思っています。当時任せてもらっていたプロジェクトに、私とはぜんぜん違うタイプの営業のリーダーがいて、その人について悩むことが多かったんですね。
声が大きくて強い言葉を使うタイプで、みんなで決めたことでも、この人が「嫌だ」と言うとまた振り出しに戻されてしまったり。そういう決まったルールも守ってくれないことがあって「なんでこんなことするのかな」と当時は思っていました。

でも今思えば、その人なりに営業の数字へのこだわりがあったりとか、営業部の部下たちにとってうれしくないルールをできるだけ排除して、「彼らが働きやすいようにしてあげたい」って思いがあったのかもしれないんですけど。
そこを汲み取らずに「これ、決まったじゃないですか。ルールなんですから」みたいに正論ばかり押しつけようとしていた部分がありましたね。
でも「数字を上げたい」って目的は自分も一緒なので、そこをしっかり共有しつつ、そのためにどうしたらいいのかみたいなことをもっと話せたら、その人も少しは態度を柔らかくしてくれてたんじゃないのかなって思います。
3社目を退職、「逃げの選択肢」として起業を決意
——職場で立場の違う同僚に対しては、「相手が何を大事にしているか」を考えて言い方を変えるということですね。この後に3社目を退職、起業されますが、どんなきっかけがあったのでしょうか?
土谷:退職した主な経緯としては、当時は会社の苦手な人に割く時間がすごく多くて、いつのまにか「苦手な人への対策を考えるのが仕事」みたいになっていたのが嫌だったんです。本来は「売上を上げるために企画を考える仕事」のはずだったのに、なかなかそれに時間を割けない現実にモヤモヤしていて。
でも、じゃあ場所を変えてまた転職をしたからといって、そういう人がいないとも限らないじゃないですか。だからそもそも会社員として働く以上は、全員好きな人で固めるのは難しいというシステムの問題なのかなと。
あと、3社目で働き方はホワイトになったものの、私は朝がすごく苦手なんですね。でも会社だと9時から18時とか働く時間が決まっているし、深夜に残業ができない会社だったので、昼の時間帯に合わせて働かないといけない。ちょっと恥ずかしい部分なんですけど、私はそういうあらゆる面で「人の作った仕組み」に合わせるのがどうしても苦手でした。
だったら自分で働き方や人間関係を一から作れる働き方がいいなと思って、どっちかというと「逃げの選択肢」として起業をした感じです。
3ヶ月売上ゼロ、起死回生のきっかけは
——なるほど。自分の働きやすさを突き詰めていった結果、起業を決意されたということなんですね。グラフには、31歳で経営が軌道に乗り法人化されたと書かれています。会社員として働いてきた中で、初めての起業でうまくいったポイントはどんなところにあると思われますか?
土谷:会社員しかやってなかったところからいきなり起業して自分でビジネスをしていく中で、ポイントになったのは、やはり自己分析だったと思います。というのも、私は最初からすごくうまくいったわけではなかったんですね。
例えば商品の作り方や集客の仕方は、いろんなセミナーに行って学べても、肝心な「何を商品にしたらいいんだろう」とか「自分はどういうところが売りなんだろう」というのがわからないまま、なんとなく始めちゃったので。売上は3ヶ月くらいずっと0でした。
そこで立ち止まって、自分は誰に何を提供できるのかを、すごく丁寧に自己分析していきました。今まで出てきたような、話を聞くとかももちろんできることの1つだったんですけど、並行して「営業やマネジメントがんばってきたな」とか「転職もいろいろしてきたな」とか。
いろいろやってきたことを振り返っていった時に、一番人から喜ばれた実感があったのが、話を聞いて「あなたってこういう人なんだね」とか「こういう強みがあるから、こういう作戦はどう?」みたいに部下に提案していたことが思い起こされました。なので、「強み発掘をするサービスを売ってみよう」ということでやってみて、初めて売上が上がったんですね。
結局こうして丁寧に自分のことを振り返る自己分析をしたおかげで、売れる強みが何なのかがわかり、事業が軌道に乗っていきました。
「人生が好転する時には、いつも自己分析をしていた」
——著書『適職はどこにある? 夢なしOLの「転職・休職・副業・起業」実践ストーリー』で、人生が好転する時にはいつも自己分析をしていたと書かれていたのがすごく印象的でした。自己分析の具体的な方法について教えていただけますか?
土谷:はい。まず「自己分析は就活でやってそれっきり」という人が多いと思うのですが、節目節目に1回やったからOKというものではないんです。本当に習慣のように、できれば毎日、少なくても数ヶ月に1回はする。「今の自分ってどんな状態なんだろう」「ここ1~2ヶ月で価値観が変わったかなぁ」「できるようになったことが増えたかなぁ」とかを、習慣レベルで自己分析しておくといいと思います。
過去の私はいつも壁にぶつかってから自己分析をしていましたが、例えばメンタルダウンで休職する前に、「今つらくないかな」「何がつらいかな」「どうしたら抜け出せるかな」と日頃から考えられていたら、防げたかもしれないなと思います。なので、できるだけ日常的にやるのが大事ですね。今は毎日レベルで自己分析するのが習慣になっています(笑)。
「価値観」と「強み」の2つの軸で考える
土谷:自己分析というと、すごくざっくりしていて「自分について知るって、何を知ればいいんだろう」となってしまうので、私は2つに分けて考えています。
1つは価値観の自己分析。「自分が今どういう気分か」「何が好きか」「最近のブームは何か」「ずっと昔から好きなものは何か」「これから何を目指したいか」とか、本当に正解とかがないような、自分が好きなものとか人、考え方を常にウォッチすることが1つ。
もう1つが強みの自己分析です。自分ができていることやできるようになったこと。できるという自覚はないけれども、何気なくやって人に喜ばれたこと。それこそ大きな成果とまでは言わないけど、とりあえずやっていても苦痛じゃないこと。
思いつかない時は「自分の弱み」を裏返す
土谷:そういった問いで思いつかない時は自分の弱みを裏返してみるのもいいです。例えば私だったら、「私ってすごく自分を追い詰めてしまうな」「働きすぎてしまうな」「物覚えが悪いな」というのは負の側面を見ているだけなんですけど。
そういうものも、「はまったら没頭できるんだな」とか「物覚えが悪いからこそ、すごく反芻して考える癖がついているな」「リサーチをいっぱいするようになったな」とか、裏側に「できていること」が必ずあります。そこをちゃんと見てあげることが大事だと思っています。
——自分の強みはパッと思いつかないけれど、ダメなところや苦手なことはわかるという人も多そうですね。まず自分の弱みから考えていくというのは、自分の強みを見つける上でヒントになりそうだなと思いました。実際に、土谷さんがお客さまからよく聞く自己分析に関する悩みはありますか?
土谷:ざっくり言うと、やりたい仕事や向いている仕事がわからないという声が多いですね。でも、漠然とやりたいことや強みを考えても、ある意味正解がないものなので、本当に終わりのない迷路をさまよう感じになってしまうと思うんです。
だったらまずは私が最初の転職で自己分析した時のように、「どこを目指したいのか」をとにかく明確にする。世間的にいいとされていることとかじゃなくて、自分が「本気でこうなりたい」と思える状態を明確にすることで、それに活かせる自分の特徴が強みになるし、それに向かってやることが、やりたいことになると思います。
——自分の「ありたい姿」を考えてから、どんな仕事なら叶えられるのか、という部分を具体的に考えていくことですね。土谷さん、ありがとうございました。