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佐藤舞氏インタビュー(全3記事)

「言われた仕事をして褒められる」たびに自分がなくなっていく… “統計のお姉さん”サトマイ氏が語る、「後悔しない転職」のヒント

本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。

今回は、『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』著者で、“統計のお姉さん”サトマイこと佐藤舞氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事では、新卒でパチンコ店に入社、転職先では適応障害になり退職したこともある佐藤氏が、これまでのキャリアの経緯や仕事選びの軸について語りました。

“統計のお姉さん”サトマイこと佐藤舞氏の人生遍歴

——佐藤さんは、中学時代は数学が一番嫌いだったとのことですが、21歳で野村総研の「マーケティング分析コンテスト」で賞を取られました。大学で統計学やデータ分析に打ち込まれた経緯を教えていただけますか?

佐藤舞氏(以下、佐藤):数学とか数字は本当に小学校2年生ぐらいから苦手意識があって、もう掛け算の段階でけっこう覚えられなくて居残りをしていた記憶があります。

テストの点数も70点~80点とかで、赤点を取るほどではないですけど、5教科の中では一番苦手でした。ずっとその状態で中学・高校と行っていたんですが、高校2年生の時に数学の担当になった先生がめちゃくちゃ教えるのがうまくて。その先生に教わり始めてから、微分積分のテストでいきなり満点を取ったんですよ。

その先生が別の学校に行ってしまった時にまた成績が下がったので、「教える人でこんなに変わるんだなぁ」という学びが高校の時にありました。それでも別に数学アレルギーが克服されたわけじゃなかったんですけど。

大学は経済経営学類で経営とかマーケティングの勉強をしていて、大学2年生の後期に自分のゼミを選ぶタイミングがありました。中学・高校あたりから、組織の中で働くよりは、将来は自分でお店を持ったり何かビジネスをやりたいと思っていたので、消費者の心理を科学的に解明する「消費者行動論」というゼミに入ったんです。

数学嫌いを克服しデータ分析に打ち込む

佐藤:そこのゼミの先生がけっこうスパルタというか、消費者の心理というふわっとしたものを定量化するアプローチをすごく大切にする先生でした。そこで統計学やデータ分析を強制的に学んだのが、一番のきっかけですね。

それまでは自分でデータ分析をやろうとは思わなかったんですけど、その環境にいたおかげで、仕方なく勉強することになりました。数学が苦手だった理由として、「将来何の役に立つかわからないものをやっている」と思っていて、モチベーションが湧かなくて勉強できなかったんですけど。

でも統計とかデータ分析って、目的がはっきりしているんですよね。ふわっとしてるものを定量化して「AとBどっちのほうがいいのか」をちゃんと数字で根拠を出して、人に説明するという目的があったので、おもしろいなぁと思って勉強するようになって、いつの間にか賞を取るまでになりました。

「自分と同じ強みを持ってる人」がいない環境で戦う

——そういったきっかけがあったんですね。今も統計を仕事にされていますが、キャリアを考える上で自身の強みをどう活かそうと考えられたのでしょうか?

佐藤:強みは自分では見つけられないと思っています。私も独立した後に人のキャリアに関わるお仕事をする機会が多くて、論文を調べることが増えてきました。そこでわかったこととしては、特に働く環境を選ぶ時に、やっぱりみんな仕事の満足度や収入が高いところで働きたいと思うじゃないですか。

特に仕事の満足度でいうと、自分の強みを活かした仕事に就くのはもちろんなんですけど、所属する組織の中で、自分と同じ強みを持ってる人が他にいない状態が、特に満足度が高くなるんですよ。

なので例えば私だったら、データ分析が得意だからデータ分析の会社に入るとなると、周りにもっと得意な人がいっぱいいて、相対的に自分の能力が下がってしまう。

もちろん、分析で賞を取るといった実績ベースのものは大事にしつつも、そのまま王道のコースでデータ分析会社に入るとかリサーチ会社に入ると(満足度が低くなりやすいんです)。

そこでも頭1つ抜けていれば満足度は高くなるんですけど、多くの人はそうじゃないので。もうちょっと自分の強みが相対的に活きる場所を選んだほうがいいなって、今はすごく思っていますね。

だから転職を考えている人も、やっぱり客観的なフィードバックって絶対に必要です。会社にいれば社内での自分の立ち位置はわかるんですけど、雇用市場というもうちょっと幅広いところで考えれば、あなたの能力を欲している会社って他に絶対あります。

それが自分の視点だけだとわからないので、転職のエージェントさんなどに客観的に今の市場価値を見極めてもらうことが大切だと思いますね。

就活に失敗、新卒でパチンコ店に入社

——ありがとうございます。グラフでは、「マーケティング分析コンテスト」で受賞された後は就活に失敗し、新卒でパチンコ店に就職されたとあります。パチンコ店に入社された経緯をおうかがいしてもよいでしょうか。



佐藤:はい。パチンコ屋さんに入社したのは、内定をもらえたところがそこしかなかったからなんですよ(笑)。自分はマーケティングやデータ分析の仕事をやりたいなぁと思って、コンサル会社やウェブマーケティング会社の入社試験を受けたんですけど、もう全滅でした。

そこで自信をなくしていた時に、たまたま合同説明会でパチンコ屋さんのブースがあって。そこの人事担当の人が、めちゃくちゃコミュ力が高くて「とりあえず話聞いてみなよ」みたいな感じで言ってくれたんです。

そこからはとんとん拍子に内定をいただいて、正直就活に疲れていたので、「もういいかな」みたいな感じで入社したんですね。なのであんまり戦略を持ってやっていなくて、ぶっちゃけ就活をなめてました。(笑)。

というのも、就活の時にちょっとうつっぽくなるくらい辛くて。お祈りメールが何本も続くと、「あ、自分は社会に求められていない人間なんだな」って、すごく自己肯定感が下がっちゃったんです。

入社試験の結果と自分自身の存在価値を、けっこう同一視してたと思います。もうちょっと俯瞰した視点で論理的に「今回は縁がなかっただけだよね」って思えたら、心折れずにいろんな会社を見られたかなって思いますね。

「こんなはずじゃなかったのに」という挫折感との向き合い方

——「やりたい仕事に就けなかった」「こんなはずじゃなかったのに」という挫折感を持つこともあると思いますが、どんなふうに考えていったらいいのでしょうか?

佐藤:これは結果を出すしかないと思っています。例えば今こういうふうに取材をしてもらっているんですけど、それは今まで私が失敗したことの伏線回収をしているんですよね。

いい家に生まれて、いい大学に行って、いい企業に就職して独立してっていう、まったくノイズのない成功路線を歩いてきた人の話よりも、たぶん私みたいに本当に凡人で不器用な人がいろいろ失敗した経験とかをシェアすることによって、人に貢献できることがあると思うんです。

なので、その時々では失敗するかもしれないですが、ロングショットで見ればそれも1つのストーリーというか。

ただ、失敗を失敗のままにしてしまうと伏線として回収できない。失敗を元にその後結果を出さないと、人って話を聞いてくれません。失敗したことをチャンスととらえて、「V字回復させて後でネタにしよう」みたいなモチベーションを持てるといいんじゃないかなと思います。

後悔しない転職をするための「損切りライン」

——ありがとうございます。とはいえ転職をする時に「後悔したくない」と思う方が多いと思いますが、後悔しない転職をするために大事なポイントはありますか?

佐藤:これもけっこう難しいんですけど、例えば後悔しないためにリサーチをしすぎることがあると思います。

これは起業する人も同じなんですけど、情報収集をすればするほど、リスクが怖くなって動けなくなるんですね。心理学用語で分析麻痺と言うんですが、分析のしすぎで動けなくなってしまう。

なので分析することも大事なんだけれども、まず自分で1回行動してみて、どうだったのかのデータを取ってみる。「失敗するかもしれないけど、その失敗からまた何かを学んで次の転職活動に活かせばいいじゃん」という考え方ができるといいと思います。

あとは損切りラインを決めるのはやっぱり大事かなと思いますね。「いつ、何歳までに何をやる」と決めておいて、この企業に入って1年ぐらいで見極めて、その後良かったら続けるし、微妙だったら辞めるとかのラインを引いておくのは、1つポイントかなと思います。

同僚よりも得意だった「シフト表の作成」が転職のきっかけに

——なるほど。将来像から逆算して考えて、自分の中である程度の計画性を持つのが大事ですね。佐藤さんご自身も、アミューズメント業界から物流という、まったく違う業種に転職されましたが、その決断をされた経緯を教えてください。

佐藤:パチンコ屋さんの仕事自体はそんなに好きでも嫌いでもなかったんです。最初の1年ぐらいは普通にホールに出たり、カウンターのスタッフをやったりして、主に現場で働いていました。その後1年ぐらいは新店の立ち上げの手伝いをしたり、新入社員の教育をしたりしました。あと店舗の裏方として、経理や事務、総務関係とかバックオフィス関係をやっていたんですよ。

その時に、同じ職種の同僚が30人ぐらいいたんですけど、周りと比較して自分が一番得意だったのが、シフト表の作成でした。

シフト表の作成はけっこう細かいルールがいろいろあって、パズルを組むようなお仕事なんですよね。その仕事は私が一番速くて得意だったんですけど、「なんでなんだろう」と思った時に、やっぱりパズル的な仕事がけっこう得意で好きだなって思ったんです。

パチンコ屋さんで2年目になった時、このままいったら自分のキャリアってこのぐらいで、収入ってこれぐらいだよねというのが、ある程度見えてきちゃって。それよりは別のところを経験したいなぁと思っていた時に、そのシフト表の作成のようなパズルを組み合わせる仕事だったら、飽きずに取り組めると思ったんです。

物流の仕事は、「このドライバーさんは、この日何時にここに荷物を取りに行って、その次にここで降ろして」という、まさにパズルを組み立てるような仕事だったので、そういった軸で選びましたね。


転職先の人間関係に悩み適応障害に

——なるほど。自分が得意な業務をヒントにして、得意なことを活かせるような道を選ばれたんですね。

佐藤:そうですね。そのあたりから「他人と比較して自分の強みって何なのかな」と考える習慣がついてきた気がしますね。

——その後、27歳の頃にモチベーションがガクッと下がってマイナス100パーセントになっています。このあたりはどんな状態でしたか?

佐藤:田舎の中小企業で物流の配車という仕事をしていたんですけど、スケジューリングの仕事自体はたぶんかなり得意なほうでした。でも、根回しをしないと自分のやりたいことをやってもらえないとか、人間関係がめちゃくちゃウェットなんですよ。

あとはドライバーさんの管理をするマネジメント職だったのですが、ドライバーさんが自分よりも一回りも二回りも年上のおじさんばっかりで、本当にマネジメントするのが大変なんです。わがままだし言葉も乱暴だし、私が当時25歳とか26歳なので、まぁなめられるというか。

上司に相談してもなかなか取り合ってくれなくて、「それも含めてお前の仕事だから」って、けっこう投げられて、適応障害になってしまったんです。それで心療内科に通っていったん休職しました。

その後も、職場に戻るのは大変だし、さらに転職するにしても、「たぶん私は組織で働けないかもしれない」と。社会不適合者なのかなと思って、退職して約1年間ぐらいは自分探しをしました。ずっと自分でビジネスをやりたいと思っていたので、この際だからやってみようかなという感じで、先立つものもなく会社を辞めてしまいましたね。

「言われた仕事をして褒められる」繰り返しに疲れていた

——佐藤さんは、大学卒業から現在まで、仕事選びで大事にしていたことはありますか?

佐藤:最初に新卒でパチンコ屋さんに入った時は、「自己分析しても意味ないじゃん」って、ちょっと思っていました。というのは、私はいい意味でも悪い意味でも、自分にそんなに自信がないんです。(就活の時点では)「今までちゃんと社会に出て働いたことがないのに、自分の得意なことなんてわかるわけないでしょ」って思っていたんですよ。

なので、自分が行きたいところに行くよりも、もうすでにキャリアも積んでいて、人事の人が「うちでぜひ働いてほしい」って言うんだったら、何かしら貢献できることがあるんじゃないかと、とりあえず求められるところに入ろうと思いました。最初は自分をすごく求めてくれるところに入ったほうが、何かで貢献できるんじゃないかなっていう軸で選んでいましたね。

——その軸で働かれてみて、実際はどうでしたか? 

佐藤:そうですね。パチンコ屋さんの中では、わりと出世も早かったほうですし、たぶん貢献できることはすごく多かったと思います。

「辞める」って言った時は、直々に会長から「辞めないでくれ」って言われるぐらい惜しまれて辞めたんですけど(笑)。相手が求めることに応えられるのは良かったのですが、同時に会社に迎合しているというか、だんだん自分がなくなっていく感じもありました。

とりあえず会社に言われたことを100点満点で返して褒められるっていう、承認欲求を満たす繰り返しに、だんだん疲れてきたというか。例えば私が何か大きなミスをした時に、今まで褒められてきたのが「やっぱりお前いらないわ」ってなったらすごく傷つくなと思うようになりました。

最初は会社や社会が求めてくれることをやるという軸で選んだんですけど、それをずっと繰り返していたら、だんだん恐怖心が芽生えてきたのが、最初の就職先での学びですね。

完璧主義で失敗を恐れる若者が増えている

——自分がやりたいこともだんだんわからなくなっていって、なんとなくしんどいという状況ですね。でも、自分がやりたいことがわからない人もやっぱり多いのかなと思いました。

佐藤:そうなんですよ。今、世界的に若者の完璧主義が増えていて、タイパやコスパを重視して一発で決めにいく人がけっこう多いそうです。最初から自分の理想とする会社に入りたいとか、理想とする人と結婚したいと思うあまり、なかなか一歩が踏み出せない。完璧主義で失敗を恐れるあまりに仮説検証を繰り返せない人が増えているらしいです。

——そうなんですね。佐藤さんとしては、1回で理想のところに行こうとするよりは、いろいろ回り道をしたほうがいいとお考えですか?

佐藤:これも結論人によるかなと思っています。ドイツの鉄血宰相と呼ばれたオットー・フォン・ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言があります。「人はこうしたほうがいいよ、こうすると失敗するよ」という歴史を踏襲して、自分のキャリアとか人生戦略に活かせるような人はそれでもいいと思うんですけど。

私みたいに本当に普通の人間からすると、歴史から自分のキャリアや人生戦略を選ぶと、「もしかしたら他にもっといい選択があったんじゃないか」とか、それはそれで迷っちゃうんです。

結局自分で体験して痛い目を見ないとわからないんですよね。だから賢い人は失敗しないように「こういう道で行ったほうがいいよね」というふうに歩むのでいいと思うんですけど、たぶんほとんどの人は、失敗したとしても、自分で体験しないと納得しないと思います。

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