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成果が出せない=「能力がない人」とみなす能力主義の組織の問題点(全4記事)

成果が目立つ「攻めのタイプ」ばかり採用しがちな職場 「優秀な人材」を求める人がスルーしているもの

近年は人手不足や人材獲得競争の激化が深刻化しています。一方で、個人の能力によって、人を「選び」「選ばれる」能力主義が、職場では根強く残っています。環境、機会、適性など、成果に影響を与える要因が多岐にわたるなかで、成果と能力を直結させる風潮を見直す必要があるのではないでしょうか。

そこで今回は、組織開発専門家の勅使川原真衣氏にインタビューを行いました。本記事では、「優秀な人材」を求める人が見落としがちな視点についてお伝えします。

「優秀な人がいない」と言って、素質のある人を落としていないか?

——今、特に中小企業では人手不足が深刻化していますが、能力主義から脱却することで、採用はどう変わっていくと思われますか?

勅使川原真衣氏(以下、勅使川原):優秀かどうかという、わかるようでわからない基準を設けると、いっぱい取りこぼすことになります。大企業で(たくさんいる応募者を)絞るための手段ならいいんですけど、中小企業まで同じことをして、よくわからない“優秀さ”を求めていたら、誰も採用できないんですよ。

優秀かどうかじゃなくて、今やろうとしていることに対して、「どういうピースが足りなくて、どういう人を求めてるんだっけ?」というのを明らかにした上で、組み合わせありきでマッチングしていくという思考なら、採用も変わるはずです。

さっきのレゴブロックの話で言えば、昨今の人材開発や人的資本は、1つのレゴブロックのピースについて「素敵な波であれ」「素敵なお城であれ」と言いすぎていて、小さくまとまった優秀さを求めてしまっている。でもそれって、あり得ないじゃないですか。そうじゃなくて、凸凹ありきのものを組み合わせて、すごいものを作ればいいということです。

——実際に、組み合わせの考え方を取り入れて、うまくいった企業のエピソードはありますか?

勅使川原:まさに集英社新書の『働くということ「能力主義」を超えて』という本で書いた、シンさんという人の事例があります。中小企業で営業職の部長をしているのですが、「優秀な人が採用できない」という悩みをお持ちでした。

「優秀ってなんでしたっけ?」と言うと、「僕くらいできる人です」という基準で、すごい数の面接をしていました。だけど、やろうとしてることは何で、それに対して現状のメンバーはどういう機能を担っているか。しっかり人材のマッピングをした上で(欲しい人材は)アクセルなのか、ブレーキなのか、もう一度考えることにしたんです。

そうしたら、「求めていたタイプじゃない人がいてくれたら、本当は助かるのかも」と気付いたり。ないしは、自分が変な基準に縛られたために、素質のある人をたくさん落としてしまっていたことに気づかれたんです。それで、もう一度採用の基準を見直していただき、しっかり活躍ができる人に入ってもらって、組織としてうまくいったということがありました。

「攻めのタイプ」ばかり採用しがちな組織

——今おっしゃったシンさんの場合だと、やはり営業職ということもあって、最初はアグレッシブに顧客にアピールできる攻めのタイプを求めていたのでしょうか。

勅使川原:おっしゃるとおりです。営業会社さんの相談はけっこう多いんですけど、同じようなことをおっしゃいますね。主体性があって、アイデアがある人は、舵取りができてる感が目立つんですけれども。商品にもよりますが、営業ってやはり突破していくことプラス、しっかり刈り取って運用していく、保全的な部分も必要ですよね。

そうした時に、1人の人間にそこまでのパーフェクトさを求めるんじゃなくて、どっちに強みがあるか次第で組織で組み合わせれば、問題ないと思うんですよ。

うまくクロージングはできない気の弱いタイプであっても、しっかりお客さんの契約を運用していくことは、ぜんぜん苦なくできる人いますよね。守りのタイプとは逆で、売るのはうまいけども、その後のフォローとか改善活動にはまったく興味がない、運用が苦手な人もいっぱいいます。

——なるほど。中小企業は、大企業とは違う採用のやり方をしていく必要があるんですね。

勅使川原:大企業に必要なことでいくと、今はメンタルヘルスの問題で、「活躍していない人をどうしたらいいか」という悩みもよく聞きます。それもやはり、「活躍していない人は能力が低いからである」とか「3ヶ月休職させればなんとかなるだろう」ということじゃなくて。全員を活躍させたいなら「社内の組み合わせに問題がなかったのか」という検証作業が必要だと思います。

脱・能力主義につながる「ジョブ型雇用」

——今、大企業を中心にジョブ型雇用を取り入れる企業が増えていますが、能力主義が強まっていくのでしょうか?

勅使川原:ジョブ型は能力主義とはまったく違うんですね。むしろ今は、メンバーシップ型
雇用をしているので、「(その人が)何ができるか」よりも、「あの人って使えそう」とか「いい人だから」とか「カルチャーフィットがあるから」とか、曖昧な能力主義が進行してしまっていると考えています。

メンバーシップ型雇用を続ける限り、とりあえず和を乱さず何でもできそうなユーティリティプレイヤーを目指していくかたちは変わらないと思うんです。でも、本当に人と人を組み合わせるのであれば、「その人は何ができるか」という発揮しやすい機能の把握プラス、「どこならはまりやすいか」というマッチング先の情報が必要なはずです。

そして、その情報になるのが企業側のジョブ、言い換えると職務要件なんです。「この仕事はこういう側面が強いから、こういう人に来てもらうと、おそらくマッチングしやすいです」という情報が、本当は必要なんです。それを整えるのがジョブ型雇用なんですけども、現実はできていないですよね。

メンバーシップ型雇用だと、曖昧な能力主義のままで運用し続けることができてしまうので、職務要件を整える必要もない。マッチングという概念がないために、「できない人はさようなら」という状態でいけてしまうので、企業は楽なんですよ。特に大企業は、これまでの方針を改める必要もなく、選び抜いていけばいいだけなので、ジョブ型がなかなか推進されないんですけども。

本当は職務要件をちゃんと整えて、個人(の特性)もちゃんと見た上で組み合わせていくことが必要です。それをちゃんとやると、意外にも脱能力主義につながるんですよ。

日本企業では「職務要件定義」が難しい理由

——ジョブ型を進めていったほうが、能力主義から脱却できるというのは意外でした。働く個人にとっても、ジョブ・ディスクリプションで自分ができること・できないことを明確にするので、本当にマッチした仕事ができるようになるのでしょうか。

勅使川原:そうですね。「生き抜く」というよりは「生き合う」感覚、選抜的ではない組織開発に近いのは、実はジョブ型だと思います。

今のままでは、日本はジョブ型もワークシェアリングの概念も進めにくいと思うんですけれども、それも同じ現象なんですね。やはり曖昧な能力主義をもとにしたメンバーシップ型雇用を続けているがゆえに、職務要件定義が遅れている。仕事をシェアする前には、(要件で)区切らなきゃいけないじゃないですか。ところが、仕事をすごく曖昧に捉えているので、区切れないんですね。

本当は今も昔も万能な個人はいなくて、メンバーシップ型雇用も、より「万能っぽい人」を選んできたということだと思うんですけど。人口減少社会でもあるし、逆に言うと、ケアの思想が待ったなしで必要になってきている。

つまり、これまでケア労働を専業主婦に強いてきたのが、明らかに変わってきていますよね。働きながら家のことや介護もする人が増えてきている。そういう意味でのダイバーシティがある中で、もう万能な個人を24時間働かせるみたいなのは、ケアの観点から言っても非現実的かと。

それであれば、ちゃんと職務を定義して、みんなで少しずつ担い合う。北欧型みたいにしていかないといけないんじゃないかなと思っています。

AIが発展した未来で、「能力主義」はどう変わる?

——今後はAI技術が発展して、人間の仕事に取って代わるとも言われていますが、能力主義の考え方も変わっていくのでしょうか。

勅使川原:AIに疎いので何ができるかわからないんですが。例えば「Slack」のやり取りを読み込ませて、「この人の職務に必要なのはこういう機能だ」というのが割り出せたりしたら、もっと職務要件定義も進んでいって、ゆくゆくはジョブ型や脱能力主義になっていく可能性があるのかもしれません。

あとは(人と仕事の)マッチングのシミュレーションが、AIのほうが上手なのであれば、それを採用の時点でやれるといいんじゃないかなと思います。良し悪しや優劣をつけるために技術を使うんじゃなくて、組み合わせの模索のためにシミュレートする……できるかどうかわからないですけど。

——現状、「今いるメンバーはアクセル側に偏りすぎですよ」とかはできそうですよね。

勅使川原:そうそう。Slackとかの文字情報であれば、観察して答えを紡ぎ出すのはまだ難しいと思いますけど。使う表現の偏りによって特性を分類するのは、もしかしたらどこかの会社がやっているかもしれないので、もしあれば商品化が楽しみでもあります。

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