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常見陽平氏インタビュー(全3記事)

「静かな退職」は真っ当な選択か 尽くしても報われない働き方への違和感

【3行要約】
・「本来の役割を果たすだけ」の姿勢がなぜ批判されるのか。「静かな退職」は、全人格を会社に捧げる日本型雇用の呪縛を解く、極めて合理的で真っ当な選択です。
・常見陽平氏は、近年の現象を「資本主義や企業社会への諦め」と分析し、無理にコミットしない生き方は現代社会への切実な問題提起であると指摘します。
・労働の優先順位が多様化する中、企業としがみつかない個人はどう向き合うべきか。人手不足が生んだ「選べる時代」における、健全な仕事との距離感を見つめ直しましょう。

「静かな退職」は真っ当な選択

——今日は「静かな退職」をテーマにおうかがいしたいと思います。さっそくですが、近年「静かな退職」という言葉が注目されていると思います。常見さんはこの現象をどのように見ていますか。

常見陽平氏(以下、常見):はい、静かな退職ですね。これは非常に丁寧に扱わないといけない問題です。奇異な若者論だとか、若者けしからん論に回収してはいけないと思っています。

「静かな退職」は誰にとってどういう問題か、という問いがとても大事です。実は、静かな退職は真っ当な選択だと言えるわけです。

——真っ当な選択ですか。

常見:真っ当な選択です。世界的に注目されていますが、日本においては、非常に大きな問題提起だと思っています。なぜ今までなかったんだろうと思うぐらいです。というのも、働く上で、なぜ日本人は働きすぎてしまうのだろう、と感じるからです。もっと言うと、時間ベースでもコミットメントでも、働きすぎているところがあると思います。

メンバーシップ型雇用の下、全人格、全能力を会社に差し出すというのが日本の労働の悪しきところと言われていた中で、静かな退職は、別に退職するわけではなく、本来果たすべき役割を果たすだけという意味では極めて合理的な選択です。

それがなぜ悪く言われなければいけないのか、と。ある意味、真っ当な問題提起だと思います。


根底にあるのは資本主義への諦め

——なぜ静かな退職という現象が起こっているのでしょうか?

常見:静かな退職現象が起こる原因を、個人の能力や資質に回収してはいけません。これは、会社と社会の問題です。

アメリカから始まったと認識していますが、FIREのように早く稼いで早く辞めるという考え方や、今回の静かな退職も、言ってみれば、今の企業社会、資本主義経済、労働社会に対する、ある種の諦めのようなものが表れているのではないでしょうか。

リーマンショックが提示したのは、いくらビジネススクールに行ったり、IT企業やコンサル会社に勤めたり、証券会社でお金を動かしても、資本主義経済の下では、株価がちょっとしたことで乱高下し、私たちの夢、いや生活は崩れてしまうのだという現実でした。この仕組みの中でがんばる意味はあるのか、結局は投資家たちがかすめ取っていくのだろう、という思いが生まれたわけです。

ピケティ理論ではありませんが、稼ぐよりも投資したほうが儲かるということもだんだん明らかになっていく中で、働くのは馬鹿らしいのではないか、という感覚になっていくわけです。それに比べれば、静かな退職は辞めないわけですが、根強くあるのは、企業社会・労働社会に対する諦めや呆れのようなものだと思います。

静かな退職が起こりやすいのは、そもそも「この会社はいいことをしているのか」「この仕事に意味はあるのか」といった疑問が生まれる環境です。さらに、そこには多くの矛盾があるとも言われています。建前と実態が食い違っている、という認識です。

例えば、「すばらしい労働環境だよ」と言いながら、結局は従業員に一生懸命働いてもらって儲けるためでしょう、という冷めた見方があったりします。

あるいは、ジェンダーエクイティやダイバーシティ、インクルージョンを推進すると言いながら、実際には男社会だったり、いまだにセクハラやパワハラのようなものが残っていたりします。

また、明らかに優れていない商品やサービスを、大人の事情で売り続けなければならないこともあります。このサービスは環境を少し汚染しているとか、便利ではあるけれど、スマートに見えて矛盾を抱えているとか、そうしたことです。

テック企業の悪口を言うつもりはありませんが、AIがいろいろなことを解決してくれる、新しいテックが出てきたと言いながら、結局はコンピューターを使って地球の温度を上げていたり、エネルギーを消費していたりします。そして、そのエネルギーにも多くの矛盾がある、という現実に直面してしまうわけです。

そういったことも含めて、一種の諦めのような感覚があります。このままいっても出世できるのだろうか、それなら一生懸命やっても無駄なのではないか、という思いです。

そういう意味では、一生懸命働かないことを過度にマイナスに捉えるのではなく、キャリア形成上どうなのかという議論はありつつも、ある意味でピュアで真っ当な判断なのではないか、という見方もできると思います。

メンバーシップ型雇用の日本において「静かな退職」は勇気がいる

——海外だとQuiet Quittingという名前で広まっていますが、日本の静かな退職とまったく同じものでしょうか。違うとしたら、どこが違いますか。

常見:まったく違うというわけではありませんが、日本のほうが静かな退職には勇気がいると私は思っています。なぜかというと、メンバーシップ型の労働社会、つまり就社型・入社型で、どちらかというとジェネラリスト型の社会における静かな退職のほうが、あらゆる点で勇気がいることだと思うからです。

今、日本でもジョブ型が広がりを見せていたり、限定正社員といった、労働時間や仕事の範囲を区切った正社員という像が出てきたりしています。とはいえ、やはり会社に入社する仕組みがマジョリティです。

よく日本の雇用契約は「空白の石版」と言われますが、入社してから「申し訳ないけど福岡で営業ね」と言われることもあるわけです。

「エンジニアをやりたかったんだろうけど、ごめん。君はコミュニケーションスキルが高いから広報をやってほしい」といったこともある。しかも、さまざまな社内プロジェクトや新人としての雑務がある中で静かな退職をするというのは、よりロックなのではないか、という見方もできます。雇用システムとあわせて考えると、なかなか奥深い話だと思います。

ただ、少し気になるのは、アメリカにおけるQuiet Quittingには、資本主義への諦めや企業活動の矛盾といった大きなテーマまで含まれているのに対し、日本の場合はそこまでを前提にしているのかというところです。そこはまだ私自身も判断しかねています。

見ている限り、日本の場合、そうした矛盾に気づいた人は、結局その企業を辞めてフリーランスになったり、自分なりに理想の働き方をつくろうとしたりする流れがあります。

そこに反資本主義的な意思や、今の企業社会・労働社会に対する問題提起としての覚悟があるのかどうかは、正直なところよくわかりません。ただ、そうした覚悟を一労働者に求めるのも酷な話です。

この雇用システムと結びつけて考えると、なかなか奥の深いテーマだと思います。


求人倍率と人手不足が生んだ働き方の変化

——先ほど冒頭で、静かな退職はある意味合理的だというお話がありましたが、常見さんは労働社会学やHRの観点から現場を見てこられたと思います。ここ数年で、働く人の意欲や働くことに対する向き合い方は、どのように変化してきたのでしょうか。

常見:そこは大きく変わったのではないかと思っています。会社との距離、仕事との距離、そして労働の優先順位です。

静かな退職に「ん?」と思うのは、平成の労働社会、特に平成中期ぐらいまでの労働社会を知っている人とのギャップが大きいからではないでしょうか。

少し昔話をしますが、私は今年52歳になります。1974年生まれの松井秀喜世代で、第2次ベビーブーマーです。当時よく起こっていたのが、就職氷河期世代の犠牲者が新自由主義者化するという異様な流れです。

今の40〜50代は、がんばらないと生き残れない、常に雇用の不安がある、という社会を生きてきた世代だと思います。

今回、『日本の就活』という本を書いたのですが、平成・令和の労働市場には3つの危機がありました。就職氷河期、リーマンショック、コロナショックです。

ただ、データを見る限り、コロナショックはマインド面やさまざまな制約という意味では甚大な影響がありましたが、求人倍率の面ではほとんどダメージを受けませんでした。

実は有効求人倍率は、リーマンショック以降、コロナの時に少し下がった以外は、大きなトレンドで見ると上がり続けています。それに加えて、人手・人材不足が深刻化していることや、働き方が多様化してきたことも大きいと思います。まだ途上ではありますが、フレックス寄りになったり、リモート前提やハイブリッド前提になったりしています。

採用と転職の変化が変えた、会社との距離

常見:特に若年層に関しては求人が非常に多く、さまざまなマッチングサービスが増えてきました。就職・転職の前提が変わってきたのが大きなポイントです。

昔は端的に言うとメディア型、つまり応募するのが前提でした。中途採用ではエージェント型やリファラル型もありましたが、今は新卒も中途も、応募型、スカウト型、エージェント型、さらにはリファラル型へと広がっています。

転職も退職も、以前よりしやすくなりました。

さらに大きな変化として、新卒一括採用はよく「崩壊」と言われますが、根強く残っています。むしろ、これほど新卒採用に熱心な時代はないと思います。

なぜかというと、明確に求人倍率が高く、在学中の早期アプローチが加熱しているからです。しかも求人倍率が高いにもかかわらず、若者、特に上位校の学生ほど前のめりに取り組む流れが起こっています。

一方で、大きく変わって良いことだと思うのは、企業が中途採用、経験者採用、既卒未経験者採用のようなものにも力を入れ始めたことです。

かつて新卒一括採用の象徴と言われたメガバンクが、今では新卒と中途の比率が6対4、あるいは半々になっています。年間の採用人数の話ですが、入社後はプロパーがまだ多いとはいえ、総合商社や損害保険の大手企業なども、新卒と中途が半々程度になり、入るチャンスが増えました。

つまり、1社に気に入られてしがみつく以外の選択肢が増えたということです。

労働の優先順位はどう変わったか

常見:よく「終身雇用崩壊」と言われますが、実際にはバンバン解雇できる社会になっているわけでもなく、なんだかんだ言って多くの人は長く勤めます。それでも、最初の1社にしがみつく以外の選択肢が増えたことで、労働の優先順位が一律ではなくかなり多様になってきていると感じます。

そこで起こっていることは複雑です。データを見ると、ワークライフバランスに関しては「ライフ重視」という回答がアンケートでは必ず出てきます。

一方で、仕事重視という人も根強くいます。ただし、それは仕事重視というよりはお金重視で、仕事は仕事と割り切っているということです。

今、コンサルやテックが人気だと言われていますが、それを選ぶのは合理的です。難関を乗り越えて入ったという達成感があり、業界として食いっぱぐれにくく、内部での流動性もある。さらに、いわゆる「学生時代に力を入れたこと」のような不毛な競争をしなくても、能力を証明すれば採用される点も魅力です。

そのため、「とりコン」、つまり「とりあえずコンサル」という言葉があると言われており、そうした流れが顕著になっています。

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