【3行要約】 ・「静かな退職」が課題になっている中、その背景についてGreat Place To Work(R) Institute Japan 代表/働きがいのある会社研究所 代表取締役社長の荒川陽子氏に聞きました。
・荒川氏は静かな退職者を実践するビジネスパーソンに対し、AI代替やリスキリングの波に取り残される「中長期的な生存リスク」を指摘します。
・現状を打破するには、会社が変わるのを待つのではなく、サーベイ結果などの客観的なデータを活用して自分たちで職場を改善する「主体的アクション」がカギとなります。
前回の記事はこちら 静かな退職は周囲にも悪影響
——続いて、「静かな退職」を選んでいる人の目線から考えていきたいと思います。
御社のレポート
「静かな退職に関する調査2025年」によると、「静かな退職を実践している人の5.4パーセントしか職場での孤立を不安に思っていない」とあります。この背景にはどういった心理があるんでしょうか。
荒川陽子氏(以下、荒川):静かな退職を選んでいる人たちは、自分の言動・行動が職場に対してあまり影響を与えないと思っている傾向があるんですね。なので、孤立することも別に気にならない。
「我関せず」という感じで、本当に必要最低限の仕事だけやって、お給料をもらって、できる限り早く帰れればいいと考えている。それで孤立していると表現されたとしても、別に気にならない。自分のやりたいことをやって帰るという感じになってしまっているということです。
また、自分の振る舞いが周りに対して影響を与えているとも思っていない。上司からすると「静かな退職を選んでしまっている人がいると、職場の一体感に悪影響があると思っている」という結果が出ています。ですが本人はそう思っていないので、管理職にとってはこのギャップがマネジメントを難しくしているなと思います。
——確かにそういう方が職場にいると、「自分はこんなに大変なのに、あの人はがんばっていないよなぁ」と、ちょっとモチベーションが下がってしまうかもしれないですね。
荒川:そうなんですよ。私はその悪影響がけっこうあると思っているのですが(笑)。でも、静かな退職を選んでいる人は「関係ないや」という感じだと思うので、やはり静かな退職をいかに未然に防ぐかが大事だと思っていますね。
変化の激しい時代におけるリスク
——静かな退職という働き方は、長期的な目線ではキャリアにどういったリスクがあると考えますか。
荒川:本人にとっては、まず自ら成長するとか、キャリアの展望を開く可能性を閉ざしていることになります。短期的には今の生活水準は維持できると思いますが、中長期の時間軸で考えると、その仕事はAIに代替されるかもしれませんし、アウトソーシングされてしまうかもしれません。
今の世の中は変化のスピードが速いので、自分自身の将来的な収入とかキャリアを自ら手放している可能性があるということを、まず認識する必要があると思います。
もちろんそれでも最低限生活できれば良くて、プライベートがとても大事なのであるとか、株式投資で成功しててFIREしているんだったら話は別なんですけども(笑)。そうでないのであれば、静かな退職を選択するリスクは認識したほうがいいと思います。
——そういったリスクを防ぐために、仕事へのモチベーション向上のためにできることはありますか。
荒川:テクニックとしては、本人にとっては静かな退職を選びたくて選んでいるわけではないというか、自分から積極的にパフォーマンスを下げに行ってるわけではないと思います。
仕事の中でしっかりパフォーマンスを発揮していくためには、やはり自分の強みをちゃんと棚卸しをして戦略的に活用していくことが必要だと思います。
若いうちは弱みを克服することがすごく大事ですが、ある程度キャリアを重ねてくると、強みを伸ばしていく発想が求められます。なので、自分は何が得意なのかとか、何をやりたいのかをしっかりと見極めていくことが大事です。
これは最近声高に叫ばれているキャリアオーナーシップの考え方にも共通する考え方なので、自分の強みをしっかりと棚卸ししていくことが大事ですね。
「静かな解雇」という新たな現象
——リスクに関連する話として、昨今よく聞くようになったワードとして「静かな解雇(特定の社員に適切な役割や業務が割り当てられなくなる現象。結果として、社員のモチベーション低下やキャリアの停滞を招く)」があるかと思います。御社の調査でも、そういった傾向を目にすることはあるのでしょうか。
荒川:その点で言うと、私たちの「働きがいのある会社を増やす」というミッションに共感いただいて、認定やランキングにチャレンジいただく会社さんは、基本的にかなりポジティブなんですね。
「メンバーのやりがいや働きやすさを最大化することが成果につながって、それが組織としてのパフォーマンスにプラスに働くのである」ということについて、明確に共感いただいている経営者、人事のみなさんがお客さまなんです。
なので、静かな解雇のように意図的に従業員を退職に追い込むことはやらないので、正直、あまり具体的な情報は私の手元には入ってきていないです。ただ、やはり日本の雇用慣行の中で解雇しづらいのは事実です。(モチベーションの下がっているメンバーが)今のスキルのままだとこの先活躍できないから、どんどん再配置やリスキリングをして、なんとかもう一回活躍してほしいという動きが起きています。
でも、それについていけない人は辞めていただくしかない。だけど解雇はできない。この苦しさに板挟みになっている経営者がいるのも世の中的には事実だと思います。直接そういう方からお話を聞いたわけではないのですが、これは日本において、これから大きい問題になってくるんじゃないかなとも思います。
客観的な事実を持って組織改善に取り組む
——メンバーが「上司から期待されず、静かな解雇の状態になっているかもしれない」と感じた時に、上司に働きかけるためにできるアクションにはどういったものがあるのでしょうか。
荒川:それはすごく良い観点だと思っています。上司や人事が職場を良くしてくれるのを待つという受け身の姿勢ではなくて、自分からアクションを起こすことが非常に重要だと思うんですね。
その時に、あまり主観的に自分が辛い、苦しいみたいな話をしてもしょうがないので、いかに客観的な事実をもって、周りの力も借りながら、上司や会社を巻き込んでいけるかがポイントになると思います。
例えば働きやすさの改善はけっこう手をつけやすいと思うのですが、職場ですごく残業が多いとか、人間関係がよろしくないとか、いろいろと気になることがあると思うんですよね。
そういうことを具体的に、事実ベースできちんと捉えたり、それが起きていることによって「生産性がこれぐらい落ちています」みたいなことをデータ化できるとより良いです。
基本的に、今は多くの会社で従業員のエンゲージメントサーベイをやっていると思うので、そういうデータを公開してもらうとか。自分の職場の結果を開示してもらえるように、人事や経営に要請していくのも1つの手段としてあると思います。
——なるほど。データとして見えるようになることで、課題がわかりやすくなると。
荒川:その結果を見ると、全社の結果と比較して自分の部署がどういう状態にあるかをデータで把握できるので、それを職場のみんなで見てみる。そうすると、なんとなくみんなが感じていたことがデータで出てくるので、「じゃあ、これを良くするためにどうしたらいいんだ」ということを考えてみる。
「人事や上司だけの仕事ではなくて、自分たちにもできることがあるよね」と、自分ごととして捉えて改善のアクションを打っていくことが非常に大事だと思いますね。