【3行要約】
• 「静かな退職」が若者を中心に広がっていますが、その背景には職場での「つながりの喪失」という根深い問題があります。
• 組織論の専門家・高橋克徳氏は、2000年代から職場のタコツボ化が進み、仕事の小さな喜びを共有できない環境が生まれたと指摘。
• 経営者や管理職は、対話の機会を増やし、人としてのつながりを感じられる職場づくりに取り組むことが急務です。
静かな退職と働かないおじさんの根幹にある「つながりの喪失」
——今、明確に辞める意志を表さずに、努力をやめ、必要最低限の業務だけをこなすようになる「静かな退職」が増えていると言います。特に若者に多いと言われていますが、こうした現象が起きるようになったのはなぜだと思われますか?
高橋克徳氏(以下、高橋):今、組織の中で何かとつながっている感覚が失われてきているんです。ある意味、仕事とのつながり、職場の仲間とのつながり、会社という場所とのつながりがどんどん希薄になってしまった。
これは直近の話ではなく、2000年代ぐらいから10年~20年かけて積み上がってきているんです。私が2008年に
『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』を書いた時の問題意識は、職場がタコツボ化してしまったということでした。自分の仕事に入り込んで、目の前のパソコンに向かって仕事をして、コミュニケーションはメールでやりとりする。小さいつぼの中に入り込んで仕事をしていく。そうしないと「あなたは何をする人なんですか」「あなたの成果はなんですか」と問われる時代になってしまったので。
みんながある意味で閉じて働くのが当たり前になると、お互いのことがよく見えません。隣で働いている人が何をしているのかよくわからない。昔は電話でのやりとりが中心だったので、ちょっとトラブルがあったりすると周りが気づいてくれました。「大丈夫?」と声をかけてくれるような、日常の中での関わりやつながりがどんどん希薄になってしまったんです。
それで孤立感を持って働いている状態では、何かあった時に「どうにかしよう」と思っても、周りも忙しい。それで自分だけでどうにかしなきゃいけないと思うと、「相談があるんですけど」と自分から声をかけられなくなっていきます。結果として対話もできなくなり、大事なことを議論して解決しようということもできず、ますます閉じこもってしまう。こういう悪循環が起きてしまっているんです。
仕事の小さな喜びを共有できないことが、働く意欲を奪う
高橋:この悪循環が何を奪ったかということですが、閉じた働き方をしていると仕事の喜びが失われます。何かあった時に誰も気づいてくれないから、自分の中で「今日は良い資料ができたな」とか「お客さんが喜んでくれていたな」と思っても、会社に帰ってきて「実はお客さんがね」と言えなくなってしまっている。
小さな喜びが積み重なって、だんだん仕事への思いも出てくると思うんですけど、それが積み上がらない働き方になってしまったというのが、1つの理由だと考えています。
——なるほど。困った時に頼れないというのはリモートワークが普及した時によく言われましたが、小さい喜びや達成感だったりを共有できないという問題もあるんですね。
高橋:そうです。がんばっていても、それを誰かが見てくれて「いいね」とか「よくやっているね」という言葉が返ってこないと、自分ががんばっていることを自己認識できないわけです。
それから仲間との関係も、同じ職場の仲間だけど昼食もあまり一緒に行かなくなった、という人も増えました。
いいか悪いかは別にして、昔はもうちょっと関係が濃かったわけですよね。しょっちゅう飲み会があって、お互いの背景もたくさん知って「いろいろ苦労してるんだな」とか。私たちもそうですけど、お子さんが小さくて「こんなことが大変なんだな」とか。そういう話をしていく中で、仕事のつながりだけじゃなくて人としてのつながりを実感できる場がけっこうあったと思うんです。「この人こんな人なんだ」という人を知る楽しさとか、人の違いをむしろ「こんなことをがんばってきた人がいるんだ」と知る機会がほとんどなくなってしまいました。
コロナ禍で加速した「閉じこもる働き方」
——その職場のつながりがなくなったことで、どういった悪影響があったのでしょうか。
高橋:これにより、対話がなくなってしまったんです。対話がなくなるというのは、自分の中で何かを考えて「こうしたい」と思ったり、それに対して働きかけたりする機会がどんどんなくなっていくということです。そうすると「自分が何かしたって何も変わらないんだ」とか「この状況から抜け出せないんだ」ということを学習してしまう。
対話があれば「みんなも同じように思っているんだ」とわかったり、「どうにかしたいんだ」ということが共有できているだけでもまだ良かった。それができなくなると、考えても何も変えられないということがどんどん学習されていく。それがコロナ前にすでに起きていたと思うんです。そこにコロナが来て、会社に行かなくてもよくなったことで、さらに閉じこもった働き方がされるようになっていったんです。
そうすると、ますます日常の仕事の中で誰からも「いいね」とか「よかったよ」と気づいてもらえないし、言ってもらえない状況になります。でも逆に言うと、それでも仕事が回るんだ、やるべきことをやっておけば文句は言われないんだ、ということもわかったんですね。
これは逆の学習です。もともとオフィスでみんなで働いていた時は、そうは言ってもストレスにさらされていたんですよね。「これ、明日までやっといて」と上司にポーンと投げられたり、意味がわからないけどやらなきゃいけない仕事があったりとか。
コロナ禍で「これはあなたがやってくださいね」と、ある意味機械的なやりとりで、仕事の範囲が明確になった。その中でちゃんとやっていれば文句を言われなくて済むし、仕事は回るんだということも学習してしまったんです。
「静かな退職」を肯定的に受け止める若者
——なるほど。仕事における喜びを求めるよりは、仕事はお金を稼ぐ場所であって、喜びややりがいはプライベートで満たせば良い、と考える人も増えていったんでしょうか。
高橋:そうそう。仲間との関係も本当に希薄になってしまったから、「人としてじゃなくて仕事としてちゃんとつながっていればいいよね」となった。こうして割り切って働いたほうが、余計なストレスを感じなくて済む、という考え方ですね。
——やはり若手の働きがいや会社へのコミットがなくなっていて、静かな退職が流行しているということでしょうか。
高橋:本当は若手だけじゃなく、静かな退職はもういろんな人に広がっていると思うんです。もちろん、昔のつながりの強い職場は嫌な面もあったけど、どこかで助けてくれる人がいるから前向きにがんばれた、という人もいると思うし。そういう人たちは、むしろ孤立して雑談もなくなって、本当にコミュニケーション不足で「これでいいのかな」と思っている人もいると思います。
だけど、そうじゃない状況になってから入ってきた若者たちからすると、距離感があるほうが余計なストレスも少なく働けるからいいんだということで、むしろ肯定的に受け止めているんだと思うんですよ。そこは捉え方がちょっと違うかもしれないですね。
新入社員ががっかりする、先輩たちの「そこそこ」な姿勢
——そうなんですね。若者は静かな退職をむしろ肯定的に捉えているということなのでしょうか?
高橋:大学で学生たちに「仕事の働きがいと働きやすさ、どっちを求める?」と聞いたら、「働きやすさが最優先です」という人は圧倒的に増えています。
休みをしっかり取れること、残業をあんまりしないこと、推し活とか自分の好きな時間がしっかり取れること。それが人生にとって最優先であるし、そうあることで自分を保てると考えている。だから仕事はそこそこのほうがいい、と思っている人もけっこういます。ただ一方で、仕事で成長したいという気持ちもけっこうあるんです。
——自分の時間も大事にしながら、仕事で成長をしていきたいと。
高橋:そう、そう。バランスはちゃんと取りたいと思っているし、「会社なんてあんまりいい場所じゃないからそこそこでいいや」と最初から割り切っているわけではないんです。
——今「静かな退職」をしている人も、最初は仕事で成長したいと思っていたのでしょうか。どこかの段階で「ここではがんばらなくていいや」と割り切ってしまったとしたら、原因はどこにあるのでしょうか。
高橋:そうですね。若い人に話を聞くと、入社して一番びっくりするのは、先輩が目の前の仕事をそこそこでやっている、ということだそうです。「こんなことをやったらどうでしょうか」と言ったのに、「いやいや、ややこしくなるからやらなくていいよ」と言われてしまう。そういう経験をした人は「あ、そうなんだ」と学習してしまうみたいなんです。
「結局この人たちは、目の前のことをやるだけでいいって思ってるんだ」と、ちょっとがっかりもするし、「そういうもんなのかな」と思ってしまうところもあるみたいで。それがきっかけになる人はけっこう多いんです。
——この経験をした方は多そうです。会社の中で、新人の意見があまり求められていないこともありますよね。
高橋:社会人になって最初に接した職場って、本人に対する影響はすごく大きい。そこにいる人たちがどういう姿で、どうやって仕事をしていて、どんな対話をしているかが、彼らにものすごい影響を与えている。
まさに閉じこもって働いて、仲間なのに信頼関係を作れる感じもしないし、対話もない職場に行くと、やっぱり何も言えないし、自分の中に閉じこもるしかない。それで「この場所にずっと居続けていいのかな」という不安を感じてしまうんですね。1~2年経った時に「私もその中に入ればいいや」と素直に割り切れちゃう人もいるし、モヤモヤして早く辞めちゃう人もいます。
参考サイト:
『静かに分断する職場 なぜ、社員の心が離れていくのか』高橋克徳/著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)