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大島由佳氏インタビュー(全3記事)

働き方の多様化で注目される「持続可能なキャリア」 個人と企業に求められること [2/2]

バウンダリーマネジメントに必要な「3つの資源」

大島:バウンダリーマネジメントの観点から言うと、上司や企業が配慮すべき点が3つあります。一つ目は、物理的な資源です。集中できる仕事空間や、仕事環境に応じて問題なく使えるパソコンといった基本的なものが含まれます。

二つ目は、心理的・認知的な資源です。例えば、集中力を妨げるような心配事がないといったことが挙げられます。

三つ目は、他者との関係です。仕事を進める上では、他者に助けてもらったり、自分が助けたり、また、上司に仕事ぶりをきちんと見てもらっているといった良好な関係が必要です。上司は、部下に「この3つのうち、どれが欠けているか」を常に配慮する必要があります。

こう言うと堅苦しく聞こえますが、当たり前のことです。特に一つ目の物理的な資源は、オフィス環境の整備など、企業全体で取り組むことが多いでしょう。コロナ禍では、自宅で集中できない従業員のために、コワーキングスペースを利用できるようにした企業もありました。テレワークができるシステム環境などもこれに含まれます。

二つ目以降は、上司や職場の役割が大きくなります。「私は仕事と仕事以外をはっきり分けたいタイプです」という部下がいれば、それに応じて「この時間帯はメールを送らないようにしよう」といった職場運営が考えられます。これは「つながらない権利」として欧米でよく言われることです。逆に、不安だからいつでも確認したいという人もいるのであれば、メールは送るけれど、見るかどうかは本人の自由にするといったルールも考えられます。

他者との関係については、例えば、限られた時間で業務をこなさなければならない場合、いざというときに他の人でも対応できる仕組みや関係性が必要です。属人的だった業務をマニュアル化したり、ふだんから2人担当制にして、必要な時に誰もが安心して休めるようにするといった方法です。

これら3つの観点を意識して、上司や企業側が支援していくことが求められます。そうなると、働く側も、これまで以上に自分の意思を伝え、コミュニケーションをとる努力が必要になります。働く人自身にも、アップデートが求められているのです。

――バウンダリーマネジメントに必要な3つの資源について、例えば1on1などを通じて、これらが満たされているかを確認するには、どのような声がけや観察が必要でしょうか。

大島:これも難しい問題ですが、海外の研究を基に作られたアセスメントツールがあります。自分のバウンダリーマネジメントのスタイルを把握するためのツールで、これを上司と部下が一緒に見ることで、共通の目線で会話するきっかけになります。

ただ、「コントロールできていますか?」といった堅苦しい質問が多いので、あくまで取っかかりとして、「うまくバランス取れていると思う?」といったフランクな会話から始めるのがよいでしょう。また、「境界」や「行き来」といった概念的な言葉のままだと答えづらいので、ふだんの予定を手がかりに「何が大変か」を具体的に聞くほうが話が進みます。

例えば、部下のスケジュールにいつも「〇時 お迎え」と入っているのを見て、「その後、仕事に戻るのは大変じゃない?」と声をかけるなど、ふだん共有している情報をきっかけに会話を広げていくのが現実的です。

――このツールは海外発祥なのですね。

大島:はい、海外のバウンダリーマネジメント研究が発祥です。日本でも少しずつこの言葉は知られてきていますが、日本版の研究やツールの開発はそこまでは進んでいません。

1on1が単なる進捗管理になってしまうと、部下は嫌になってしまいます。かといって「好きなことを話していいよ」と言われても、何を話せばいいか困ってしまいます。そういう意味で、このツールは、その人の働き方の好みを知る上での一つの手段になると思います。


 
(注)この表では、バウンダリーマネジメントをBMと省略して記載しています。
(出典)Kossek, E. E. (2016). “Managing work-life boundaries in the digital age”, Organizational Dynamics, 45(3), pp.258-270. Table 1.および Table 2.をもとに SOMPOインスティチュート・プラスにて作成

成長したい若者の意欲と、硬直的な制度の狭間で

――「成長したいから、今は仕事に集中したい。仕事とプライベートの境目は要らない」と考える若手もいると思います。そうした人が、意欲と無理のない働き方を両立させるコツはありますか。

大島:そこでもやはり、職場との相互理解が重要です。ワーク・ライフ・バランスは、現在だけでなく中長期的な視点で考える必要があります。「今はがんばりたい時期なんだ」という本人の意向を、会社側も長い目で見る視点を持つことが必要です。

働く側も「今がんばりたいけれど、ずっと無茶をし続けるわけではない」ということを、きちんと伝える必要があります。お互いのコミュニケーションが不可欠です。

会社としては、長時間労働にならないよう配慮しつつ、本人の心身が健康な状態であることを確認しながら、思い切って成長機会を提供することが求められます。今、上司は少しおそるおそるになっている部分もありますが、対話の努力を続けるしかありません。

会社の施策は、どうしても「こういう人にはこうしよう」と一律になりがちです。その結果、「ホワイトすぎて成長できない」と感じた若手が転職してしまう、という話も聞かれます。個々人の話をすべて聞き入れて実現するのは難しいですが、個々人の話に向き合うことをやっていかないと、企業は選ばれなくなってしまいます。

日本ならではの難しさもあります。これまで日本の雇用、特に正社員は、みんな同じように新卒一括採用でスタートし、フルタイムで働くことを前提に、職務や評価、昇進といった仕組みが作られてきました。

しかし、個々人がそれぞれのタイミングで多様な働き方を希望するようになると、忙しい時などみんなで長時間働く、相対評価で評価する、といった従来の画一的な在り方と整合性が取れなくなってきています。

個々人が希望の働き方を叶えようとすると、これまでは非正規雇用を選択せざるを得ないケースも多くありました。今、正規・非正規の不合理な格差をなくそうという動きがありますが、そうした根本的な部分から変えていかなければなりません。

そうなると、今までの給与水準を保てなくなる人が出てくるなど、何かを失う人からの反発も予想されます。本質的な変革には、相当な覚悟が必要です。生産性を飛躍的に向上させ、全従業員の給与全体のパイを増やさなければ、この問題は解決できません。

これはもはや職場や個人のレベルではなく、企業、そして国や社会全体で取り組むべき壮大な課題です。しかし、そこまで目指さないと、成長したい若者が正当に評価され、意欲を活かせる環境は作れないでしょう。「仕事は任されたけれど、若手だから給料は低い」という状況では、不満を持って辞めていってしまいます。さまざまなことをセットで変えていく必要があるのです。

納得感は「自分で選びとる」ことから

――最後に、働きやすさと成果、そして人生の納得感を共に高めるために、読者へのメッセージがあればお願いします。

大島:納得感は、やはり「自分で選びとった」からこそ得られるものだと思います。その意味で、まず会社側には、どんな従業員であっても何らかの選択肢を提供できるよう努力していただきたいです。

そして働く側も、たとえ制度がなくても、まずは希望を伝えてみることが大切です。「制度はないけれど、運用の中でここまでなら実現しよう」という対話が生まれるかもしれません。会社側も、さまざまな従業員から声が上がれば、制度を変えるきっかけになります。

ゼロか百かで考えるのではなく、まずは言ってみる。その時点では希望が通らなくても、「会社がニーズに気づいてくれた」と考え、次に繋げる。すぐに諦めずに、自分がどう働きたいか、どういうキャリアを積みたいかを、既存の働き方にとらわれずに発信してみてください。

そうした小さな積み重ねが、職場を、そして社会全体を変えていく力になると、私は希望を持っています。

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