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大島由佳氏インタビュー(全3記事)

働き方の多様化で注目される「持続可能なキャリア」 個人と企業に求められること [1/2]

【3行要約】
・コロナ禍を経て、働き方に対する個人の価値観は変化しています。みんなが同じように働く前提の制度や職場運営からの転換が、企業には求められています。
・シンクタンクのSOMPOインスティチュート・プラスの大島由佳氏は、個人は意向やどう貢献するかを伝えること、企業は個人の意向に向き合うことが必要で、両者の丁寧な対話が欠かせないといいます。
・特定の事情に限らず、誰もが尊重されていると感じられ、意向や経験などに応じた働き方と活躍・貢献ができるよう、企業は選択肢や機会の提供、特定の人に依存しない職場の仕組みを整える必要があります。

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コロナ禍で進んだ個人の価値観と、企業との間に生じるギャップ

――日本の職場でワーク・ライフ・バランスを重視する取り組みが、うまく機能するケースと空回りするケースがあると思います。その分かれ目はどこにあるのでしょうか。

大島由佳氏(以下、大島):コロナ禍を境に、個々人の働くことに対する価値観が変わりました。以前はフルタイムで長期間働くことが基本でした。そのため、特定の事情がある人だけがワーク・ライフ・バランス施策の対象、という考え方が主流でした。

働く人の意識は育児・介護に限らず幅広く変化したにもかかわらず、企業側がこれまでの考えのまま元の働き方に戻ろうとすると、働く人と企業の間にギャップが生まれます。育児や介護といった事情がなくても、在宅勤務を続けたい、趣味を大事にしたい、と考える人は増えています。

コロナ禍を経て一歩進んだ従業員の価値観に対して、企業がきちんと対話した上で、柔軟な働き方を提供できているか。それとも、一律に元の状態に戻ろうとしているか。そこが分かれ目だと思います。

例えば「週2日は出社」というルールがあったとして、従業員はそれが一方的な強制だと感じるか、あるいは「私はこういう事情なので、この曜日とこの曜日に出社します」といったコミュニケーションを通じて、納得の上で決まったルールだと感じるか。その違いによって、従業員の納得感は大きく変わります。

さらに言えば、週2日と固定するのではなく「自分は週1日がいい」といった希望も含めて、対話の上で“いい塩梅”を探れる柔軟性があるかどうかもポイントです。そこまでできているかどうかが、取り組みが成功するかどうかの分かれ目です。

――コロナ禍でテレワークを導入してみたら意外と機能し、個人の働き方がアップデートされた。しかし、企業側はまだその一歩手前にいるため、ギャップが生まれているということでしょうか。

大島:企業によっては、従業員と一緒に価値観がアップデートされたところもあります。アップデートされずに「コロナ禍が終わったから元に戻そう」と考えている企業と、そうでない企業とで違いが出ているのだと思います。

価値観のアップデートを迫られる管理職と、対話の重要性

――空回りしているケースを解決するのは、やはり難しいのでしょうか。

大島:非常に難しい問題です。制度はある程度整ってきていますが、それを運用する管理職にかかる負担は大きいと感じます。最近、管理職になりたがらない人が多いと言われる要因の一つでもあるでしょう。

コロナ禍を経て個人の価値観がアップデートされた今、以前は当たり前だと受け入れられていたことが、そうではなくなりました。「当たり前じゃない」と一度知ってしまった人たちに対し、会社が個々人のライフキャリアやワークキャリアの意向を汲み取り、納得感のある働き方を実現させるのは、非常に難易度が高いことです。あちらを立てればこちらが立たず、という状況も起こり得ます。

しかし、会社が声を聞いてくれた、という事実が重要です。100パーセント希望が実現しなくても、例えば会社が「火曜・木曜出社」と決めたのに対し、従業員が「事情があってどうしても火曜は無理だ」と伝えた結果、「では水・木曜に」あるいは「木曜だけでも良い」と調整してくれたとします。完全に満足ではなくても、意図を汲んでくれたと感じるだけで、会社に対する感謝の気持ちが生まれます。

それが「他の企業に移ったら、こうはいかないかもしれない」という思いにつながり、会社に残る動機にもなります。100パーセントを目指す必要はありません。少しでも自分の意図を会社が聞いてくれた、と感じられるコミュニケーションと、それを実現しようとする上司の存在が必要です。

一方で、今管理職の負担が重くなっている背景には、雇用慣行の下で従業員の働き方や価値観が一定程度そろっていた時代に比べ、個人の価値観が多様化していることがあります。だからこそ、すべてを1人の管理職が抱え込むのではなく、上位職も含めて複数人で役割を分担するなど、組織として支える設計に取り組む企業も見られます。従業員への支援と同時に、支援を担う管理職への支援も欠かせません。

――上司次第、という側面はありますよね。「こういう働き方をしたい」と伝えても、「それは個人のわがままじゃないか」と一蹴されかねない。非常に難しい問題です。

大島:特に、これまでがんばって上の立場になった人にとっては、わがままだと感じてしまうかもしれません。しかし、そこを乗り越えなければならないのが、今の時代的背景です。

繰り返しになりますが、特定の人だけが配慮されていると感じる状況は、本人も周りもやりづらいものです。「自分もこの部分は意向を汲んでもらった」という経験がそれぞれにあれば、お互いさまで助け合える風土が生まれます。難しいことですが、一度実現すれば、実は職場運営が楽になることを実感できるはずです。

ただ、これは今までの日本企業が経験してこなかった事態であり、現在は過渡期と言えます。この状況を乗り越えられれば、例えば育児で早く帰ることに申し訳なさを感じる、といったことも軽減されていくと期待されます。「今は貢献できる部分が少し減ってしまうかもしれないが、育児が落ち着いてきたら助けられる」「時間は限られていても、この分野の経験は長いから、あの人を助けよう」というように、誰もが状況や経験などに応じて貢献・活躍できる状態を作ることができます。

そのためには、わがままのように感じられても、上司も会社も一度は個人の意向を受け止める必要があります。かといって、会社がすべてを我慢するのではありません。最近「持続可能なキャリア」という考え方が言われていますが、キャリアは個人だけで作れるものでも、会社に完全に委ねるものでもありません。お互いが共に進むことが大事です。

個人も自分の意向を伝えるだけでなく、それを通じて会社にどう貢献するのかをセットで示すべきです。権利と義務、お互いが期待することと、こちらがきちんと果たすべきこと。その両方を伝え合い、実現していくことが、これからは必要になります。

これまでは、何歳くらいでこうなる、といった決まったキャリアパスがありましたが、今はそれがなくなり、自分で考えなければなりません。しかし、そのための教育を誰もが受けてきたわけではありません。

キャリア教育の重要性は言われてきていますが、個人も「習っていないから」で済ませるわけにはいきません。誰かに依存したり、助けてもらうことが前提だったりするのではなく、自律的に考える姿勢への転換が求められています。

企業も、これまでの延長線上では考えられなかったことに対応していかなければなりません。こうした新しい共通認識を社会全体で作っていくことに対して、私たちのようなシンクタンクや学術機関が研究と情報発信を通じて、後押しをできればと考えています。


「上司はどこまで関わるべきか?」仕事を通じた信頼関係の築き方

――先ほど「管理職は大変だ」というお話がありましたが、上司はメンバーのワークとライフの調子を、どこまで気にかけるのが適切なのでしょうか。

大島:唯一の正解はありませんが、まず信頼関係がなければ、部下も本音を話そうとは思わないでしょう。日々の仕事を通じた信頼関係が第一です。

キャリアの観点で言えば、日々の仕事での学びがあり、そうした経験や学びから自分で考えるステップがあります。そして「次はこうしよう、ここを変えよう」という行動につながります。上司の役割は、いかに学びを得られるような仕事を割り振るかや振り返りの支援です。

その際に重要なのは、本人の意向を確認することです。例えば「妊娠しているから」と過剰に配慮し、いきなり役割を軽くしてしまう、といった一方的な対応は望ましくありません。仕事のアサイン時は、本人の意向を確認した上で、学びの機会を提供することが大切です。

常に対話を通じて、やってみてどうだったかの振り返りを一緒に行い、「大変だった」「この部分を伸ばしたい」というフィードバックがあれば、次に関連する仕事をアサインする。このように、まずは仕事を中心に信頼関係を築くことで、部下も自分の考えをより深く話せるようになります。

いきなり「どういうバランスで働きたい?」と聞かれても、すぐには答えられないものです。まずは仕事起点で、「この人は中長期的にこういう意向を持っているんだな」と理解していくのがよいと思います。

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