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大島由佳氏インタビュー(全3記事)

有給があっても休めない職場 「休まない美徳」と「助け合い前提」がつくる空気

【3行要約】
・休みづらさの背景には、「休まずにがんばること」を良しとしてきた日本の慣習があり、無意識の前提となって職場の空気をつくっています。
・会社の指示で職務が変わるメンバーシップ型雇用のもとでは職務が曖昧になりやすく、休まずがんばる慣習と相まって、周囲が残業をしていたり休まず働いていると、帰りづらい、休みづらい、助けなければいけないという状況が生まれやすいです。
・シンクタンクのSOMPOインスティチュート・プラスの大島由佳氏は、ワーク・ライフ・バランスの実現には、仕事と仕事以外との境界を自分に合うかたちで管理する「バウンダリーマネジメント」が不可欠といいます。

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「なぜ休みが取りにくいのか?」日本特有の文化的背景と雇用慣行

――企業が制度に力を入れていても、実際には休みを取りにくいと感じるビジネスパーソンは少なくありません。その原因はどこにあるのでしょうか。

大島由佳氏(以下、大島):一つには、長年にわたり日本で「休まずにがんばること」が良いことだとされてきた慣習があると思います。学校教育における皆勤賞に代表されるように、休まないことが美徳であり、当たり前だという考え方が根付いてきました。社会に出てからも、多くの人が無意識にそれを続けているため、休みづらいという状況が生まれていると考えられます。

欧米と日本を単純に比較することはできません。宗教的・文化的な違いがあるからです。しかし、例えばドイツでは「休んで英気を養うことは非常に大事だ」という認識が共有されており、休むことが当たり前になっています。

ベースにある文化的なものが影響しています。それが悪いということではなく、そういう背景があるということです。

もう一つは、仕事の進め方です。特に大企業を中心に、この数十年はメンバーシップ型雇用が主流でした。会社に入社後、どの職務を任されるかは会社に委ねられ、繁忙期には他の人を助けるなど、職務が柔軟に変わります。学術研究の分野では、これを「職務の無限定性」と呼ぶ人もいます。職務の無限定性は、安易な解雇を防ぎ、さまざまな変化に対応しながら雇用を維持し続ける源泉となってきました。

しかし、その柔軟さ故に「周りが帰らないと帰りづらい」といった状況が生まれます。他の人との兼ね合いで帰りづらかったり、「助けなければならない」という前提で職務が割り振られたりすることが、休みづらさや、日々の業務を自律的に組み立てづらい状況につながっています。これは日本の良さでもありましたが、今の時代に合わせるには調整が必要な部分です。

ワーク・ライフ・バランス実現のカギ「バウンダリーマネジメント」とは

――大島さんが研究されている「バウンダリーマネジメント」についておうかがいします。この言葉を初めて聞く読者もいるかと思いますが、これはどういうものでしょうか。

大島:一言で言うと、仕事と仕事以外の領域の境目を自分なりにコントロールすることです。下図のように、バウンダリーマネジメントのあり方は、「仕事と仕事以外の生活の浸透」の有無と、「境界の管理水準」の高低の二軸で整理できます。コントロールといっても、図の下半分のように、仕事と仕事以外の境界を明確に分けるあり方だけではありません。

仕事をしていない時にふと仕事のことが頭によぎっても、それが苦ではなく、むしろアイデアが生まれることを楽しむタイプの人もいます。

そのため、コントロールとは必ずしも「分離」だけを指すわけではありません。分離する形でコントロールしている場合もあれば、統合しながらも自分なりによい塩梅でコントロールしている場合もあります。仕事と仕事以外の境界を自分なりに管理することが、バウンダリーマネジメントです。



出典:Kossek, E. E. (2016).“Managing work-life boundaries in the digital age”, Organizational Dynamics, 45(3), pp.258-270. および 佐藤博樹・松浦民恵 「仕事と生活の相互浸透のもとでの「境界管理」」(キャリアデザイン研究 Vol.18, 2022)をもとに SOMPO インスティチュート・プラス作成

――ワーク・ライフ・バランスとは、どのような関係があるのでしょうか。

大島:ワーク・ライフ・バランスを実現するために不可欠な手段、あるいは必要条件と言えるのがバウンダリーマネジメントです。ワーク・ライフ・バランスを実現している人は、基本的にはバウンダリーマネジメントができていると言えます。

――最近は在宅勤務やフレックスタイム制など、多様な働き方を導入する企業が増えています。こうした変化によって、境界の引き方も変わってきているのでしょうか。

大島:そうですね。もともとは職場と家というように物理的に場所が分かれていたため、否が応でも境界が分離せざるを得ない状況でした。しかし、在宅で仕事ができたり、出先であっても作業を済ませられたりすると、境界は曖昧になります。

家でテレワークをしながら子どもの帰宅に対応するなど、仕事と私生活の「行き来」が生まれるようになりました。分離を望まず、むしろ行き来したい人もいれば、そうではない人もいます。いずれにせよ、境界が浸透し、仕事と私生活を行き来することが増えているのは確かです。

特にインターネットがあれば業務が遂行できる職種では、こうした働き方が増えていく傾向にあり、該当する人は増加しています。

バウンダリーマネジメントが「うまくできている」状態の定義とは

――バウンダリーマネジメントが「うまくできている」状態を、一言で定義するとどうなりますか。

大島:一言で定義するのは難しいですが、仕事と仕事以外の生活の境界の在り方について「自分で選びとっている」状態、あるいは「自分でコントロールできている」と感じられている状態です。例えば、出社傾向が高まっている会社の方針に対し、「自分は在宅も大事だ」と考えたとします。その際に会社の方針と折り合いをつけ、完全に自分の思い通りではなくても、納得して働き方を決めている状態です。

境界が曖昧であっても、その曖昧さのおかげで自分のペースで仕事ができて心地よいと感じるなら、それはうまくマネジメントできています。逆に、きっちり分かれていないと精神的に辛い人であれば、その理想通り明確に境界を区分できている状態が、バウンダリーマネジメントができている状態と言えます。

――逆に「うまくできていない」状態とは、自分の意思でコントロールできず、強制的に感じているような状態でしょうか。

大島:そのとおりです。コントロールできるかには、仕事の裁量権が大きく影響してきます。自分一人で完結できる仕事が多い人は、バウンダリーマネジメントがしやすいです。もちろん、家庭の事情など、仕事以外に境界を揺るがす要因があれば難しくなりますが、最低限、仕事における裁量がないと、境界の在り方はかなりコントロールしづらくなります。

ただ、裁量は仕事内容によって変わらざるを得ません。例えば医療や介護の現場では、テレワークは基本的にはできません。そうした場合、最近では週休3日制のように、働く日は集中して働き、その分休日を増やすことで仕事以外の時間を作るという方法もあります。日々の境界管理だけでなく、1週間といった少し長いスパンでバランスを取ることも可能です。

必ずしも仕事の裁量権だけがすべてではありませんが、日々の業務から週単位での調整まで、境界管理には幅広いアプローチがあります。

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