【3行要約】・ワークライフバランスが優れた働き方で知られる国、フィンランドを長年取材されているライター、翻訳家の堀内都喜子氏に、日本における持続可能な働き方のヒントを聞きました。
・フィンランドでは業務時間外のメール送信は失礼とされ、仕事と休息の境界を尊重する文化が根付いています。
・仕事と家庭以外の「第三の居場所」を持つことで視野が広がり、50代からでも新たなキャリアに挑戦する前向きな姿勢を学ぶことができます。
前回の記事はこちら “業務時間外のメール送付は失礼”という価値観
——堀内さんの著作である
『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』に関する質問なのですが、例えば、退社した後に家で仕事している方はいないんでしょうか。
堀内都喜子氏(以下、堀内):ほとんどいない。自営業とか、自分で会社を運営している人は別ですけれども、基本的にはあまりしないですね。終えたものは終えるというか、切り替えるというのはあります。
——今は家で仕事をしやすい環境ですが、それでもその文化は変わらないんですね。
堀内:携帯でメールを見ちゃったりとかはありますけど、それって極力減らしたいものですし。あと、「業務時間外にメールを送信するのは、プレッシャーを与えるようですごく失礼だ」というような文化があります。
——えっ、メールを送ることが失礼に思われてしまうんですか?
堀内:例えば日本だと、夜中にメールが来る時がありますよね。フィンランド人からすると「この人の生活はどうなってるの?」「大丈夫なのか?」と心配されるか、時に非常識と思われるので、できるだけ送らないようにしています。メールを書いたとしても、送るのは最終手段という感じですね。
結局、休みは休みだから尊重しないといけないので「それを侵してしまうのはすごく失礼なこと」という意識がすごくあるんですよね。なので、そうならないようにみなさん努力していますね。
日本式の丁寧な仕事をどこまでやるべきか
——逆に、「ここは日本の働き方のほうが良いんじゃないか」と感じるポイントはありますか。
堀内:日本は仕事がすごく丁寧ですし、細かいところも配慮されていますよね。ものを作る時のクオリティも高いですし、そこはすごくすばらしいと思います。決まるまではちょっと時間がかかるかもしれないですけれど、1回決まったことに対しては仕事が速いですし、能力も高い。
ただ、それと「その内容が見合っているのか」というのは難しいなって思う時があります。例えば日本の自治体の方とお仕事をすると、上の方のために資料をすごく用意するんですよね。それがファイル1冊分ぐらいの量になっていて。
でも、フィンランドでは上司がどこかに行く時も「資料はA4の1枚にして」と言われるので。そもそも、そんなに資料をたくさん読めないですし。「最低限のことがわかっていればいいよ」となるんです。(日本の)ファイル1冊分も作る努力が、はたしてどこまで必要なのかなとか思うことはありますね。
プレゼンのスライドとかを見ていても、すごく細かく作ってあるのを見て「それ、必要だったのかなぁ?」と思う時はありますね。でも、そこまでできるのはすばらしいと思います。
課題があるからこそ自己成長を重視する国民性
——今日うかがっている話に共通して、フィンランドは上層部からメンバークラスまで、すごく自律的な働き方がベースにあるんだなと感じます。その文化は、フィンランド社会のどういったところから来ているんでしょうか。
堀内:そうですね。フィンランド人も一応、和とかハーモニーは大事にするけれども、もともと日本ほど上下関係がないんですね。特に今の若い人たちはやりがいを求めているところもあるから(自分から)意見を言うことも嫌に思わないし。お互いに対等なんですよね。
ただ一方で、フィンランドって失業率がすごく高いんです。自分から辞めることも多いですが、逆に会社の状況が良くなかったらクビになることもあります。
失業率はもともと6パーセントから8パーセントの間を行ったり来たりしていたんですけど、実は今は10パーセントぐらいあるんですよ(2025年12月時点で9.8パーセント)。ヨーロッパでも一番高い国と言われつつあるので、いつ仕事を失うかわからないという厳しさはあります。
だからこそ自分の引き出しを増やしておくとか、能力を高めておく(ことが必要です)。みなさん常に「他に良い仕事があるか」とか「自分のできることがあるんじゃないか」とか、アンテナを張っていますね。
50代以降のキャリアを前向きに捉えるフィンランド人
——なるほど。『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』の刊行から、2026年で約6年が経過します。失業率のお話のように、フィンランド社会にもいろいろな変化があったと思いますが、働き方の面で変化を感じることはありますか。
堀内:フィンランドは学び直し(リスキリング)に力を入れていて、人材と業界のマッチングを支援していましたが、今の政府は国としての借金を減らすために、いろいろな予算をカットする傾向にあります。

(国からの)お金がカットされてはいるけれども、フィンランドでは自分のスキルを伸ばしたい人とか、新しいことに挑戦したいという人は今でもたくさんいて、実際に学んでいる人もたくさんいますね。
それで言うと、私は毎年フィンランドに行っているんですけど、去年の夏に大学(ユヴァスキュラ大学大学院)に留学していた時の友人たちとたくさん会ったんですよ。
全員40代から50代ぐらいなんですけど、みんなが口を揃えて言っていたのは、今ってどんどん定年退職の年齢が上がっているじゃないですか。65歳とか70歳までとか。だから、それを考えると今は折り返し地点を越えたところだと。
日本だと、この年になると「どうキャリアを終えていくか」という方向で考える人が多いと思うんですけど、そうじゃなくて「もしかしたら他に天職があるかもしれない」とか「今の仕事を、もっと突き詰めることができるんじゃないか」って、けっこう考えているんですよね。
失業中の人もいて、すごく落ち込んではいたけれども、「次、何ができるかな」みたいな話をしていて。これだけ暗い話が多い中でも前向きというか、軽やかだなと思いました。
仕事以外に第三の居場所を持つことの重要性
——ミドル世代の方が、今後のキャリアをすごくポジティブに考えられているんですね。
堀内:そうなんですよ。実際に、私のとある男性の友人もコロナ禍を経て医療に関心をもって、看護師になる勉強をしているんです。一応、元のキャリアも細々と続けながらやっていますけども、実習とかにも行っていて。
別の友人は会社を経営していて、今はあまりうまくいっていないのですが、「ちょっと場所を変えようかな」とか「違う国にアプローチしたほうがいいんじゃないか」とか言っていて、強さを感じましたね。
それを見て、広く(視野を持って)考えるためには仕事と家庭だけじゃなくて、勉強だったり趣味だったり、第三の場所を持つといいんだなと強く思いました。
友人たちと会うとか、新たなことを勉強するのもそう。体を鍛えるとか、趣味に燃えるとか、いろいろとあると思うんですけども。違う世界を持つというのは、絶対にプラスになると思いましたね。
——仕事以外のよりどころや、未来のキャリアを切り拓くための学びが生活にウェルビーイングを生み出し、それが仕事へのポジティブな効果を生むということですね。
堀内:あと、最後に1つ言っておきたいのが、ワークライフバランスの話をすると、自分を責める人がよくいるんです。「私がすごく、だめなので」とか、できていない自分を責める人、自分を省みて反省してしまう人がけっこういるんですよね。
でも決してそうじゃなくて。もちろん自分の自制心の問題もあるかもしれないけど、どちらかというと組織とか、仕事の設計に課題があるんだと思うので。こういう話をした時に「あぁ、私ができていないんだな」と考える必要はないですよ、と言っておきたいです。逆に組織のトップの人が考えたほうがいいとは思いますけれども。
——自分にできることもあるけど、自分の責任じゃない部分も大きいよ、と。
堀内:みんなで考えていくことが大切だと思います。
——堀内さん、本日はすばらしいお話をありがとうございました。