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堀内都喜子氏インタビュー(全3記事)

フィンランドでも「管理職の罰ゲーム化」は深刻? ワークライフバランス先進国に学ぶ“よく働き・よく休む”リーダー像

【3行要約】
・ワークライフバランスが優れた働き方で知られる国、フィンランドを長年取材されているライター、翻訳家の堀内都喜子氏に、日本における持続可能な働き方のヒントを聞きました。
・フィンランドでは「定時で終わらせる」を前提に業務を組み立て、仕事と生活の両方を大切にする文化が根付いています。
・堀内氏によれば、リモートワークの普及や若い世代の価値観の変化で フィンランドの管理職も新たな課題に直面していると語ります。

「働いて働いて……」発言に対するフィンランド人の反応

——ワークライフバランスに関する昨今の話題として、高市早苗首相の「ワークライフバランスという言葉を捨てる。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」という発言がありました。お知り合いのフィンランド人の方からは、あの発言に対してどのようなリアクションがありましたか。

堀内都喜子氏(以下、堀内):高市首相については「あ、女性の首相が誕生したんだね」とか、政治的な思想などはニュースとして伝えられているんですけども、「働いて働いて……」という言葉はあまり伝わっていませんでした。たぶん、フィンランドの人はそれほど知らないと思います。

日本に住んでいるフィンランド人の中では、ただでさえ日本人は勤勉で働きすぎなところがあるので、「上に立つ人が言うのはどうなのか」という意見を耳にしました。ただ、一生懸命自分の役目を果たすという意味では、よくある話ではあるので(笑)。「言葉のあやなのかな」という意見もありました。

——著作である『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』をはじめ、フィンランドの働き方を長年取材されてきた堀内さん個人としては、どのように受け止めましたか。

堀内:あくまでも個人の意見ですが、選ばれたからには一生懸命がんばります、というのはすごく良いと思うんですよね。なんですけれども、「働いて」を強調されすぎていて……(笑)。私から見ると、フィンランドのリーダーの人たちは、もちろん仕事も大事だけれども、「ワークライフバランスが整ってこそ良いリーダー」というところがあって。

例えば政治家で言っても、過去に(サンナ・)マリン前首相はプライベートで(音楽)フェスに行って楽しんでいるところや、体を鍛えている様子の動画をSNSにアップしています。今のアレクサンデル・ストゥブ大統領はスポーツが趣味なので、トライアスロンの大会に出ているところや、家で読書しているところ、オルポ首相は森のキノコを採って処理するコツを教える動画を上げたりしているんですね。

人生は仕事だけじゃなくて(生活の)いろんなものと、うまくバランスを取っていく(ことが大切です)。そんな等身大の自分を見せていくフィンランド流のリーダーシップを見ているので、「働こう」だけが強調されているのは、ちょっと違和感がありましたね。

忙しくても定時で帰るという発想は変わらない

——日本のソーシャルメディアでは「やっぱり成長のためにはハードワークが大切だよね」という、ある種のワークライフバランスからの揺り戻しのような意見も散見されました。フィンランドではウェルビーイングと個人の成長を、どのように両立しているのでしょうか。

堀内:フィンランドの場合はワークライフバランスをすごく重視しています。

ただ、今、フィンランドでは管理職のウェルビーイングがちょっと落ちてきているという調査もあるんです。昔は1週間かけてできた仕事も、いろいろなテクノロジーのおかげで早くできるようになってしまった故に、スピードを求められて前よりも大変になっている面はあると思います。

だからといってフィンランド人には、仕事の時間を長くするという考えがないんですよ。

——そこは日本と違うんですね。

堀内:そうなんですよ。たぶん日本だと「仕事がいっぱいあるから、ちょっと長く働こう」となると思うんですけど、フィンランド人は定時で終わらせるのはできるだけ変えたくない。もちろん日によっては長くやってしまうこともあるけれども、その分はどこかで帳尻を合わせる感じです。

なので、限られた時間で行うことを大前提にして(業務を)組み立てているのがフィンランド的な働き方なんですよね。

——そもそも働くということに対する、文化的な違いがあるのかもしれないですね。

堀内:そう、ちゃんと終わりを決めているんです。もちろん仕事は人生の大きな部分を占めていますけれども、「仕事が人生のすべてではない」という考え方がすごく浸透しているので、仕事とプライベートのどちらかではないんですよね。

両方を楽しむというか、両方をやっていく。もちろん、全員が完全に(仕事とプライベートの)バランスが取れているわけではないけれども、取ろうとして努力しているとすごく感じます。

フィンランドでも管理職の負担が増えている

——今のお話の中で気になった部分が、フィンランドの管理職の負担が増えているという点です。日本では近年、「管理職の罰ゲーム化」というワードが流行していますが、フィンランドも似たような状況にあるのでしょうか。

堀内:そのとおりです。ここ5年くらいはコロナ禍もあったりして、働き方がより柔軟になっていますよね。フィンランドでは以前からリモートワークが盛んでしたけれども、今は誰もが普通にするようになりました。だからマネジメントのやり方も変わっていく必要が出てきているんです。

若い人たちは(仕事の)やりがい重視で、「この仕事を100パーセントちゃんとやらなきゃ」とまで思っていない人もいたり、よりサポートを必要とする人もいて、管理職の負担は増えています。上と下の間に挟まれて、精神的にもきつく、不満を抱きやすい環境にあるというのが公的機関の調査でも出ています。

——なるほど。上層部と部下の板挟みというところは日本と共通しますが、フィンランドの場合はさらに「定時までに終わらせなきゃ」という、また別のプレッシャーがありそうですね。

堀内:そうですね。自分自身もそうだし、部下の仕事もできるだけ定時で終わらせなきゃいけないというプレッシャーがあります。

強制的なマネジメントが難しい文化

——フィンランドでは以前からリモートワークが浸透していると聞いていたので、「遠隔マネジメントのノウハウがあるのかな」と勝手に思っていました。それを超えるくらいプレッシャーが大きくなっているんですね。

堀内:そうですね。毎日ではないにしろ、コロナ前から3割ぐらいの人がリモートワークをやっていました。ですが、今まではどちらかというと管理職の人が多かったんです。それはレポートを書く機会や出張が多かったからなのですが、今は本当にどの業種を見ても普及していますね。「もう、リモートワークなしの職場はありえない」ぐらいになっています。

私の友人も「できるだけ(オフィスに)来て、チームとして一緒にやりたい」という願望はあるんだけれども、若い世代の人たちはリモートワークに慣れすぎていて、「ぜんぜん来たくない」とか。

——うーん、そこも世界共通なんですね……。

堀内:「だるい」みたいな(笑)。人によって感覚の違いはすごくあるみたいです。管理職としては目に見えない中でやっていくのは大変、とみなさん言いますすね。

日本では強制的に「オフィスに来なさい!」とやっている会社もあると思うんですけど、フィンランドは人権や個を大事にしている国なんで、それは難しいんです。

もちろん「この曜日はできるだけ出社して一緒にやりましょう」「この職場ではリモートワークは基本週に2回まで」とかルールは作りますけど、強制ができないというのはみなさん言いますね。

——強制ができない?

堀内:フィンランドは本当に組織がフラットで、日本ほど上下関係がないんです。パワー(権力)を周りに分けていくのがフィンランド的なやり方で、集中させない。

ジョブ型の働き方

——フラットな組織だと、いわゆるマネジメントが機能しにくくなってしまわないかと思うのですが。

堀内:それぞれがジョブ型で仕事をしているので、一人ひとりが自分の任されていることをやりつつ、話し合いで決めていく感じですね。

——なるほど。フィンランドの企業文化にはジョブディスクリプション(求められる役割をある程度決めて、自律的に働いてもらう仕組み)があると聞きました。この役割決めは、具体的にはどういったプロセスで行うのでしょうか。

堀内:まず、フィンランドでは募集要項に「あなたの役割はこれです」というのをある程度は書かなければいけません。そこでまず(業務内容を)はっきりさせて、実際に雇用する時も齟齬が生まれないようにきっちり話をします。

でも、入社する人が、「私、実はこれもできるんです」「こういうこともしたいです」と言うと、それをお互いに話して雇用契約書に盛り込むこともあります。

そうやって一緒にお互いの認識を合わせて契約します。もちろん現場に入ってそれ以外のことが出てきたりはしますけれども、ある程度は最初の段階ではっきりさせておく。そもそもフィンランドは新卒採用がないので、中途採用と同じように募集しているというのはあります。

——プロジェクトの進行に合わせて業務内容を変える必要が出てくることもあると思うのですが、ジョブディスクリプションの場合は、定期的な頻度で役割の見直しを行うのでしょうか。

堀内:していますね。企業によると思うんですけども、1年に1回というのがよくあるパターンです。日本でもやっているように、成果とかをいろいろと話し合って、お給料を含めて役割を見直すことはしていますね。

日本とフィンランド企業の意思決定の違い

——先ほど日本の企業文化との違いのお話が出ましたが、堀内さんは以前、都内のフィンランド系のメーカーに勤められていました。そこではフィンランド流の働き方を実践されていたんでしょうか。

堀内:メーカーにいた時は、どちらかというと半々な感じですね。

——日本企業との商習慣の違いもあったと思うのですが、どのようなところに差を感じましたか。

堀内:特に日本の場合は、下の人たちにあまり権限がないですよね。現場レベルで話はするんだけれども、その人たちは決められないとか、決めるとしても時間がかかる。そこが難しいですよね。

だけどフィンランドでは、ある程度は下の人に任されているんです。よっぽど大きなことじゃない限り、そこで決められるんですよね。そこが違いを感じる部分です。

——日本でいう決裁権みたいな、お金のジャッジも現場の人たちが行うんですか?

堀内:はい。ある程度の額までですけれども。

——なるほど、それは確かに組織としての意志決定スピードが早くなりそうですね。

堀内:そうですね。(フィンランド企業から見れば)「会議でみなさん賛同してくれたのに、なんで今決められなかったの?」となってしまいます。だったら、(決定権のある)上の人を見極めて、ちゃんと関係を作らないといけないですし、決まるまで時間がかかるとか難しさがあります。それは本当に、日本の文化を知っている人がフィンランドの人に伝えていって、(日本企業との商慣習の違いを)わかってもらうしかないんですよね。

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