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小室淑恵氏インタビュー(全3記事)

注意しても残業を止めない部下へのひと言 やる気を削がずに指摘する方法

【3行要約】
・働き方改革が進む中、上司の長時間労働は見過ごされがちですが、組織全体の生産性を著しく低下させる深刻な問題となっています。
・株式会社ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵氏は、睡眠不足の上司は怒りやすくなり倫理観が低下、結果的にパワハラや不祥事のリスクが高まると指摘します。
・部下の成長意欲を尊重しつつ、本当に必要な努力は何かを見極め、適切な働き方へ導くサポートが上司には求められます。

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上司の睡眠不足が組織を壊す

——次にマネージャーの目線でおうかがいしたいのですが、働きすぎる社員がいることによって、チームや組織にどのような悪影響が出てくると感じていらっしゃいますか。

小室淑恵氏(以下、小室):エビデンスやデータで示されていますが、人間には24時間しかないので、働き過ぎにより睡眠時間が圧迫されます。睡眠時間が減少することで、脳の中心部にある扁桃体という怒りの発生源の部分が非常に肥大化してしまいます。つまり、怒りやすくなってしまうのです。

この憤った気持ちを抑えるのが前頭前野という部分ですが、睡眠不足になると機能しなくなることがわかっています。怒りを止められなくなるだけでなく、パワハラやセクハラも起きやすくなります。倫理観でやってはならないと抑えているようなものも、前頭葉の機能が低下すると行動に移してしまうのです。

管理職なのだから、周囲にしっかり働いている姿勢を見せなきゃいけないと思って睡眠を削ってがんばると、自分自身が怒りやすくなったり、倫理感が下がってしまったりします。そこから、思わぬパワハラ・セクハラ・不祥事等が起きてくるのです。

ウォール・ストリート・ジャーナルで紹介された論文にも「睡眠時間の短い上司ほど部下に侮辱的な言葉を使う、その結果として若手のエンゲージメント低下が起きる」とあります。

見せかけの働き方改革で、上司の残業時間が増加

——上司が働き過ぎることで、組織にも悪影響があるんですね。

小室:はい。部下の残業時間を減らすために、上司は残業代がついてないから「上司のお前が巻き取れ」と言われている。こうした見せかけの働き方改革をした企業では、上司の残業時間が増えているケースが多いんです。

こうなってしまうのは、本質的じゃない働き方改革、「国に見える数字を減らせばいい」というやり方をした企業ですね。2019年の働き方改革関連法は重要な法改正でしたが、見せかけの働き方改革まではキャッチできなかった。

「全社員の働き方を見直すのは時間がかかるし無理」と思った企業が管理職に付け替える方向に行ってしまい、より職場の心理的安全性が下がってしまったことが起きました。こうした職場では、優秀な人から離職するという悪影響が非常に出ているかなと思います。

職場全体の生産性を下げる「おこもり状態」の悪循環

——なるほど。一方で、働きすぎるメンバーがいることによる組織への悪影響はどんなものがあるでしょうか。

小室:睡眠が不足すると、集中力の低いまま仕事を始めてしまい、混乱しながら仕事をしていくから終わらない、という悪循環の負のサイクルに陥ります。本来の自分の能力であれば8時間の業務時間内に終わるはずの仕事量が終わらないのです。

睡眠が不足してくると、隣の人のちょっとした咳払いや書類を動かした音だけでも腹が立つので、耳栓をしたり、マスクをしたりして、周りから表情が見えない「おこもり状態」みたいに仕事する人がいると思うんですね。

「話しかけないでください」オーラ満載で行動する人が増えてきます。同僚にそういう人がいると、必要なことを聞くこともできなくなるわけです。みんなが遠慮してちょっとした確認ができず、確認しないで進めて「同じ顧客に対応してしまいました」とか、非効率なことがどんどん起きてくる。決して仕事量が多いわけじゃないのに終わらない、という悪循環になってくる不機嫌な職場を作ってしまいます。

部下のやる気を削がない伝え方

——例えば「成長したいから」と働きすぎる部下に対して、どうやったら部下の意欲を削がないように伝えられるでしょうか。

小室:ハードワークそのものは否定する必要はまったくありません。ハードワークの概念は、長時間労働ではないので、まったくかまわないよ、と。重要なことは、それが成果につながり、持続可能であり、あなたが成長したい方向性につながっているかです。

どう成長したいのか、どういう仕事を将来的にしていきたいのか、「あなたはどうしたいの?」という未来を徹底的に聞いてあげることです。3〜4年後の話ではなく、10年〜20年レベルで本人がどういうことをしていきたいのかを聞いてあげます。そうすると、今やっているハードワークが、その成果にぜんぜんつながらない、明後日の方向のがんばりであることがとても多いんです。

ある損保会社で、長時間労働を止めない部下がいて、上司もさじを投げていました。そこで我々が「今後あなたはキャリアでどういう希望を持ってるんですか」と話したら、「僕は海外で仕事をしたいという夢がありまして。海外支店に配属になりたいんです」とおっしゃっていたんですね。「だから、今、自分がすごく仕事熱心であること、成果を出していることを評価されたい。評価が異動につながる」という話をしていたんです。

そこで人事部に「どうしてあの人を海外で働かせてあげないんですか」と聞くと、「あー、彼はTOEICの点が足りないんですよね」と言われたんです(笑)。本人に言ったら、「ぜんぜんその認識はなかった。これまで社内で、英語が苦手でも仕事ができる人は、海外に行っていたから、TOEICの点じゃなくて仕事姿勢だと思ってた」と言うのです。

必要な努力は何か?

小室:やたら長時間残業したがる部下がいる上司は、本人がどう成長したいのか、そしてそれに向かって必要な努力はなんなのかをともに考えることが重要です。彼に必要なのは、定時で帰って英会話教室に行くことだったんですよね。上司も本人にちゃんと聞いてなかったし、本人も本当に必要な成長は何なのかという戦略を立てていませんでした。

どうしたいのか、何になりたいのかを徹底的に聞いて寄り添ってあげて、そこに必要な努力なのかどうかを見てあげることが重要です。ほとんどの場合、本人が行きたい方向性に長時間労働が必須であるケースはまずありません。

——「本人が働きたいと言っているから」と放置するのではなく、上司は「長時間働いてどうなりたいのか」まで聞いてあげることが大事なんですね。具体的にはどんな言葉で寄り添ってあげるとよいでしょうか?

小室:「あなたが『あの部署で働きたい』『あの仕事がしたい』と思うなら、そのための勉強の時間を生み出さないといけないよ。君がその勉強の時間を週に3日は取れるように、必ず週3日は君が定時で帰れるような仕事の仕方になるまで、サポートするからね」とか。そういうふうに言ってあげると、応援してくれていることがよくわかると思います。

——確かに。部下の味方であるという伝え方をするんですね。ありがとうございます。

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