【3行要約】・人事評価の透明性や公平性を求める声が高まる中、評価シートによる数値化が一般的になっています。
・チームラボの堺氏は「軸を作ると情報量が落ちる」とし、役員が現場で直接判断する独自の評価手法を実践。
・企業は画一的な評価制度ではなく、組織の価値観に合った多次元的な評価方法を模索すべきです。
前回の記事はこちら 評価シートは設けない 役員が現場で直接判断する理由
――メンバーの評価は、どなたが、どのような情報をもとに、どのような流れで決められるのでしょうか。
堺大輔氏(以下、堺):役員が直接的に評価をしています。
――評価シートのように、項目を分解して点数化する仕組みはあえて置いていないという理解で合っていますか。
堺:プロセスとしての大前提として、役員も全員が現場に入っています。この会社には、マネジメントだけしている人間は誰もいません。マネジメントという層がまずないんです。なので、全員が現場にいます。みんな一緒に働いています。
当然、役員がすべてを見えるわけではありませんが、部署によって若干違いはあるものの、メンター・メンティがいたり、専門技術ごとにチームがあったり、いろいろな軸がある中で、定期的なヒアリングや面談を常にやっています。
ですから、常にある程度の情報が入ってきたり、たまったりしている状態が、まず前提としてあります。その中で、成長の過程に対する考え方や、アウトプットによってどのようなバリューを出してくれているのかという考え方を、具体事例とともに話します。
――なるほど。
評価は「点数」より「具体事例」のほうが情報量が多い
堺:それを分解するともちろん軸になると思いますが、あえて分解しないのは数字と同じです。
分解して、「リーダーシップ度」がどうとか言うよりは、ある具体事象で「こういうことがあってこういう結果だった」「彼はこういう時にこうやった」「彼女はこういう時にこういう反応をした」それによって「こういう成長をしていたり、こういったアウトプットをしたりした」というほうが、曖昧そうに見えてよっぽど情報量が多いと思うんですよ。
そういう情報量が多い状態にできる限りありたいと思っています。そのために、本人に対するフィードバックシートのようなものがあります。単純にフィードバックがあったほうがいいので、そういった情報は全員が見られる状態になっています。
私のチームでは、それをもって役員も含めて半年に1回必ず全員と面談を行っています。「どうですか」と直接ヒアリングをしたり、「会社としてこう思っているよ」ということを直接話したり、現場も見たりします。
イメージとしては、軸を作ると情報量が落ちると思っているんですね。なぜならば、「なんとか度A」と言うよりは、「あるプロジェクトでこういう時こういうことがあって、誰々がやっている時はうまくいって、結果どうだった」と言ったほうが、評価する側も文脈も含めて理解できるじゃないですか。
数値化は、どこまでいっても主観です。主観の積み重ねを客観的に見せているだけだと思うんですよね。どこまでいっても本当の意味での公平性って何なの、となります。
例えば売上だったらわかりやすいと思うんです。セールスの会社だったらそれはわかりやすいですけど。「クオリティの高いものを作る」と言っている私たちは、クオリティの高いものに対して一番貢献したり、寄与したり、そこに向かって成長したいということをできるだけ評価します。その観点においては、すごく多次元な評価軸があるはずだと思うし、その多次元な軸もどんどん変わってくると思うんですよね。
例えば、AIが入ってきて、プログラミングでこれまで評価されていた能力とは違う能力が高いほうが活きる、みたいなことはどんどん出てくると思います。本質は変わらないと思いつつも、そういうことはあると思うんですよ。そうすると軸は変わりますよね。
個別事象をちゃんと理解しながら、できる限り解像度を高く、早く、情報をもって判断したほうが、根本的にはいいと思っています。
だから、その情報量をもって多次元なものを、給与という1次元に落とす作業を20年間ずっとやってきました。逆に言うとそこは、私たちの会社のノウハウです。私が他の会社に行ってできるかというと、そうではありません。
私たちの会社の価値観を数字に落とすという意味で言うと、ある意味ノウハウが一番溜まっているのは役員だと思うんです。そういう役割として、私たちはそれを給与として落としているということをやっています。
フラットでありながら完全な実力主義
堺:私たちは具体の話にしかあまり興味ないというか。みんなデザイナーでありエンジニアなので、役員を含めて、コンセプトがどうとかというよりも、(ディスプレイに表示されている作品を示して)例えばこの花1個がどう動くかのほうに興味があるんですよ。
だからそこでしか話さないんですよ。そうすると、主義主張じゃなくて「このお花の散り方はどっちのほうがきれいかなぁ」みたいな話なのであまり喧嘩にならないんです。
ブレストで揉めることもないですし、役職もありません。でも、まったくフラットではないんですよ。ある意味、めちゃくちゃ実力主義なんです。さっき言ったように、誰が誰よりできる、というのは、同じことをやってたらわかるじゃないですか。それの連続なので、自分よりできる人が言っている声のほうが、結果として圧倒的に大きくなります。
――なるほど。
堺:1個ものづくりする時もいろんな要素があるじゃないですか。システム寄りの話もあれば、プロジェクトマネジメント寄りの話もありますし、アートにしても建築的な要素、空間的な要素、素材的な要素、プログラミングの要素など、いろいろなものが組み合わさっています。
空間について話す時は、当然建築チームが一番わかっているので、「こういう素材だったらこう」と。それに対して、当然プログラミングをする人たちもどう見えるかが見えているので、議論はします。だけど、壁をどういうふうに傾斜させるかとか、結局責任を担保するのは建築チームです。
実現できる範囲のギリギリをみんなが攻めあって物を作っていくんですよね。だから、ぽっと出た新卒が「ぜんぜんわかんないけど、僕がこのアイデアやります!」って言っても全員スルー、みたいな。
(一同笑)
堺:ただ一方で、それに本当に意味があったり、ロジック上の理が成り立っていたり、その人がすごく研究をしていた分野がそのまま役に立つ時もあります。その場合、猪子(チームラボ代表 猪子寿之氏)も含め、「なるほど」と、全員が言うことを聞きます。
――そこも含めて本当に実力主義なんですね。
堺:そうです。その瞬間瞬間で、スキル・ノウハウが一番溜まっている人の言うことが、結果として一番クオリティが上がる。できないやつ同士でレビューしているのがたぶん一番良くないです。
それを保つために、さっき言ったようにできる限り組織構造もシンプルじゃないといけません。そうしないと、「あそこのリーダーがなにか言っていて、メンバーのリソースは彼が持っているのでなんとかできませんか?」みたいなことになっちゃう。それよりも直接聞けたほうがいいのに、人ってやっぱりすぐ、わかりやすくしたくなる。
もちろん、タイトル、組織、役職、役割が明確にテキスト化されていたほうがわかりやすいこともあるとは思います。でも、新しいことが起きた時に「それ誰拾うの」という話になる。
私たちは新しいことしかしないので、「え、その領域デザイナーなの? エンジニアなの? どっち?」みたいなことがたくさんあるんですよ。それをお互いに拾いにいって、話してやらないと解決しない。そこに承認など、無駄なコストが発生するのは意味がないと思っているんです。
メンバーが増えても評価の仕組みは変えない
――メンバーが約1,000人規模になると、担当役員が見られる範囲にも限界が出そうです。情報量を落とさずに規模を大きくしていくために、これから変えようとしていることと、変えないことはありますか。
堺:いや、大丈夫じゃなくなる時はあると思います。そうなると、シンプルに役員を増やすか、例えば役員ではないけれど、少なくともある程度、給与のランク付けができる人たちに、自分がすごくよく見ている班の中だけで順位付けをしてもらいます。
その順位付けが役員側が思っている順位付けとどう違うのかを話して、すり合わせ作業をしていくと、合っていくと思うんですよね。この順位付けに関しては、別に数字がわからなくてもできるじゃないですか。そういうかたちですり合わせをしていくかな、と。一部それに近いこともやったりしています。
――声の大きさや自己アピールの巧拙で評価がぶれないように、面談・ヒアリングの設計や、見立ての仕方で工夫していることはありますか。
堺:確かに。これはもう文化みたいな話ですけど、アピールとかはみんな「ダサい」と思っているかもしれないですね(笑)。
――そうなんですね。
堺:いや、嘘!
(一同笑)
堺:嘘じゃないけど、なんとなくそういう雰囲気があります。本当にエンジニア文化なんですよ。だから「アウトプット出してなんぼでしょ」とみんなが思っています。
――アウトプットで成果を見せる、みたいな。
堺:そうです。それに、私たちはアート部門だとしてもソリューション部門だとしても、1人で物を絶対に作らないんです。お互いに作るとなおさらわかるんですよ。
例えば「同じ内容の文章を書いて」と言った時に、「あ、こいつより俺のほうができるな」とか「私はこの人にはかなわないな」とか、あるじゃないですか。それは写真でも文章でも映像でもなんでもいいのですが、アウトプットを出す人たちは、少しわかりやすいというか、理解しえることがあると思っています。
それは本当に長い時間をかけて培われてきた文化だと思うのですが、そういうことを私たちも評価しています。それは単純に給与を上げるという意味だけじゃなくて、「最高だね」みたいなことを言うことも含めてです。
いい意味で、「新卒やばいらしいよ」「すっげえ魅了している」みたいなものは噂になるんですよ。めちゃくちゃプログラミングが速いとか、「他の人だと1ヶ月かかるところを1日でできたらしいよ」みたいな。「やば!」みたいな。そういうことに対して、みんなリスペクトがあるんです。