「共創」を掲げても実行できない組織の実態
──となると、従来型の目標設定が難しいとなった時に、やはり目標も上から押し付けるのではなくて、メンバーと一緒に作っていくことが求められているのでしょうか?
沢渡:そのとおりです。まさに統制管理型、あるいはやらせる型・押し付ける型のマネジメントや成果の出し方ではなく、共創でさまざまな人や組織とつながる。あるいは指示・命令の関係ではなく、ともにゴール設定をして、変化や設定を作っていくやり方。さらには、未知なるテーマと向き合いながら答えを出していく。
この共創のやり方に、今回言った目標管理のようなものも合わせて進化させていく必要があります。
今、さまざまな組織が共創と言い始めています。企業の理念として掲げている企業ですとか。行政機関でも、例えば私たちもご一緒している静岡県磐田市は共創の地域作りを掲げて行政運営をしていたり、(あまねキャリアも磐田市、およびパーソルビジネスプロセスデザインと学び×共創の地域連携に関する協定を締結)、東京都府中市も共創を掲げた部署(協働共創推進課)を創設していたりします。
それは、今までの組織運営モデルとか、個人の成果の出し方に限界を感じていて、さまざまな人とつながって新しい答えを出していく必要性を認識し始めているからだと思うんです。
「共創デザイン」という考え方
沢渡:一方で、共創は「言うは易く行うは難し」の典型です。
なぜなら、私たちは指示・命令型のやり方、やらせる・押し付ける型、あるいはやらされる・押し付けられる型の環境に慣れ過ぎてしまっているからです。「このままではうまくないよ」ということで、私は東北工業大学の下總良則先生と一緒に「私たちが共創で成果を出していくためには、どうしたらいいだろう?」と考えました。

下總先生はデザイナーのご出身で、経営をデザインで変えていく領域を専門に研究・実践なさっています。そして、共創で成果を出すための行動、マネジメント、ひいては求められる能力を体系化した「共創デザイン」という考え方を共同開発し、それを今回
『チームプレーの天才 誰とでもうまく仕事を進められる人がやっていること』という書籍の中で解説しました。
沢渡 あまね 著/下總 良則 著『チームプレーの天才』ダイヤモンド社 刊まさに世の中で、こういうことが起こっているんです。「共創」と言いながら、自社のルールや作法を一方的に相手に押し付けるとかですね。

──うーん、ありそうですね……。
沢渡:「あなたの事情はそうだね。でもそんなの関係ないでしょ」みたいな話でね。あるいは、その環境にいると一人ひとりが意見を言わないわけです。なぜなら、言っても意味がないから。
「共創」を言いながらまったく共創の呼吸ができていない。「共創に謝れ」みたいな現場を私もたくさん見ています。
それで目標管理のやり方も、今までの統制管理型、会社の合理性だけを一方的に押し付ける。さらには、答えがないものに対して無理矢理作文でそれらしいものをでっち上げて「とにかく何かそれらしい目標を、嘘でもいいから作りなさい」。このようなマネジメントは、まったく意味がないという話なんです。
組織と個人が合意して、高みを目指す目標設定へ
沢渡:(スライドを示して)これが共創デザインという名の元に、大きく「9つの要素」と呼んでいる右側のものです。組織が組織として共創能力を高めていくために求められるマネジメント、環境作り、制度設計を9つの要素としてまとめています。
そして左側が、私たちビジネスパーソン一人ひとりが共創で答えを出し、成果を出すために持っておきたい能力や行動、考え方を35個にまとめたものです。1つ申し添えておきたいのが、「共創能力の35個を全部身につけなさい」というわけではありません。それは相当しんどいと思いますし、人には個性がありますから、得意不得意ってあると思うんです。
大切なのは、全部1人でやるのではなく、それこそ共創です。例えばこの中でいう、「あの人は観察力が高い」とか。「私はビジョンとかリーダーシップはそんなにないけれども、あの人はすばらしいリーダーシップを持って行動できる。」とか。
一人ひとりの持ち味や能力を組み合わせて、それこそチームで、あるいはチームを越えて共創して、これらの能力を高めていってほしいと考えています。

──なるほど。それぞれの強みごとにゴールを設定してあげるイメージでしょうか?
沢渡:そうですね。目標設定の話で言うと、『チームプレーの天才』でいうところの「キャリアのデザイン」ですね。
私たち一人ひとりのキャリア自律を尊重していく必要があるという言葉で、この時代の変化を説明できます。これはどういう話かと言いますと、特にここ数年、若手は「コスパ・タイパを気にするようになった」と言われています。
その裏側には「この会社で、自分は成長できるのか?」という、キャリアに対する不安の意識が高まりつつある現状を理解しておきたいと思うんです。
なぜ若手社員はタイパ意識が強いのか
──どういった要因で不安の意識が高くなっているのでしょうか?
沢渡:これはまさに人生100年時代で、人材の流動性も高くなり、会社に言われたことだけをやっていれば、自分がプロとして成長していい待遇も得られ続けられるかわからないからです。
昨今は大企業でも黒字にも関わらず人員削減を進めていたり、あるいはAIの台頭により、ある日突然、職種転換を求められたりする、まさに激動の労働環境になってきているわけです。
こうなってくると、やはり「自分は何者なのか?」「何者になれるのか?」というキャリアに対する関心や不安が高まります。
さらには「短期的に2年、3年で能力を身につけて、その会社の中でさらにがんばっていくのか?」。あるいは会社の業績が悪かったり、自分の意にそぐわない環境に置かれるのなら、転職してキャリアを高めていく行動(への意欲)が高まっている。
キャリアを自分で切り拓く時代へ
沢渡:なおのこと、会社や組織に言われたことを一方的に鵜呑みにして、あるいは押し付けられて進めることが、本人のキャリアのリスクになってしまう可能性が高くなってしまいます。
──なるほど。マネージャーは良かれと思って目標設定をしているけど、本人にとっては「むしろ危険なんじゃないか?」と。
沢渡:はい。「これ、なんの意味があるんですか?」という。技術が枯れることがわかっていたら、それは「3年がんばって身につけても、私のその先、ないですよね?」という。会社が守ってくれるわけでもないなら、自分でキャリアを切り拓いていくしかない。
昔は会社に言われるままにやっていけば、ある程度の身分も待遇も保証されていたので、多少理不尽であっても守ることに合理性があった。ですが、昨今はその合理性がなくなりつつあり、会社もそれを守れる保証がないという話なんです。