【3行要約】・年2回の目標設定は現場に大きな負担となっているが、全社目標を知らない従業員が多く、部分最適に陥りやすいという課題が顕在化しています。
・中尾隆一郎氏は「打率のような率での評価は逆効果を生み、実数での管理が必要」と提言します。
・管理職は「目標の腹落ちは本人の仕事」と割り切り、目標の適切な割り振りに専念すべきだと語ります。
前回の記事はこちら 「自分のチームの目標」しか知らない従業員たち
——前回、「組織で共通の具体的な目標」を設定することが大事だとうかがいました。他に目標設定で大事なポイントはありますか?
中尾隆一郎(以下、中尾):目標設定は、まずはトップから現場までが同じ考え方になっていること、つまり一気通貫になっていることがすごく大事です。もう1つが、どうしても課や部で目標設定をするわけですが、全社の目標数字をみんなが知っていることがすごく大事です。
例えば先ほどの「3つ(提案)するお客さんを増やしましょう」といった時に、それぞれの部署で「100件達成」という目標を持っていたとします。自分の部の100という目標数字や、場合によっては自分が追いかけてる10という数字を知っている人はいるけれど、全社で「500」という目標を持っていることを知らない人が多いのです。
——確かに。自分の部の目標はギリギリ知っていても、他部署の目標はそもそも知らないということも多いですよね。
中尾:部の目標でさえちょっと危なくて、チームの目標ぐらいまでしか覚えてない人が多いと思います。僕たちは組織という同じ船に乗っているんですよ。この船は500という数字をみんなで追いかけている。それを便宜上、部署ごとに100、100、100とか、あるチームには10とかに分けているのです。自分のチームだけ15達成できて「OK!」と言っていても、船全体が進まなかったらゴールを達成できません。
だから船全体が今450までいっていたら、あと50をみんなで追いかけよう、と。こういう船は強いんです。
目標数字は「率」ではなく「実数」で出す
——「もう少しで目標達成だ」とかの進捗を、こまめに組織全体で共有する必要があるんですね。
中尾:はい。だから一気通貫していて、その全体の数字をみんながわかっていて、その数字はできれば足し算で増えていくのがいいんです。よく何パーセントとかの目標設定をする人がいるんですけど、パーセントにすると、分母と分子がわからないと計算できません。
例えば100組のお客さんがいた時に、80パーセントは3つ以上紹介しましょう、と決めたとします。そうすると、分母も分子もわからないとだめです。
例えば野球の打率を例にすると、打率というのは、何回打席に入って何回ヒットを打ったかということです。10回打席に立って3回ヒットを打ったら3割、30パーセントです。3割バッターとか言われますが、その年に一番打率が高かった人は賞がもらえるわけですね。
それでその年の最後の試合で、今僕が打率一番だとしましょう。Aさんとギリギリのラインを争っているわけです。
ところが打席に入ったら分母だけ増えますよね。野球って3割しかヒットにならないから、普通に考えると1回だけ出た場合はヒットにならない可能性のほうが高いです。そうすると打率が悪くなりますよね。
今、僕がAさんにギリギリ勝っている中で、この1打席に出てヒットになったら大きく差をつけられるけど、ヒットにならなかったら逆転される。こうなったら……。
——打席に立たずにそのまま逃げ切りたいですよね。
中尾:そう、僕は今から他のバッターに代わってもらったほうがいいのです。ところが、そもそも野球は点数を取ったほうが勝てるゲームなので、矛盾が生じるんですね。さっきの話で言ったら、受注率が下がる可能性がある場合に、僕は商談するのが嫌になるのです。
「個人目標」を達成するために、あえて打席に立たない
中尾:でも本当は、ビジネスってお客さんに喜んでいただいて買ってもらうのが仕事です。だから営業活動をしなければいけないのに、自分の打率を高めるために、商談しないという判断をしてしまうんですね。
——実際のビジネスの場でも、自分の目標達成のためにあえて打席に立たないということが起きてしまうんですね。
中尾:そう。だから評価が受注率だとして、各店舗でみんなが「あ、ちょっと今日はもう(目標達成したので)いいです」と言って商談をやめたら売上は減りますよね。
でもそれがヒットの数、つまり受注の数だけだったら、1打席でも出たほうが受注になるから、みんながんばって営業活動するじゃないですか。だからこの目標の数字は率ではなくて実数のほうがいいですよ、ということです。でも、多くの現場ではこれをわかっていないので、率でやってしまっているんですよね。
目標を「腹落ち」させるのは上司の仕事ではない
——目標設定は上司側にとっても大きな負担になっていることが多いです。目標設定が面倒だと感じる管理職も少なくないと思いますが、何か打ち手はあるでしょうか。
中尾:めんどくさいと感じられるのは、時間と手間をかけているにもかかわらず、その効果が限定的で弊害が大きいからです。実際、管理職は期末とか期初に査定会議、上司との人事すり合わせ面談、書類作成などに、膨大な時間がかかっていますよね。さらに最悪なのが、「メンバーに腹落ちさせる」ことが重視されている。
でも、メンバーはそう簡単には納得しませんよ。コンセンサスとか、腹落ちとかって、悪いバズワードだと僕は思っています。
——でも、目標設定の時はメンバーが腹落ちするまで対話しましょうというのはよく言われていますよね。メンバー自身が納得できないと、主体的に取り組めないのではないでしょうか。
中尾:もちろん目標について理解させないといけないタイミングはあります。でも、その人が自分で考えて自分で行動できる、自律自転するのがゴールだとするならば、腹落ちは本人がすべき問題なのです。
上司が部下に腹落ちさせるなんてことは無理だと思ったほうがいいです。本人が自分で納得するのが仕事だ、と思ったほうがいいし、そう思わせたほうがいい。それを上司の仕事だと思った瞬間に、上司の負担は増えるし、メンバーは依存するし、良いことは何もないです。
そもそも「メンバーが目標を作る」のはおかしい
——部下に腹落ちさせるのは上司の仕事ではないと。その場合、個人目標をどういうものにするかの話し合いやフィードバックは、どうしたらいいのでしょうか。
中尾:みんなすごく勘違いしているんですけど、目標は経営者が作るものです。それをどう割り振るのかを考えるのがリーダーの仕事です。だから、本当はメンバーが目標を作るって変な話なんです。
——メンバーが自分で目標を設定するという会社は多いですよね。
中尾:それが本来はおかしいんですよね。OKRで「自分がどういう能力を開発したいか」だったら、自分で考えたらいいと思うんです。でも事業の目標を進めるための目標管理は、そもそも会社でこういうことをしないといけない、というのがある。それを誰にやってもらうかを考えるのがリーダーの仕事なのです。だからそれをメンバーにやってもらうというのは本末転倒ですよね。
もちろんリーダーが原案を作って、「スズキさんよりもヤマダさんがこの仕事をやったほうがいいと思います」とか、そういう調整はあると思います。ただ、会社の戦略がわかっていない個人のメンバーが、目標なんて作れるわけないのです。
実際の話で言うと、部長が各課長にどういう仕事を頼むかを考え、課長がメンバーと一緒にどういうふうに仕事を割り振りするかを考える、というのが正しい手順です。
ところが課長は、部長からそれが下りてこないから困ってメンバーに頼む。わけがわかっていないメンバーが、「これやりたいんですけど」と言う。「こんなことやっても業績が増えないから」と言うと、「え、せっかく作ったのになんでだめなんですか?」という話になるんです。