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中尾隆一郎氏インタビュー(全3記事)

ある部署で目標を「ハイ達成」の裏で起きている弊害 「個人目標」が逆効果になるパターン

【3行要約】
・目標設定は多くの企業で導入されていますが、形骸化して「目標設定ごっこ」に陥り、組織の成長につながらないケースが少なくありません。
・評価のために低い目標を設定したり、個人目標の達成だけを追求することで、部署間の連携が阻害され、全体最適が損なわれる問題が生じています。
・組織全体で共通の具体的な目標を設定し、「どう行動すべきか」が明確になるKPIマネジメントを実践することで、真に意味のある目標設定が可能になります。

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「目標設定ごっこ」に陥ってしまうパターン

——目標設定は「やらなきゃいけないから」と、前年と同じようなテンプレート的な目標にしてしまうことが多いですよね。

中尾隆一郎(以下、中尾):そうそう。目標設定がある種「ごっこ」みたいな感じになってしまうんですね。だから目標設定を評価に使うのか、使わないのかという話もあります。例えば、OKR(Objectives and Key Results)という考え方があります。OKRも目標設定をしますが、これは本来、能力開発のためにやっているのです。

評価のためにやるのはMBO(Management by Objectives)、目標管理ですね。その目標管理を評価に使っている。でもOKRは、能力開発のために目標設定しているから、究極的に言えば達成しなくてもいいのです。すごく高い目標を立てて、能力を伸ばすためにそこに向かって努力を促すのがOKRの本来の目的です。

——OKRは7割達成できたら十分と言われていますよね。

中尾:そう。だからこれは達成しなくていいんだけれど、MBOは達成することを求めている。だから同じ目標管理でも、本来のOKRと本来のMBOは違います。加えて言うと、達成したら評価するのかしないのかというのも、またそれは人事制度の問題なのです。

達成率で評価するとなると「低めな目標」をつけがち

——目標達成したかどうかが評価の基準になるものだと思っていたんですけど、それだけではないんですね。

中尾:達成しなくても、努力を評価してもいいわけです。例えば、評価のための目標があり、これを達成率で評価しようとします。でも達成率で評価するとしたら、目標を下げたくなりませんか?

——そうですね。あらかじめ目標設定の時に、ちょっと低めの目標にしたくなります。

中尾:そうでしょう? これも「ごっこ」です。しかも期初に正しい数字目標なんて、立てられるわけがありません。

——たしかに。毎回「これちょっと無理だったな」とか「意外といけちゃったな」となります。

中尾:そうそう。だから期初に置いた目標で公平に評価するというのもおかしな話です。できるわけないことをベースに評価しているのです。

——半年に1回くらいのペースで目標設定する会社も多いですが、それ自体があまり意味がないということでしょうか。

中尾:それは給料を毎月変えるのが面倒くさいから半年とか1年で人事評価をしているだけなんですね。それと昔はシステムやAIもなかったから、評価して集計するのが大変でできなかった。また、あまりに短期の目標設定にすると、短期業績だけ考えて中長期のことを考えなくなるから、というのが一応大義名分です。でも、そんなの嘘です。

だって今「今後1年間のことを考えた目標にして」と言ったって、みんな目の前のことしかしていないじゃないですか。そう考えると、いろんな誤解があるわけです。正確かつ公平に評価できるという誤解。評価ポイントが曖昧なミッションだとか、業務内容を理解していない上司の関与とか、評価全体の分布を揃えないといけないとか。もう正確でも公平でもない評価、目標設定なんてゴロゴロあるのです。

「個人目標」を達成しようとして、他の人にしわ寄せが……

中尾:あるいはさっきの、評価は個人に分割できるという誤解ですね。さっきは同じチーム内での話でしたが、部署をまたぐことも多いです。集客のチーム、商談設定のナーチャリングのチーム、受注のチーム、納品のチームと、一連になっている場合。一連で結果が出るのに、集客の人は集客目標を達成したら評価されて、ナーチャリングチームは商談設定したら評価される、というふうになっている。

でも、集客目標だけ追いかけろと言ったら、絶対に商談にならないお客さんを集めても評価されるし、絶対に受注にならないお客さんを商談設定しても評価されます。営業は、納品しづらいものを請け負ったり、値引きしてでも受注だけできたらいいと思う人たちもいるかもしれません。そうすると最後の納品工程が大変な目に遭うのです。

——自分の目標だけ達成できればいいと線引きすると、後の工程の人にしわ寄せがいってしまうんですね。

中尾:あとは、インセンティブをあげれば業績が向上するという誤解ですね。

——お金のために目標を達成しようと思えるなら、一定の効果がありそうですが、どんな問題点があるのでしょうか。

中尾:実際、インセンティブを渡しても業績に関係なかったという研究結果は数多くありますし、お金をもらえないことはやらなくなりますよね。だからメンバーを育成するなんてことはまったく考えない。

——確かに。育成は長期で成果が出るところなので、なかなか評価もしづらいですよね。

中尾:あとは、そもそも正規分布にしようと思って低い評価を与えざるを得なくて、「なんでこんなにがんばったのに低い評価なんだ」とやる気を下げたり。

つまり、個人の目標を達成するためには、全体のことはどうでもいいんだ、というような構造的な問題があるんですね。みんなこれを考えずにやっているから、意味のない目標設定になってしまっているんです。

組織全体で追いかけるべき共通目標とは

——中尾さんご自身のスタンスとしては、ゴールがわからないと生産性が上がらないから、目標設定自体は必要であると。ただ、部分最適な目標設定になってしまっているために、いろんな弊害が起きているということですね。このあたりは、どうしたら本当に意味のある目標設定ができるんでしょうか。

中尾:例えばKPIは、組織全体で同じ目標を追いかけるのが大事です。部署ごとに分断されているけれど、組織の共通目標が一番大事だとする。そうすると、みんなが協力しやすくなります。

「KPIマネジメント」と言うと「数値目標でしょ」と勘違いする人がいるのですが、正しいKPIマネジメントはボトルネックといって、一番水の流れを阻害している場所をみんなで広げよう、という発想なんです。

例えばさっきの話で言うと、集客をします、ナーチャリングします、商談します、という流れがあった時に、どうやったら一番売上が上がるかを考える。僕が過去にやったあるケースですが、お客さんにパターンを3つ提示すると一気に受注率が上がるという事実がわかったのです。

3つというのはいろんなパターンがあるんですが、お客さんが並行検討する時、だいたい2つから4つぐらいの中から選ぶんです。だから1個しか提案しないと、お客さんが自ら調べて残りの2つの案を見つけてくるので、受注になる可能性は3分の1になります。

でも、僕たちが3つ紹介したら、お客さんはその中から選びます。お客さんがその中で選んだなら、受注率は100パーセントです。

つまり、「我々の一番の目的は、商談をする時に3つ紹介できる件数を増やすことである」、というのを大目標にするのです。そうすると、集客の人は「3つ(の提案)が大事なんだ」という広告を打ったり、記事を作ったりする。

一次接客する人も、「プロがあなたにぴったりのものを3つ紹介するので、商談の時には楽しみにしといてくださいね」と言うわけです。

「どう行動したらいいか」がわかるくらい具体的に

——大目標がものすごく具体的ですね。

中尾:はい。もしこれがなかったとしたら、集客の人たちは「私たちはプロなんで、ぜひ商談しましょう」とやります。そうやってターゲットを広げたほうが、たくさんの人が来るからです。

そうすると集客チームの目標はハイ達成しますよね。商談を作るチームも、「とりあえず商談やりましょう」と言って商談数をバーンと増やします。

そうなるとどうなるかというと、営業のチームは「3つから選ぶのが大事ですよ」というところから言わないといけないから商談の時間は長くなるし、まったく興味ない人の接客もしなくてはいけなくなる。めちゃめちゃ効率が悪くなるのです。でも、ほとんどの会社はこれをしているんです。

だから目標設定というのは、集客目標とか商談目標とか受注目標とか納品目標という話ではなく、全員でこの「3つの紹介の組数」を追いかければいいのです。

——目標を個別最適化せず、共通の具体的な目標を立てることが大事なんですね。

中尾:そうです。これは営業だけでなく、どんな部署や仕事においてもできます。大事なことは、現場の一メンバーが「どう行動したらいいかがわかる」ということ。ここまで考えないと、正しい目標設定ではないのです。

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