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高部大問氏インタビュー(全3記事)

「10年後どうなりたい?」で人を黙らせる職場 ドリーム・ハラスメントがチームの多様性を奪う理由

【3行要約】
・夢を持つことは良いとされるが、上司や先生が「夢は何?」と問いかける 「ドリーム・ハラスメント」が若い世代に心理的負担を与えています。
・高部大問氏は、画一的な夢重視のチームは多様性を失い組織の弱さにつながると指摘し、公私の距離は本人に決めさせるべきだと語ります。
・企業や教育機関は、夢を持たない生き方も尊重し、若者が自分のペースで成長できる環境づくりが必要です。心理的安全性の確保が解決の鍵となります。

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画一的なチームは組織を弱くする

――今のお話に関連して、ドリーム・ハラスメントが現れやすい場面や関係性では、やはり心理的安全性が一つのポイントになるのでしょうか。

高部大問氏:ポイントだと思います。心理的な安全が担保されていれば、「夢は何なの?」と聞かれても嫌がらせには感じないと、若い人たちもよく言っています。同じ学校の先生や上司でも、まさに関係性や間柄によって、同じフレーズでも嫌がらせと受け取る人もいれば、受け取らない人もいる。それが昨今のハラスメントにおける、受け手の気持ちや関係性の重要性だと思いますので、日々の関係性は本当にあると思います。

――聞く側のマネージャーも、ご自身の評価などもある中で、善意でやってしまうケースもあるかと思います。その典型例はありますか。

高部:夢を持っていたほうが本人は走りやすい、ある意味ニンジンをぶら下げるようなものだと思うので、全力で走らせてあげたいという思いから「10年後どうなりたいの?」と聞いてしまうんです。

私は本の中で「逆算型のキャリア」と書いていますが、目的を決めたらそこから逆算してマイルストーンを敷けます。「1ヶ月後はここまでいっていれば将来的な夢に到達できるな」というように、進みやすいし、進み具合もわかりやすい。だから目的を持ってもらったほうが本人が走りやすいだろう、という仮説が一つあります。

もう一つは、目的を明確にしてくれたほうが上司からも、助言がしやすいという「助言容易性」があります。本人に「10年後どうなりたいか、ですか? ……いやぁ、自分でもよくわかんないんですよね」と言われた時に、上司もアドバイスのしようがない。相当本人のことを深く理解しないと提案ができないのです。

本来は「君はこういうところがあるから、本当はこうなりたいんじゃないの?」といった提案が響くはずですが、そこまでの関係性が日常的にないと、「あ、そうなの?」で終わってしまう。そうなると、どうなりたいかを決めてくれたほうが「あの人の所に行ってみな」とか「じゃあこういう配置転換を検討しようか」とアドバイスしやすくなる。なので、夢を決めたほうがいい、という考えにハマりやすいのです。



――ドリーム・ハラスメントが続くと、個人やチーム、組織にどのような影響が出ますか。

高部:一番は、排他的になると思います。夢を持つこと自体はとても良いですし、エネルギッシュですが、それが蔓延すると夢を持つ仕事の進め方やキャリアの歩み方をする人たちが多くなります。するとチームの中で夢を持たない生き方の人や、そういうキャリア設計をしたい人の発言力がどんどん小さくなり、居心地が悪くなる。マイノリティ側に追いやられ、結果的にチームの多様性が失われます。

今、特に若い方がドリーム・ハラスメントのような状況に浸っていると感じます。どのビジネスでも、どの業種であっても、お客さんや採用候補者など、ステイクホルダーの中にドリハラの被害者たちがいるはずです。いろいろな人を相手にする上で、チームに多様な人がいたほうがいい。そうなった時に、夢を決めて人生設計する人たちだけで画一的なチームになると、ステイクホルダーに対応するという意味で幅が狭くなってしまい、弱さにつながると思います。

仕事の目標と個人の夢を無理に接続させる必要はない

――チームで仕事をしていく上での目標設定とこの問題はどう関係してきますか。

高部:夢というのはすごくプライベートなものです。今、若い人たちの間で夢のハラスメントが問題になっているのは、そのストライクゾーンがすごく狭いことが前提にあります。職業的な夢に限られたり、もっと言うと消費活動の夢はほとんど認められていなかったりします。

例えば「マクドナルドをたらふく食って死にたいです」という夢は「どうぞどうぞ」という話にされてしまいます(笑)。学校の進路面談などで「この水が飲みたい」「これを買いたい」という夢は「勝手にやって」という感じです。上司や先生が聞いているのは生産活動側の夢なので、ほぼイコール職業や仕事の話なんです。

本来、夢は消費活動でもいいわけです。仕事の目標とどうリンクしているかという点では、本人のプライベートな夢はプライベートなものとして、自由に持たせればいいし、持たなくてもいいと思います。

仕事で聞く目標は、もし関連性があるとすれば、できる限り本人のプライベートな夢や希望が実現されるようにリンクさせてあげられると一番ハッピーです。「お金を稼ぐ」でもいいですし、「家を建てたい」といった夢でもいい。

もしそこに橋をかけられないのであれば、仕事の目標と本人の夢を無理に接続させなくてもいい。人によっては公私を分けたい人も当然いるので、その場合はそれでいいと思います。今問題になっているのは、無理やりここを接続させようとか、本人の夢を仕事の目標寄りに設定させようとすることです。本人には「自分の夢なのに」「自分の人生なのに」という違和感がある。公私の距離は本人に決めさせてあげればいいのです。

若い世代は特に、プライベートを重視したいという層と、孫(正義)さんや柳井(正)さんがそう見られがちなように、「公私なんて関係ない」という派もいると思います。どちらにもチューニングできるように構えておかないと、片方だけでは若い人にアジャストしないでしょう。


「私的」と「公的」の間で引き裂かれる世代との向き合い方

――この問題は、世代で違ってくるのでしょうか。

高部:キャリア教育をごっそり受けてきた世代がいよいよ社会に出てくるので、世代間ギャップはあると思います。ずっと「夢、何?」と聞かれ続けて、夢を持てた派と、持てなくてくすぶり続けている派に二極化していると思います。

夢はプライベートなものですが、自分だけを自己中心的に考えてよかった世代はとうの昔に終わっています。私たちの親の世代のように、マイホームやマイカーを持ち、環境問題もSDGsも関係なく、という時代ではありません。今は「プライベートなことよりもパブリックなことをまず考えなさい」と言われているのに、キャリア教育では「プライベートなことを考えろ」と言われている。

本当にずっと引き裂かれている世代なので、社会に出る時に「プライベートを重視していいんでしたっけ?」「でも会社に入るってことは、貢献しなきゃいけないのでパブリックなほうですよね?」と、「どうしたらいいんでしたっけ?」という問いに誰も解を出せていません。

関わり方はいよいよ難しくなると思います。退職代行のようなサービスも、彼らからすれば「プライベートを重視しろって言ったじゃないか」という合理性があり、生まれるべくして生まれてきた状況です。今後、この傾向は拍車がかかるでしょう。

今の若い人たちは、大人都合や大人の思惑に自分の人生を合わせている、忖度している感じがすごく強い。そういう子たちが社会に出ると、上司や会社の顔色をうかがい、答え合わせの人生を送りがちです。良くも悪くも枠に収まってしまう。それではイノベーションやブレイクスルーは生み出しにくい。

経済界は「イノベーションを」と言うのに、教育界は相変わらず夢を決めさせてそのとおりに歩ませるという、大量生産時代と変わらないことをやっています。表面的には個人に寄り添っているようで、育てている人材はあまり変わらない。夢がある間はいいですが、それがなくなるとがんばれなくなる。目的を持つことの強さと同時に、持たない場合に走れないという弱さも抱え込んでいるのです。

人類史で見れば「夢を持つ」こと自体がイレギュラー

高部:昔はWill-Can-Mustで言うと、Mustをやるしかなかった。まず走ることで筋肉がつき、力がついた良さがあったのだと思います。今は先に考えさせるので、特に仕事も経験していない若い人には難しい。

この話は元も子もないのですが、私がずっと社会的な問題だと言い続けているのは、究極的には夢など気にしてほしくない、という個人的な願いがあるからです。「夢」という言葉が「個人が実現したい志」という意味で使われだしたのは20世紀に入ってからで、20世紀初年に鬼籍に入った福沢諭吉も使っていません。人類史の長い期間で見れば、私たちは超イレギュラーな時代を生きています。

職業選択や結婚相手、住む場所が自由になったのは、当たり前のようでいて、600万年の人類史で言えば非常に特殊な状況です。リベラル化で「自由に選んでいいよ」と言われるのは、簡単なようでユニクロで服を選ぶくらい難しい(笑)。人類全体が難しいことに挑戦しているので、夢を決めろと言われても難しいのは当たり前です。

「夢は持つべきものだ」とプリセットしてしまうと、他人に冷たくなってしまう。「なんで持てないんだ」と。しかし、広い視野で見れば、今の時代がイレギュラーなのだと理解できるはずです。その前提で1on1などに臨めば、「夢を持つって難しいよね」という入り方ができ、もう少し寄り添えるのではないでしょうか。

もし全人類が本気で夢を持ち出したら、けっこう世の中はちゃめちゃになると思います(笑)。「僕は働かないことが夢です」という人も認めなければならなくなる。そうではないストライクゾーンがあるからこそ、文字どおりに夢を持たせることの危うさも考えるべきかもしれません。

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