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高部大問氏インタビュー(全3記事)

「夢がない」と言う若手を追い詰めない 小さな成功体験を育てる“積極的非介入”マネジメント

【3行要約】
・「何やりたい?」と聞かれても答えられない部下が増加する中、上司との1on1では「How型」の対話が有効です。
・リクルート出身の高部大問氏は、夢がない人には小さな成功体験を積み重ねる「加算型キャリア」を提案。
・上司は「積極的非介入」の姿勢で部下の自律性を尊重しつつ、対等な関係性のもとで「どうしたいか」を共に考えることが大切です。

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夢を持たない加算型キャリアと積極的非介入のススメ

高部大問氏:先ほど夢を持ちたい人場合はWill-Can-Mustの順序立てが方策としてある、という話をしました。では、夢を持ちたくない場合はどうするか。これが一番難しいのですが、キャリア理論で言う「プランド・ハップンスタンス・セオリー」、日本語で私は「加算型」と名付けました。良い偶然がたくさん起きると人はやる気になる、という考え方です。

夢を持っている人は、強烈になりたいものという北極星があるので、それさえ見ておけば、今の自分が何点であってもがんばれます。夢がない人はこの北極星がないので、今の自分の現在地に自信を持てないと、明日からの活力が出ません。自己肯定感と言ってもいいかもしれませんが、現在の自分に対するある程度の自信がないと、生き生きとはできないのです。

では、どう自信を持たせるか。上司や先生、保護者が気をつけるべきは、小さな成功体験をどう作るかです。何が成功かは本人にしかわかりません。「プロ野球選手」という目標があれば査定できますが、それがないとなると、本人が「これ良かったな、成功したな」と自己満足で思えるかどうかが重要です。



例えば「人と話せたな」ということかもしれません。異性と話せなかったのが、学校で「今日は話せた」というのが、本人にとっては大きい一歩かもしれない。そういう小さな成功体験をどう捻出するかという点で、評価や妨害をしてしまうと芽が刈り取られてしまうので、アプローチは夢を持ちたい人と同じです。

あまりガミガミ言わず、介入しない。そっとしておくことが一番成功体験を積むことにつながるので、上司や先生は相当我慢しないといけません。ついできないことや失敗に「早く立ちなさい!」「なんでそこで失敗するの?」と言いたくなりますが、本人は夢のないキャリアを歩み、小さな成功体験をつかもうとしているかもしれないので、放っておくことが大事です。

会社で言えば、上司が「これは小さな成功体験だったね」と意味づけてあげることは、助言者として非常に必要です。本人も気づいていないような成功体験を「あれもそうだよね、これもそうだよね」と言ってあげる。「この間は話せなかったけど、目を見て話していたね」といったこともそうです。そうすると少しずつ自信がみなぎり、強烈なやりたいことがなくても、結果的にチームの目標を達成できる良いキャリアが歩めると思います。

――「介入しない」というお話ですが、「甘やかし」との区別はどう考えればいいでしょうか。

高部:甘やかしは「何でもOK」で、NGゾーンとの境界さえない状態です。極端な話、人を傷つけたり、時間に遅れたりといった、社会生活がままならなくなるようなことさえ「いいんじゃない? あなたが好きなようにしたら」と言う。これは甘やかしです。

そうではなく「積極的非介入」とでも言いましょうか。核心の部分は介入しないけれど、それ以外はある程度介入する。常識的な範囲や、人としての礼儀、他人に迷惑をかけないといったところは、バシッと指摘していい。そこは甘やかしとの境界線だと思います。決して放っておくのではなく、言うべきことは言うけれど、人生設計といった核心の部分はそんなに言わない、ということです。


「何やりたい?」より「どうしたい?」 問いで変わる1on1

――職場の面談や1on1で、若手との対話では具体的にどのような行き違いが起きていると思われますか。

高部:夢や希望を持っていた上司からすると、夢を持てない若者のことが根本的に理解できない。そのミスマッチはよくあります。私もファーストキャリアはリクルートという会社で、1on1がよくありました。2010年頃に入社しましたが、「何したいの?」という問いに答えられない、というのはその頃からありましたね。

ただ、あの会社の非常におもしろいところは、「What型の夢」、つまり「何やりたいの?」が出てこない場合は、How型に切り替えるんです。社会人なので「やらなきゃいけない仕事はやらなきゃいけない」と。その上で「やり方は君に任せるよ」。やりたいことがある人はどんどん新規ビジネスを提案しますが、それがない場合は「わかった、目の前のことを一緒にやろう。そのやり方、Howの部分は君のやりたいように一度やってみたらどう?」となるのです。

周りを巻き込んでもいいし、図書館にこもって研究者のように過去の文献を漁ってもいい。同じ問題解決でも、解決方法やたどり着く経路は「君のやりたいようにやればいい」というかたちなので、そういう1on1のあり方も一つかもしれません。少し矛先を変えるというか。

――リクルートはWillを聞くイメージがあったので、元リクルート出身の高部さんに、ぜひうかがいたいと思っていました。

高部:私が入った時は、実際にはあまりそういうことはなかったですね。本を書いた後でよく「リクルートにいたからドリーム・ハラスメントを実感していたんですか?」と聞かれることがあるのですが、私自身がいた時はまったくそんなことはありませんでした。

むしろ「何をやりたいの?」と聞かれることはあっても、ない場合には先ほどのHow型という別のレールが敷かれていたので、そういう意味でのハラスメントはなかったです。「何やりたいの?」よりも「どうしたいの?」と聞かれるほうが多かったですね。どの部署でも「お前はどうしたいの?」とよく聞かれていた気がします。

――確かに「何をやりたいのか」「どうなりたいのか」と聞かれると、少し考えてしまいますね。一方で「目の前のことを一緒にやろう。Howの部分は君のやりたいように一度やってみたらどう?」と言われると、印象が違いますね。

高部:はい。ただその時に、目の前の人に対して「この人は寄り添ってくれるな」と思えないと、ただ尋問されている感じになって嫌がらせっぽくなります。これは心理的安全性の話ですね。「どうしたいの?」と聞かれて、自分が答えた時に、その「どうしたい」にこの人は寄り添ってくれる、何かアドバイスをくれる、一緒に走ってくれる、という関係性が大事です。

対立的に目の前にいるというよりは、横に座ってくれている感じ。そういう上司や相手であれば、すごく安心して「こうしたいんです」と言えると思います。追及ばかりされると「どうせ言っても詰められるしな」となって言いたくなくなるので、前提としてそこの関係性は大事ですね。


対話の鍵は「対等な関係性」

――対話が詰問に傾かないようにするために、有効だと感じた場作りの原則はありますか?

高部:よくしゃべらせてあげることが大事なのでしょうね。1on1などでは、上司のほうである程度「こういう方向に持っていきたいな」というシナリオが決まっているケースがあると思います。もちろんノープランでは仕事としてダメですが、シナリオをいくつか可変で持っておかないと、「このシナリオにはめよう」と、どうしても誘導的になり、上司側がしゃべる時間が長くなりがちです。

そうではなく、部下側が自由に発言できたり、その場で「決め打ちではなく可変だな」と思ってもらうことがすごく大事です。そのためには、本人にたくさんしゃべってもらう。「どうなりたいか」という未来の話よりは、現在地でどんなことに困っているのか、どういうバックグラウンドがあるのかといった過去の話も、聞ける範囲で聞いてあげたほうがいい。

そうすれば「将来、実はこういう未来もあるかもね」といった提案もできるかもしれません。それには、相手から引き出す必要があります。上司側がしゃべる時間が長ければ長いほど、淡泊な会話になるでしょう。よく言われる8:2の割合(聴く:話す=8:2の割合)は、ある程度当てはまる気がします。

――対話と詰問を分ける境界線はどこにあるのでしょうか。

高部:対話は「対」という言葉が表しているとおり、ある程度対等な関係性が担保されていないと生じ得ないのだろうと思います。もちろん上司と部下なので完全な対等はありえません。どの面で対等かというと、自分のキャリアに対して自分が運転手である、主人公たり得るという点です。本人の人生なので、上司だろうが誰だろうが、そこのハンドルは握りきれません。

その意味で、本人の人生に対して対等な関係で、上司も思うことを言うし、本人も夢がないなら「ない」と言える。そういう対等な関係が担保されていれば対話になります。対等でなくなった瞬間、つまり上司が部下の仕事上のキャリアを完全にコントロールするという位置関係になってしまうと、すべての質問は詰問になると思います。そこの対等な関係性が担保されているかどうかが分かれ目でしょう。

上司自身が人生を楽しむ姿が、ハラスメントをなくす第一歩

――Willハラスメント、ドリーム・ハラスメントという言葉が出てきて、「これを言ったらNGなのかな?」と腫れ物に触るように感じている上司の方も多いかと思います。

高部:あまりそう思ってほしくない、というのが本音です。本を出した時にも、「なんでもかんでもハラスメントと言うなよ」という反応はありましたが、私が伝えたいことはむしろ逆です。「どこがNGか」を恐る恐る探すのではなく、逃げ腰にならずに、一人ひとりときちんと関わっていくほうがいいのではないか、と思っています。

例えば、大谷翔平選手が野球少年に「夢は何なの?」と聞いても、ハラスメントにはあまりならないと思います。なぜなら、彼自身が夢を持って実現し、今もなお背中で語り続けているからです。そういう人から聞かれたら、野球少年も「僕もメジャーリーガーに」と答えるでしょう。

上司と部下も同じです。もし上司側が何か夢を持っていて、今もなお実現しようと奮闘している人が、部下に「夢はあるの?」とマイルドに聞けば、そんなにハラスメントにはならない。問題は、本人が特に夢を追いかけていないのに、部下にだけ聞いてしまう、このアンビバレントな関係になった時です。言われる側からすると「あなたも何も追いかけてないですよね。なんで僕にだけ聞くんですか」という違和感が生じます。

上司側ががんばっていればハラスメントにはならないと思うので、あまり「これ言っていいかな」と気にしすぎず、むしろご自身の人生をエンジョイしてほしいと思います(笑)。部下に夢を求めるのであれば、自分自身も持ったほうが当然言いやすいでしょう。

もし部下が「夢を持つか否かはどっちでもいい」と言うのであれば、本人が夢を持つ持たないは自由です。その場合はアプローチの仕方ですね。先ほどのように話を聞いてあげたり、あまり評価しない「非評価」や、妨害しないというところに気をつけさえすれば、明日からの会話でも「慮ってくれてるな」という感じは出ると思います。それだけでも応急処置としては十分かなと思います。

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