【3行要約】
・キャリアビジョンを問われる「Willハラスメント」に悩む若手ビジネスパーソンは多く、「やりたいことがない」という悩みが深刻化しています。
・ポジウィル株式会社代表の金井芽衣氏は「自信のなさからWillが見えなくなる人が多く、実績を積むことで自信をつけるべき」と語ります。
・Willを無理に探すのではなく、まずは「CAN」を増やし、自分の選択に自信を持てるようになることが解決への第一歩です。
「Willハラスメント」はなぜ生まれるのか?
——今、多くの企業で若手ビジネスパーソンに対し、過度に「Will」や「ビジョン」を問う風潮が強まっています。しかし、聞かれる側は「やりたいことがない」と悩んでしまう方も多く、これが「Willハラスメント」とも呼ばれる課題になっています。
そこで今回は、多くのビジネスパーソンのキャリアをサポートしてきたポジウィル株式会社 代表取締役の金井芽衣さんにお話をうかがいます。
まずは、御社の事業の概要について教えてください。
金井芽衣氏(以下、金井):キャリアでどうしていきたいかを悩んだ時に、一緒に伴走してキャリア設計を考えていくサービス「POSIWILL CAREER」を運営しています。20~30代の方がメインのユーザーになりますね。

また、転職エージェントとか求人サイトもたくさんあるじゃないですか。どの選択肢がいいかわからない時に、そこを一緒にサポートしていく「キャリアの窓口」というサービスを2025年の8月に始めました。こちらもけっこう順調に新規事業として結果が出てきています。
あとは今、アプリで履歴書の添削をしたり、テキストで相談に乗ったり、動画学習ができる「POSIWILL ACADEMY(ポジウィルアカデミー)」というものもやっています。
——御社サイトには「2030年代に生き方支援カンパニーを目指す」ということが書かれています。キャリア以外の部分もサポートしたいということなのでしょうか。
金井:そうですね。私たちは個人の人生というものに向き合ってきました。キャリアだけでなく、婚活で悩んでいる方のサポートをすることもあるんです。転職や求人をサポートするサービスは、法人向けの事業がすごく多いじゃないですか。
私たちは「個人の方がよりよい選択をできるように」という事業をどんどん作っていこうという話をしているので、キャリア領域だけではなく、個人が生きやすくなるようなものを生み出していきたいな、というのが1つのテーマになっています。
WillよりもCanがあるかどうか
——ありがとうございます。今回の企画テーマであるWillハラスメントですが、金井さんやスタッフの方が相談者の方と会話される中で「Willがわからない」みたいな相談は増えていますか。
金井:いや、とても多いと思いますね。
——いわゆる「Will・Can・Must」のフレームワークって、本来はビジネスパーソンの成長につながるものだと思うんです。それがプレッシャーのように捉えられている要因は、どういったところにあるんでしょうか。
金井:今回の企画をいただいて思ったんですけど、そんなに上司との面談でやりたいことを聞かれるものなんですかね? 聞かれているんですか?
——そうですね。あとは「どういう存在になりたいか」とかは定番の質問のイメージがあります。
金井:私は、WillよりもCANがあるかどうかのほうが大事な気がします。Canがどれだけあるかでけっこう変わってくるんじゃないでしょうか。圧倒的なCanがある人は、それがWillにつながったりするじゃないですか。でもWillがない人ってCanもないしMustも薄い人が多い気がしていて。結局はすべてにおいて自信がない、というのはけっこうある気がします。
ダイヤの原石がそのままになっている
——根底にはスキル不足があるということでしょうか。
金井:「これだ」というものを磨ききっていない感じですね。すべてが中途半端というか、ダイヤの原石が石のままになっているみたいな。別に、プログラミングができるとか、人の話を聞くことができるとか、本当に何でもいいと思うんですよ。でも、何も磨いていないから石のままで光っていなくて、なんだか自信が持てない。それでWillが見えないという方がやっぱり多い気がしています。
自信がないからWillがない方、けっこう多いんですよね。なので、まずは自信を持つことが大事な気がしています。それがあった上で悩まない状態になって、やっとWillが出てくることが多いんですよ。

私が会社のメンバーと話す時によく言っているのは、自信がないからわからないというのは、逃げでしかないということ。まずは自信を持てるようにならなきゃいけないんですよ。それが出てきたら、今見えている目の前のWillだけじゃなくって、自分が想像できないようなWillを掲げられるようになると思うんです。
例えば「ちょっといいものを食べたいな」とか、あるじゃないですか。「年収を50万円上げたいな」とか。それって、Willというよりも目標なんですよ。
今の自分が想像できないWillを目指すことって、結局はCANがあったりとか、Mustを愚直にやるから見えてくると思っているんですよね。
なので、それを掲げていけるように、ちゃんと実績を積みに行こうねって話をよくするんです。そこの作業を怠ってWillだけ持っていても進まないというのは、持論としてありますかね。
どんな仕事でもやれるとしたら?
——なるほど。じゃあ、Willがなくて悩んでいる状態も自分を掘り下げるきっかけになるかもしれないですね。
金井:そう思いますね。Willがないとそういうふうに思えない。思うものがないのか、思えるほどの積み上げがないのかは(わからないですが)、けっこうある気がします。
——Willがない状態からCanを身に付けたり、Mustを積み上げたとして、そこからWillを見つけるためにはどんな考え方が必要でしょうか?
金井:例えば、「どんな仕事でもやれるとしたら何がしたいですか」って聞かれた時に、なんて言いますか。
——え、私がですか?
金井:そうです、そうです。
——なんだろう。妄想でいいなら、映画監督になって高倉健さんの主演作を撮りたいとか。もう亡くなってしまいましたけど。
金井:すてき! それっていつから思っていました?
——小学生の時、学校で将来の夢を聞かれた時に映画監督と答えた気がします。
金井:へぇ~。何がきっかけでそう思いました?
——えーっと。よく父親と一緒に古い映画を見ていたから映画が好きになって、おもしろかった映画を友だちに紹介するのが楽しくて……って、なんだか「POSIWILL CAREER」の無料体験みたいな……。
(一同笑)
やりたいことがないのか、考えていないだけなのか
金井:みたいな感じで(笑)。自分が好きだって思うこととか興味があることとか、「お金が稼げるかどうか」とかを取り払って見えてくる感情って、けっこう純真無垢な思いなんですよ。ライフワークとライスワークに分けるのであれば、私は本当の意味でWillに近いのはライフワークのほうだと思うんです。

それが統合していれば一番いいんですけど、そうじゃない人もいますよね。それをどう実現していくかと考えると、結局は(先ほどの話に戻って)できることを増やすことで、選択肢が増えていくってイメージがありますね。
——Willの見つけ方のヒントを紹介していただきましたが、「Willがないことに悩んでしまう方」に共通する思考のパターンってあるんでしょうか。金井さんが相談を受ける中での所感をうかがえればと思います。
金井:陥りやすい思考パターンで言うと、「Willを掲げなきゃいけない」という思考が強すぎる人はいる気がしますね。
私が2019年に書いた「やりたいことも目標もないという人の為のキャリア設計について」っていうタイトルのnoteの記事があるんですよ。これが当時10万PVぐらい読まれたんですけど、内容がどうこうというより、タイトルがハマったんだと思うんです。やりたいことも目標もない人ってすごく多いんですよ。
でもそれって、ただ考えていないだけだと思うんですよね。社会に出てなんとなく5年、10年と過ごしてきちゃうと、どうしたいか(という気持ち)がなくなってしまう人が多いんだと思います。
人生でどれだけ自己決定してきたか
金井:あとは、日本の教育(にも一因があるよう)な気がしていて。親がちゃんとしすぎているご家庭って「この学校に行きなさい」とか「この会社に入りなさい」とか、あるじゃないですか。有名な進学校に入って、国公立の大学に行って、銀行員か公務員か学校の先生になって、とか。それがスタンダードだと自分で考える機会がないので、わからないことがけっこう多いんじゃないかなと思いますね。
——じゃあ、キャリア選択というところで初めて自分で考えなくてはいけなくなって「やりたいことなんて何もないじゃないか」みたいな。
金井:親に強制させられたものって自分の思いが湧きにくいと思うんですよ。それは社会に出ても同じで、自分が本当にやりたいと思って選んだものとか、自分が興味があるものとか、自分ができそうだなと思ったものを選んでいない中で「Willを抱け」とか「自分の思いが」っていう話をしても、難しいですよね。
——今のお話って、完全にWillと逆のことですもんね。
金井:そうです。ひたすら幼少期から言われてきたMUSTをやってきたわけじゃないですか。そうやってがんばっていい子でいたのに、社会に出たら「お前が考えろ」って言われてしまって、「いや、わかりません」みたいな方が多い印象がありますね。