【3行要約】・WILLの重要性は認識されていますが、「WILLがない」「わからない」という部下との向き合い方に悩む上司は少なくありません。
・『
WILL「キャリアの羅針盤」の見つけ方』著者の大川陽介氏は、上司自身の自己開示や「越境」体験の提供が部下のWILL発掘に効果的だと指摘します。
・同氏は「言語化アプローチ」と「経験アプローチ」の2つの方法を提案し、WILLをCANでつなぐことで仕事の意味づけを変える重要性を説いています。
前回の記事はこちら WILLがない部下との向き合い方
ーーここまでで、上司が部下のWILLを把握しておくことが大事だとわかりました。一方で、部下が「WILLがない」あるいは「WILLがわからない」という場合、どうやって向き合っていけばいいのでしょうか。
大川陽介(以下、大川):まずNGな例を挙げると、「お前は何をしたいんだ?」と、ひたすら問い詰めるスタイルですね。
実際、僕は富士ゼロックスにいた時代に「お前は何をしたいの?」とひたすら聞かれて、当時は「WILLハラスメント」なんて言葉はなかったですけど、「はあ、しんどいな」と思っていました。なので、問い方を変えましょうというのが、僕がやっているアプローチです。
ーーどんなふうに聞いたらいいのでしょうか?
大川:聞きたい質問は1つ、「何をしたいの?」なんですけど、1万回聞いたって、それだけでは出てこない。ただ部下にストレスがかかるだけなんですよ。とはいえ、パッと自分で気づいて答えられる人もいます。それができるのは、「何をしたいの?」と言われて、「よくわからないけど、やってみますわ」と動ける人だけなんですね。
やってみて、「これめっちゃ楽しいです。僕、これ、やりたかったかもしれないです」となったら、「じゃあ次は、これをやってみる?」と新しいことにチャレンジさせてもらって、だんだん自分のWILLのかたちができてくる。
WILLを言語化していくアプローチは、本質的にはさっきの「WILL-ACTION Cycle」なんですけど。僕が書籍などで書いたように、フレームワークを使って自分でやるのが、最短で再現性があると思っています。
「個人のWILL」が「組織のWILL」に同化してしまいがち
ーー大川さんも富士ゼロックス時代にWILLがなかったとのことですが、どうやってWILLを見つけられたんですか?
大川:僕の時代はこのフレームワークがなかったので、ひたすら動いていました。僕は昔、「何をしたいのか?」と聞かれた時に、「知の創造と活用をすすめる環境の構築」という、富士ゼロックスのビジョンを語っていたんですよ。
これもよくある話なんですけど、「個人のWILLが、組織のWILLに同化してしまいがち」なんです。僕は自称良い社員だったので、会社のビジョン浸透の教育を真摯に受けていたし、会社のことをすごく尊敬していたので、「僕も知の創造をしたい」と社内外で語っていました。
でも、「じゃあ今晩会社が潰れたとして、明日の朝からも、元気に知の創造を始めるのか?」と言われた時に、「いや、やらないかもな」と思っちゃったんですよね。そこまではしょうがないなと思うんですけど、僕がショックだったのは、「じゃあ何をしたいの?」と言われた時に、何も思いつかなかったことなんです。
つまり僕は、「自分の意志で動いていた」「自分がやりたいことは明確だった」と思い込んでいただけで、会社の格好いいWILLにタダ乗りしていたんですよ。

ーー組織の目標が自分のやりたいことだと思い込んでいたんですね。
大川:そう。その状態は別に悪いことじゃないんです。気持ち良く働けるし、パフォーマンスも出るし、すごく良い。ただ、「本当に自分のやりたいことをやっているか?」ということに気づいちゃったわけです。そうすると、モヤモヤが止まらなくなる。「あれ? 俺、本当は何をしたかったんだっけ?」と。なので、僕はそこから動き始めました。
WILLを発掘する2つのアプローチ
大川:僕自身は30代ぐらいの時に、「ONE JAPAN」という有志活動をやっていました。これは「有志」という言い方をしていますが、ぶっちゃけそんなに全員が明確なWILLがある場ではありませんでした。
ただ、「なんかおもしろそうだな」とか、「今の現状がモヤモヤするから何かない?」みたいな感じで出てきた人たちが、ちょっとした好奇心や、おもしろいネタに食いついて、「一緒に何かやろうぜ」というかたちで、いろんなプロジェクトがたくさん乱立していたんです。
僕も何をしたいかわからないから、ちょっとでも「おもしろそうだな」と思ったら全部やっていく。すると「これはおもしろいな」「これはおもしろくないな」「この人は好き」「あの人は嫌い」みたいな、WILLの輪郭が見えてくる。
というかたちで、僕は行動や経験から言語化をしたので、時間がかかりました。きっと5年とかかかっているんじゃないですかね。
ーー大川さんは試行錯誤するかたちでWILLを見つけていったんですね。一方で、例えばWILLがない部下に対して「WILLを持ってほしい」と思った時に、どういうふうにアプローチしたらいいんでしょうか。
大川:アプローチは二通りですよね。WILL-ACTIONのサイクルを回すことが良い状態だと思っているので、WILLからいくか、Actionからいくかということです。WILLからいく時には、さっきの問いではなくて、分解します。結局、「どういう生き方をしてきたんだ?」「どういう経験・原体験があるんだ?」「何が好きなんだ? なんで好きなんだ?」「何をしたいの?」「週末にやりたいことは何?」とか。

いろんな要素を単語レベルで発掘してあげた上で、それをちょっとずつ整理していく。「WILLの構造化」みたいな言い方をしますが、ビジョン・ミッション・バリューという箱に少しずつ格納しながら、文章にして、構造をつなげてストーリーにする。手順を追いながらちゃんと対話をしてあげるのが1つのやり方です。書籍の中に書いてあるのはこのアプローチです。
上司が「小さなアクション」を提案してあげる
大川:もう1個は、Actionからです。僕が動いたように、経験で気づくことがたくさんあるわけです。今で言うと、「越境」という言葉がすごく大事になってきているのかなと思います。
いつも自分がやっていることじゃないことを体験してみて、どう思ったか。シンプルに「それ好き? 嫌い?」「テンション上がった? 下がった?」ということでもぜんぜんかまわないんですけど、まず体験をさせてみるのがすごく大事です。これは転職という話ではなくて、ふだんと違う仕事をやるだけでも、それは越境なんですよ。
ーー転職まではいかなくても、例えば部署やチームを異動したりとかでしょうか。
大川:もっと小さいことでもいいです。上司が「とりあえずこの本を読んでみ」と言うだけでもいい。新しい経験をした時に、必ず結果と感情が出てきます。「うまくいった」「いかなかった」という結果と、「楽しかった」「ワクワクしました」「ピンと来ませんでした」という感情です。
実は感情というのはすごくWILLに紐付いていて、自分の価値観・WILLに、新しい経験がぶつかって出た反応が感情なんですよ。「こういうものが好き」と思っていて、Aというものが来たらうれしいし、Cが来た時には「ちょっと違うな」と思うわけですよね。
なので、感情はヒントなんです。何か新しい経験をした時に生まれた感情に意識を向けて、「なんで楽しいと思ったのか?」「なんでピンと来なかったのかな?」というのを流さず、問いを立てて深めていくことで、自分の価値観に近づくことができます。
そもそも上司の「WILL」を伝えているか?
ーー1on1の場で部下とそういった話をすることも効果がありそうですね。
大川:そうですね。今、1on1という機会はすごく増えていて、せっかく対等に語れる場なので、うまく使ってほしいですね。その時に大事なのは、一方的に聞きまくるのはハラスメントのリスクが出るということです。
ーーさっきおっしゃっていた「何をしたいの?」と聞きまくるということですね。
大川:そう。すると部下は「あなたのWILLを聞いたことがないんだけど」という感情になるわけです。なので、大事なのは対等に、お互いに語り合う状態を作ることです。実は僕がやっているワークでは、最初に「人生曲線」という、自分がどう生きてきたかを語り合うところから入ります。
これは究極の自己開示です。「こういう流れの中で、今の俺は存在しているんだ」という、実は親や親友ですら知らない話を、目の前の相手に語っているわけです。
ーーまず上司が自己開示するのが大事なんですね。
大川:そうですね。よく「上司は傾聴しろ」と言いますが、あれもしんどいですよね。上司がしゃべっちゃいけないというのもわかりますが、WILLを言語化していく際には、やはりお互い1対1ぐらいの感覚で話してほしい。
「自分はこういう経験があって、こういうことを思ったんだ」とか、本人の価値観や源泉に関わる話を先に開示しないと、急に「お前だけ話せ」というのは無理なわけですよ。
ーー確かに。
大川:先に「ごめん、自己紹介が足らなかったよね。実は僕は今、こんな仕事をしているんだけど、もともとこういうことが好きで、こういうことを大事にしたいんだよね」と価値観を先に出す。その中で、「君はどう思う? どんな仕事をしてきたの?」と経験を何気なく問いながら、「SEって大変だったね。どういう時につらかったの?」と引き出していく。
問いに関しても、「なんで?」と「それで?」「本当?」という3つの質問を問い分けたりします。1問1答だと「何をしていたの?」「SEです」で終わっちゃうんですよ。
でも、「SEをやっていました」「具体的には何をしていたの?」「どういう時にその仕事をやっていておもしろかった?」「なんでSE職になったの?」というように聞いていくと、その人の源泉や価値観に到達できるわけです。そうやって、ちょっとずつヒントを探っていく感じが良いと思います。