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伊達洋駆氏インタビュー(全3記事)

なぜ同僚を助ける人ほど疲弊するのか 職場に助け合いの循環を生み出すコミュニケーションのヒント

【3行要約】
・組織では上司と部下の関係だけでなく、社員同士の横のつながりが成功の鍵となりますが、多くの職場ではその構築に課題を抱えています。
・伊達洋駆氏は「人間は進化的にネガティブな出来事に反応しやすい」ため、ポジティブな行動への感謝が不足していると警鐘を鳴らします。
・効果的な職場関係構築には、「助けを求める勇気」と「具体的な感謝の表明」という二つの行動を日常に取り入れることが重要です。

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職場の“横のつながり”を活かすキーワード

——仕事は1人ではできないものである以上、肩書きや役職にかかわらず、周りを動かせるようになることが重要だとうかがいました。職場でのメンバー同士の横の連携を高めるために役立つ考え方やキーワードはありますか?

伊達洋駆氏(以下、伊達):例えば「組織市民行動」はかなりいいですよね。組織市民行動とは、「自発的に行われる、組織にとって有益な役割外行動」を広く指します。その中でも、「困っている人がいたら助ける」「困っていないかを聞く」といった援助行動は非常に重要になってきますね。

やはり人間関係って、助けてもらうと助けてもらいやすくなるんですよね。「互恵性」などのドライな言い方にするとちょっと違うんですが……。

——「お互いさま」みたいなことでしょうか?

伊達:そうですね。交換関係というか、ギブアンドテイクよりはもう少し情緒的な感じなんです。

そうした「やってもらったから、やるよ」みたいな感じのことはあるので、自分が資源を動員していく時には、他者に対してどれだけ提供できているのかが重要になってくるんですよ。つまりギブをどれだけしてきているのか、それによる信頼をどれだけ蓄積できているのかが重要になってきます。

人を動かしたり、資源を動員したりするためには相手にとってプラスになるような行動を積み重ねているのかが問われます。その意味では組織市民行動は、非常に重要になってくるんじゃないのかなというのが1つ。

相手を優先することも影響力になる

伊達:もう1つが、例えばサーバントリーダーシップも参考になると思います。

リーダーシップというと、通常は変革型リーダーシップのように、ビジョンを何か掲げて、それをみんなに魅力的に思ってもらって、「がんばりたい」と思わせるようなものがイメージされやすいんです。一方で、サーバントリーダーシップは、相手に奉仕していくタイプの行動なんです。

例えば、自分を優先せずに相手の話をきちんと聞いたり、時には自分を犠牲にしてでも何かを提供していったりする。こういったことが結局、影響力を行使することにつながり、集団として非常にうまくいきやすくなるという話です。こういうところが非常に逆説的で興味深いところかなと思います。

——リーダーシップという言葉は付いていますけど、奉仕するという行動は、一般のメンバーの方でも周りに対して発揮できることでもありますよね。

伊達:はい、できます。

善意が当たり前になってしまう「ジョブ・クリープ」

——一方で、中には職場の同僚に対してあまり協力的でない方もいると思います。そういった状況には、どうやって対処すればいいでしょうか?

伊達:感謝は非常に重要です。例えば何かをやってもらったり、自分にとってプラスになるようなことがあったりした場合に、相手に対して「ありがとう」と感謝をきちんと述べる。

さすがに「ありがとう」は言っているとは思うんです。でも仕事になると、ジョブ・クリープと言って、最初は善意でやっていたり、自発的にやっていたりした行動が、なぜかその人の仕事として当たり前になっちゃうことってよくあると思うんですよ。

——「いつの間にか私の仕事になっている……」みたいな感じ、ありますよね(笑)。

伊達:そういうことはいろいろなところに張り巡らされていると思います。そうなると何が起きるかといったら、感謝されないんですよ。「ありがとう」と言ってもらえないんですよね。つまり、貢献がまったく承認されていないという危機的な状態になっているわけです。

簡単だけど、意外と行われていない2つの行動

——協力を得るには、日頃から感謝を疎かにしないことが重要なんですね。人を動かす際の上手な伝え方はありますか?

伊達:より具体的に伝えるほうがいいですね。「こういうところで助かりました」「こういう部分で自分の仕事の役に立ちました」とか。そういった部分を本人に伝えてあげると、それだけでもうれしいわけです。

そのようにして信頼関係や人間関係は緩やかに形成されていくものなんです。助けを求めることと感謝をするということ。これはそんなに難しくないですし、特別なスキルが必要なものでもないんですが、案外実行されていません。そういったところからまず始めてみるのは1つあるのかなと思いますね。

——意外と行われていないというのは、御社のコンサルティングでも実感があるものなんでしょうか?

伊達:実感もありますし、理論的にも説明できるんですよね。先ほどの話にも少しつながってくるんですけど、例えば人はなぜ助けを求めないかというと、助けを求めることは「自分ができない」ことを他者に示すことにもなるんですよ。なので、ちょっと心理的なハードルがあるんです。

ところが、人間の心理には「助けを求められたら助ける」という強力で普遍的な原理があるので、相手はそんなに気にしていないんです。

「できないんだ」とはあまり思いません。「え、どうしたの?」みたいな感じで、半ば自動的に体が動くというか、普通に助けるものなので。ただ(助けを求める側に)心理的なハードルがある。これはもったいないですよね。

なぜ、同僚に助けを求められないのか

伊達:こうした心理になる理論はいくつかあるのですが、1つは評価懸念と言います。

「自分が無能だと思われるんじゃないか?」ということ、要するに自分に対する評価を懸念しているわけですよね。怖いわけです。心配するわけですね。人間にはやはり自分のことを良く思ってもらいたいという心理があるので、自分の評価が下がるかもしれないことに対しては、一定の敏感さがあるんですよ。

そういった評価懸念によって、サポートや助けを求めることがなかなかできないというのがありますね。

もう1つ、先ほどの「意外に感謝が少ない」ということなんですが、特に具体的な感謝ってかなり少ないんですよ。感謝はポジティブフィードバックの一種なんですよね。ある種、相手のことを褒める1つのパターンです。

ところが人間は、それこそ脳の認知的なメカニズムとしてネガティブな出来事に反応するんですよ。そして記憶にも刻まれやすいんですね。

——確かに。そうですよね。

伊達:例えばですけど、誰かが昨日うまくいかなかったことと、うまくいったことがあったとします。他者が失敗したケースと成功したケースのどちらをよく覚えているのかというと、失敗のほうを覚えているんですよ。

人間の本能によるバイアスが足かせに

伊達:これはネガティビティ・バイアスと呼ばれています。例えば、人間がアマゾンみたいな自然環境の中で生き残っていこうとすると、「なんだか、あそこに天敵がいそう」といったことをパッと察知する必要がある。なので、ネガティビティ・バイアスというのはある種、進化の過程で獲得してきた1つの性質でもあるわけですね。

これは裏を返すと、「他者についてのポジティブなことを案外覚えていない」ということなんですよ。

覚えていたとしても、例えば誰かから叱責された時と比べると、明らかに具体性が落ちるんです。ということは、メモを取ったりしておかないと忘れちゃうんですよね。なので具体的な感謝やポジティブフィードバックがされにくい。

けれども、これらは心理的な傾向として行われにくいだけであって、行動としては両方とも決して難しいことじゃないんですよ。

——特に昨今は、中小企業でもSlackなどのチャットツールを導入しているところが多いので、具体的なフィードバックを可視化しやすい状況になっているのかなと思います。

伊達:そうなんです。ちょっと意識すればできるし、デメリットも特にない。その意味では最初にやっていく行動としてはすごくいいんじゃないのかなと思います。

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