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伊達洋駆氏インタビュー(全3記事)

「管理職の罰ゲーム化」時代に部下がすべきこと 仕事を上手に進める“職場の横のつながり”の活かし方

【3行要約】
・組織では上司と部下の関係だけでなく、社員同士の横のつながりが成功の鍵となりますが、多くの職場ではその構築に課題を抱えています。
・ビジネスリサーチラボ代表の伊達氏は、プレイングマネージャーが9割以上の現状ではマネジメント頼みの組織運営に限界があると指摘しています。
・職場の心理的安全性を高め、互いの「資源」を活用し合える関係性を構築することが、立場を問わず全ての社員に求められています。

社員同士の“横のつながり”を強くするには

——今、現場では「上司にこれ以上頼れないから、メンバー同士で助け合ってください」という流れが強くなっています。一方で、社員同士の“横のつながり”が自然には生まれず、苦労している企業も多いのが実情です。

そこで今回は、ビジネスリサーチラボ代表・伊達洋駆氏に、社員同士のより良い関係づくりについてお聞きします。まずは御社の事業の概要を教えてください。

伊達洋駆氏(以下、伊達):私たちは主に人事領域において、データ分析の技術と研究知見を活かしながらサービスを提供しています。例えば企業の人事の方々に向けて、従業員の意識調査の設計や分析を提供しています。

例えば、近年はタレントマネジメントシステムなどのシステムを導入している企業も増えているので、(社員に関する)データがたくさん溜まっています。そういったデータを分析して人事課題を特定したり、対策を検討する際の示唆を得たりしています。

私自身は、もともとは大学院で「組織行動論」と呼ばれる、組織における人の心理や行動について探究する領域の研究をしていました。大学院在籍中にビジネスリサーチラボを立ち上げて、それ以降はこの会社の経営並びにそれに付随する活動を行っています。

リーダーシップだけでは組織は動かない

——そうした人や組織に関する膨大なデータを分析・研究されている中で、「社員同士の横の関係性」に対して感じる変化はありますか?

伊達:例えば、もともと非常に分厚く研究が行われてきたトピックの1つに、リーダーシップ研究があります。

古くからある軍事的なリーダーシップ論まで含めると、この領域にはものすごく長い歴史があるんです。興味深いのですが、1980年代〜1990年代ぐらいに入ってくると「フォロワーの役割が重要なんじゃないのか?」ということが言われ始めるようになったんですよ。

「リーダーシップとは上から下へのトップダウンだけではない」という説への関心が広がってきたのが、1つの動向としてあります。

もう1つ、これは実務的にも非常に有名になった、エイミー・エドモンドソンの心理的安全性というコンセプトがあります。(用語としては)おそらく1960年代〜1970年代ぐらいから使われてはいましたが、チームにおける横のつながりという文脈に明確に位置付け直されたのは1990年代ぐらいでした。

それまでもチームの横の関係性についてまったく検討していなかったわけではないんですが、十分にはなされてこなかった。そういった中で、心理的安全性という切り口の研究が進んでいるのは、近年の大きな変化ではないかなと思います。ざっと、そんな概況ですかね。

これまでの研究成果が現場で活かされつつある

——リーダーシップの見直しと、心理的安全性に関連して横のつながりが注目されてきているということですね。

伊達:今申し上げたような研究上の変化は、10年ないしは20年ぐらい経ってから実務的に翻訳されるケースが多いんですよね。

例えば心理的安全性を取っても、エドモンドソン本人は1990年代から熱心に研究をされていたんです。一方で実務的には、例えばGoogleの「プロジェクト・アリストテレス」が開始されたのは2012年で、なおかつ日本にそれが明確に伝わってきたのはもう少し後だと思うんですね。そのように少しラグがあるんですよ。

なので、ここ10年ぐらいのスパンで考えると、1990年代、2000年代ぐらいに仕込まれていた研究の知見が、いよいよ実務の領域で花開いてきていると言えます。

つまり先ほど申し上げたように、(リーダーシップ研究においては、)強いリーダーだけではなくてフォロワーが重要だということであったり、時には自分の弱さを見せることも重要だということ、あるいは心理的安全性が求められているといったことが言われるようになってきて、(実務的な領域においても)伝わってきた感じですね。

——なるほど。ということは今後、「フォロワー同士のつながりが重要だ」というトレンドになっていくんでしょうか?

伊達:そうですね。現在のような動向は続いていくのではないかと思います。ただ一方で、「やはりリーダーシップも重要だよね」ということがあらためて言われるようにもなってきています。

例えば危機や変革の時代になってくると、リーダーシップは非常に注目されやすくなります。この先10年間で、例えば経済的な変動や難しい状況、組織が変わらなければならない時が来たら、「心理的安全性などと言っている場合ではない」といった形で、人々の関心がもう一度リーダーシップに向かうかもしれません。

マネジメント施策だけでは組織が回らなくなっている

——時代の変化と共に揺れ動くものなんですね。伊達さんがふだんお仕事をされていて、クライアントからの相談や、会話の中で最近増えているトピックは何かありますか?

伊達:これはやや間接的なのですが、近年増えてきているなと思うのが「上司が実行する対策を増やし過ぎないでほしい」と求められるケースです。

というのも「上司が部下に対してきちんとサポートをしていく」という対策を実行していこうとすると、上司が忙しくなり過ぎるんです。現状でもプレイングマネージャーが9割以上の状態だと言われているので、(マネージャーは)非常に忙しいわけです。

なので、「マネージャー以外(が実行できる施策)を探求していけないだろうか」という声が増えているんですね。

その結果、必然的に組織ができる対策や、職場のメンバー間で行える対策に注目が集まるようになってきています。このような動向が一番よく見られるところかなと思います。

——確かに「管理職の罰ゲーム化」と言われるような状況が続いていったら、メンバー同士を活かす施策が絶対に必要になるなと、すごく腑に落ちました。

伊達:例えば上司が部下をサポートするという行動が有効だとわかったとします。

「上司がサポート行動をするようにしてください」という対策と同時に、今度は「部下側から『助けてください』とサポートを求めるようにしてください」という対策を取っていかないとうまく回っていきません。

そういう意味では、「マネジメントに対する施策だけでは組織自体が回らなくなってきている」というのは大きな現場の変化かなと思います。

なぜ心理的安全性が重要なのか

——メンバー同士の横の連携が機能しないケースには、どういった要因があるんでしょうか?

伊達:いくつかあるんですが、1つは心理的安全性ですよね。

心理的安全性とは「本音で思っていることや、失敗したことをチームで共有しても大丈夫」と思えるような状態なんですね。これがなぜ重要なのかというと、情報共有が行われるからです。

失敗に関する情報も、成功に関する情報も共有されるので、そのような職場はノウハウが行き交い、うまく機能します。

ところが、これは簡単ではありません。失敗に関する行動や結果を共有する時には、「この人は失敗したんだ」「この人には能力がないのでは?」と思われてしまうリスクもあります。そのリスクを過度に意識してしまうと、沈黙を選ぶようになってしまう。

そうすると情報が流通しなくなるので、チームとしては機能しなくなっていくというのが大きなところではないかと思います。その意味で心理的安全性が高い状態は、チームがうまく機能するための1つの要因ではないかなと思います。

仕事を上手に進める上で重要な「資源の動員」

——「メンバー同士で支え合うよりも自分の地位を守ったほうがいい」と考える方もいると思います。職場の横のつながりを活かすとどんなメリットがあるのか、あらためて挙げていただくとすると、どんな点になるんでしょうか?

伊達:人を動かすもの、いわゆる権力ですよね。つまり「権力を行使する」といった意味で、「パワー」という考え方があります。

例えば立場に伴うパワー。マネジメントはまさにそうだと思うんですが、上司が部下に対して持っているパワーは、立場によるものなんですよね。

ところがパワーにはいろいろな種類があるんですよ。例えば、専門的な知識を持っている人は一目置かれますよね。そうするとみんな、「その人の言うことを聞こうかな」という気持ちになって、他者を動かすことができるわけです。

仕事は1人ではできませんから、他の人に動いてもらうことが非常に重要です。ところが立場によるパワーを持っていない場合、人に動いてもらうためにはそれ以外のパワーを持つ必要があるんですよね。

パターンの1つとして考えられるのが、人格です。例えば思いやりを持って助けてくれるとか、優しいとか、人望があるとか。そういう人は周囲を動かせますよね。

——「あの人は憎めないんだよなぁ」みたいになりますもんね。

伊達:そうなってくると他者を動かすことができる。

それが答えにつながっていくと思うんですが、仕事を進めていく上で重要になってくることは「資源の動員」なんですよ。多くがこの言葉だけでだいたい言えると思うんです。

例えば自分が仕事で何か新しいことをやりたい場合には、お金や動いてくれる人がいないとできませんよね。

わからないことがあった時に人に聞く場合にも、資源を動員しないと駄目なんです。つまり、自分がわからない時に教えてくれる人が必要になってくるんですよ。

自分は何を使って組織の「資源」を動かせるのか

——なるほど。その方の時間や知識が「資源」だと。

伊達:そうです。資源を動員しないと仕事ってそもそも前に進まないんです。資源を動員する最も早い方法は、先ほどのような立場によるパワーなんですよ。

例えばパワーって言われると、今のような「上から下」のような感じでイメージしがちなんですが、新人もパワーを持っています。「新人は助けなきゃ駄目」みたいな価値観がありますよね。新人と位置付けていること自体が1つの役割になっているわけですよね。

なので、新人の方は非常に資源を動員しやすい立場を得ています。ところが10年目の人に対して同じモードで比べると「え、なんでわからないの?」となってしまうわけですね。

いろいろなパワーを持つことができれば資源を動かせるので、仕事が前に進むし、やりやすくなるという意味では、若手であろうが何歳であろうがどんな立場であろうが必要となってくると言えますね。

もう少し掘り下げて説明すると、さらに、利害が合わない人もいるんですよ。

例えば「自分は今日この仕事をやりたい」と思っている人に、「ちょっと今日はこれをやってもらえませんか?」と言う必要がある。これは利害が食い違っているわけですね。そういう状況においても資源を動員していかないといけないので、その意味ではすごく難度が高いんです。

でも、そういうことをやっていかないと仕事が前に進まないという意味では、横のつながりをはじめとした影響力を行使して人を動かしていくこと。これは働く上で年齢を問わず、むしろ公式的な権限を持っていない人ほど重要になってくると言えますね。

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