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中川功一氏インタビュー(全3記事)

「好きにやってこい」は戦略ではない チームが動く「任せ方」のコツ [1/2]

【3行要約】
・「主体性」や「裁量権」が現場では「放置」と同義になっているケースが少なくなく、マネジメントの本質は明確なディレクションを与えることにあります。
・中川氏は、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめる」という80年以上前から提唱されている育成手法が、現代日本の職場では十分に定着していないと指摘します。
・リーダーには「認める」と「褒める」の適切な使い分けが求められ、部下の成長段階を正確に把握した上で、信頼関係を築くことが重要です。

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“任せる”を成立させるのは「明確なディレクション」

――マネージャーや管理職が、メンバーを信じて任せるのと、放置を分けるために意識すべきことは何ですか。

中川功一氏(以下、中川):「主体性」や「裁量権」「エンパワーメント」などの言葉が多用される時代ですが、それらが現場では「放置」と同義になっているケースも少なくありません。たとえ相手が超一流のプロフェッショナルであっても、何の戦略も示さずに「好きにやってこい」と送り出すだけでは、マネジメントとは呼べない。むしろ責任放棄に近い。相手を一人前、一流だと認めるならば、やるべきことはきちんと指示を出すことです。

働きやすさとは、ディレクションがはっきりしていてやることが明確な状況でもあるはずです。現場がプロフェッショナルで一流なら管理不要、というのは幻想です。マネージャーの仕事は、基本的に明確なディレクションを与えることだと思います。

抱え込むプレイング化と“説明不足”が任せる力を奪う

――メンバーに任せたいけれど、うまく任せられないリーダーもいます。陥りやすい思考や癖は何でしょう。

中川:1つには、プレイングマネージャーになってしまうこと。自分がプレイヤーとして全力で動きつつ、マネジメントも担おうとして両方が中途半端になる。大事なのは、「自分ががんばってなんとかしよう」と抱え込まないことです。むしろチームに委ね、仕組みに助けてもらう視点が必要です。

(スライドを示して)「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」。これは山本五十六が謳った言葉として知られますが、実はアメリカで確立されていた教育メソッドを日本に輸入するために持ち帰ったものです。



1910年代にはチャールズ・R・アレンが教育の基本を「Show」「Tell」「Do」「Check」と提唱しました。まさに「やってみせ(Show)、言って聞かせて(Tell)、させてみせ(Do)、ほめて(=Check)」というステップです。山本五十六は教科書的な内容を日本に持ち帰ったにすぎません。

ここでのポイントは2番目の「説明する」です。例えば現場で「最後に手首をひねってこう締める」といった作業があるとして、「なぜですか?」と聞かれた時に「いいからやれ」ではいけない。「最後にここでしっかり締めることでお客さまの手元で外れなくなる」「安全のために左手をここに添える」「目線をここに置くのはこういう事態を防ぐため」など、理由を言語化して伝える必要がある。動作の一つひとつに意味があるからです。



例えば「ネジを締める」という1つの動作の中にも理論や理屈が存在します。こうした理屈は単に現場経験を重ねるだけでは身につきません。理屈を理解していれば、「この状況ではこうする」と応用が利き、実践で成果が出る。逆に理屈がわからないと、表面的な手順をなぞるだけで対応の幅が狭くなる。コルブの経験学習モデルに通じますが、重要なのは経験をきちんと言語化し、意味づけまで引き上げることです。

上司が自分ひとりでやり切ろうとせず、あえて“楽をして”仲間に最大限頼るためには、人を育てることが欠かせません。しかし育成は簡単ではない。現場経験だけに頼り理屈として理解していないと、「ここをこう締めるんだよ」と伝えても「なぜですか?」「力が入りやすいから」と曖昧な説明に終始しがちです。

これでは行動の背景にある原理が伝わらず、「やってみて覚える」を超えた学びになりにくい。現場経験には限界があり、言語化・概念化する力こそ育成に必要です。

「安全のためにこうする」「客先の手元で不具合が起こらないためにこうする」「製造品質が安定するからこうする」。一つひとつのことが理屈で落ちるためには、単に裁量権で任せきりではいけない。業務はそれっぽく真似できるようになっても、人が育ったとは言えません。現象の背後にある理論・理屈を教えてこそ、業務はしっかり回るようになります。

放置を避けるには、対象者をしっかり育成することが不可欠で、「育てる」ことにマネージャーは時間とリソースを割くべきです。結果として、自分に余力が生まれると同時に、仲間たちの業務も回り始める。だからこそ、単なる放置は機能しないし、「人に任せるのが苦手」という人の壁もここにあります。

背景には、人材育成や職務設計の基本思想があります。アメリカでは1世紀前から「部下をどう育て任せるか」という理論が確立している一方、日本の職場ではまだ十分に定着していない現実がある。つまり、「任せられない」のではなく、「任せ方を知らない」「育て方の型を学んでいない」側面が大きいのです。山本五十六は、アメリカで人の育成がシステマチックに行われ、日本では鉄拳制裁が横行していた状況を見て「この戦争は勝てませんな」と語ったとも伝えられます。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてあげる」。この育成の基本とされる手法は、80年以上前に提唱され、今では脳科学の観点からも妥当性が認められています。にもかかわらず、現代の日本の職場でこれが本当に実践されているかというと、正直まだ危ういのではないかと感じます。

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