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中川功一氏インタビュー(全3記事)

良きリーダーシップは「常に上司であること」ではない 肩書きを超える“2つの力”

【3行要約】
・命令型マネジメントから信頼型マネジメントへの転換が求められる中、リーダーの「人柄」と「方向性」が重要視されています。
・中川功一氏は、現代では「何をやるか」より「どこへ向かうか」が問われ、リーダーシップとフォロワーシップは表裏一体だと指摘。
・真のリーダーは職位ではなく理解と納得の獲得を通じて、時には率先し時には支援する柔軟性が求められます。

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“任せる”土台はビジョンと人格

――命令するマネジメントではなく、メンバーを信じて任せるマネジメントが機能するために、最も重要な前提条件は何になりますか。

中川功一氏(以下、中川):例えばどういう会社で働くのかを決める時、あるいは私たちが上司という人に何を求めるのかといえば、意外と「人柄」ではないでしょうか。どっちを向いているのか、何をやろうとしているのか、どっちに進もうとしているのか。その人が目指している方向性を見て、その会社やその人についていこうとするのだと思います。今日では、それを「ビジョン」や「パーパス」と呼ぶことが多いかもしれません。

本当に大切なのは、「何をやるか」ではありません。例えば船でいえば、漕ぎ方やメンテナンスの仕方ももちろん重要です。でも、どの船に乗るかを決める時、一番の基準になるのは「その船がどこへ向かっているのか」ではないでしょうか。

今の時代、マネージャーやリーダーと呼ばれる人には、非常にシンプルな問いが突きつけられている気がします。「この人はどこへ向かおうとしているのか?」「その人は信頼できるか?」つまり、目指す方向と、その人自身の人格、この2つが強く求められているのです。


フォロワーシップは、リーダーシップの裏面

――フォロワーシップという考え方が今、再注目をされていますが、その背景をどのようにご覧になっていますか。

中川:リーダーシップとは何かというと、基本的には他人に対して影響を行使する過程です。それは別に人の上に立つということではなく、その人が言っていることが信じられる、信頼がおけるという人間的な信頼関係のもとに相手を動かす力のことを指します。

この時、リーダーシップとフォロワーシップは表裏一体で、平たく言えば感受性や共感性とも言えます。相手が今何を思い、何を大切にしているのかにきちんとメンションできるのがリーダーシップです。

そして、そういうリーダーシップが発揮できる人は、別の局面では自分が聞くに足る、信じるに足る言葉には耳を傾けられる。例えば松下幸之助さんはこれを「素直」という言葉で語りました。良きフォロワーである人は、基本的な人間関係を大切にし、相手の言うことを聞ける。今日フォロワーシップが大切になっているというのは、裏を返せばリーダーシップを取れる人が減っている兆候でもあるのかもしれません。

良きリーダーシップとは、常に上司であることではなく、ある局面ではリーダーシップを発揮し、別の局面では自分がフォロワーになれること。つまり、相手に対して良き影響力を行使するとともに、相手からの影響も受けられる柔軟さです。

“腹落ち”がないと動けない時代の壁

――具体的にどのような問題がフォロワーにあると考えられますか。

中川:例えば先ほど言った大谷翔平選手とロバーツ監督の関係は、一流の関係として望ましいでしょう。プレイヤーとして自分がなすべきことを知っているからこそ、フォア・ザ・チームで仕事ができる。だからこそ、超一流プレイヤーに対しても「さっきの走塁は何だ」と言える。それが良きリーダーとフォロワーの関係です。

一方で、職場では仕事にスッと入っていけない、モチベーションが上がらないという方もいます。「最近の若い者が」とは言いません。そんな統計はありません。ただ、仕事にスッと入っていけない背景には、今日が“腹落ち”で働く時代だという事実があります。科学的には私たちの脳は70億人いれば70億パターン違い、行動を引き起こす刺激も70億通りあると考えられます。

マズローの欲求階層説にすべてが当てはまるならマネジメントは簡単です。全員に自己実現を与えれば働くはずです。しかし、私たちは一度マズローの呪縛から自由になる必要がある。そもそも欲求段階説は提唱当初から疑義があり、マズローの「若者よ、こう生きてほしい」という願いの要素が強い。厳密なファクトとは言いがたい部分があるのです。

“与える動機”から“自ら決める納得”へ

――なるほど。マズローの欲求階層説を絶対視するのではなく、もっと個別性に目を向けるべきということですね。その上で、現場では「モチベーションが上がらない」という声も多く聞かれます。そうした時、リーダーはどんなふうに接するべきなのでしょうか?

中川:「何のために働くか」をうまく言葉にできていなくても、その人なりに意味を持って日々を過ごしているものです。だからこそ、「モチベーションが上がらない」「仕事の意味がわからない」と言われた時、どう声をかけるべきか難しく感じる。

よく「自律の時代」と言われます。他律ではなく自律。つまり「あれやれ、これやれ」というリーダーの時代ではなくなっているのは確かです。他律を否定した先にあるのが自律です。

私のファーストキャリアは駒沢大学で、駅伝の大八木弘明監督を尊敬しています。競技会の成績は決して悪くないものの、かつての圧倒的だった時代に比べ2010年代には少しパフォーマンスが落ちました。スポーツマネジメントにおける選手管理のあり方が変わり、今日で言う自発性や自律性が重視されるようになったからです。

一方、伸びたのは青山学院大学の原晋監督のマネジメント。「君はどういう選手になりたいのか」「今何をすべきで、どう練習するのか」と、基本的に選手の主体性・自律性に委ねていく。いかに尊敬する監督がいても、「この監督のために」というだけでは動けない。「何のために自分はここにいて、なぜこれをやっているのか」を自覚することが大切で、そのほうが脳の合点がいきやすいのです。



経営学ではこれをエンゲージメントとも呼びます。平たく言えば働くことへの納得感です。この点は科学的にも強く裏づけがあり、人は基本的に自分で決めたほうが動機が強くなります。

重要なのは失敗した時です。他責にせず、自分はベストを尽くしたがうまくいかなかったと捉えられれば、反省は自分に向きます。他責だと「運が悪かった」「あいつが悪かった」になってしまい、成長しない。自己決定理論の観点からも、自分で決めている状態は活動の強度を高め、モチベーションの基礎をつくります。



要素をさらに言えば3つです。第一に、自ら意思決定していること(信念に沿って行動できる)。第二に、自己肯定感(健全な自信)。第三に、仲間への信頼や良好な人間関係。これらがそろうと自己決定が成立します。

20世紀初頭であれば、「都会へ行け」「ここで9時から17時まで働け、給料は出る」という世界でした。「なぜ働くのか」は家族主義的経営のもとで上から与えられました。21世紀になると、「何のために働くか」を自分で合点しなければならない状況になりました。社会が発展し、食うためだけに働く時代を過ぎたからです。



この意識の変化はポップカルチャーにも表れています。20世紀は主人公の能力を超えた指導者が登場する物語が多い(『シンデレラ』など)。21世紀は違う。ドラえもんに頼らなかったエピソード、『アナと雪の女王』には英知の魔法使いも王子も出てこない。『ONE PIECE』も指導者不在で、主人公が自分で目的を持って動く。

この背後に「何を良い物語と感じるか」の変化がある。こうして私たちは、人から「やれ」と言われても動けない人になり、今日の自律の時代になった。だから言えるのは、「自律の時代になったのに、人に動機を求めるな」ということです。

自律の時代において重要なのは、「納得がいかないなら指示を待つのではなく、自ら問い直して動くこと」。にもかかわらず、現場で問題が起きているとすれば、「納得できなければ働けないのに、その納得を“与えてもらえる”ことを前提にしてしまっている」構図ではないでしょうか。つまり、「納得できる指示や環境を用意してもらえないと動けない」という状態に陥っているなら、やはり働きにくいのです。

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