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倉貫義人氏インタビュー(全3記事)

自律的に動く部下の育成には数年かかる “利益だけじゃない”人材育成に倉貫義人氏が取り組む理由

【3行要約】
・株式会社ソニックガーデンでは、上司を親方、若手を弟子とする独自の教育システム「徒弟制度」を導入しています。
・「部下に自律的に動いてほしい」と語る上司が多いものの、若手社員が自律的に働くための基礎スキルを身に付けるでには時間がかかるという課題が多くの組織で見過ごされています。
・株式会社ソニックガーデン代表の倉貫義人氏は、「任せるけど丸投げしない」というマネジメントのスタンスが重要だと指摘します。

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報連相の中で一番難しいのが相談

——社員が自律的に動けるためのスキルというお話で、セルフマネジメント、タスクばらしの次に報連相を挙げていただきました。

倉貫義人氏(以下、倉貫):報連相の次の段階が、雑談、相談を合わせた「ザッソウ」と言っているものです。『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」』っていう本も出しています。

報連相の中で一番難しいのが相談なんですね。報告・連絡は、Slackとかメールを投げておけばいいんですよ。それで報告・連絡は終わり。だけど相談は、相談した後、返してもらわないといけないし、返してもらったやつに対してさらに返さないと相談にならないので難しいんです。

できないうちは定型的な決めたことを相談するだけなのですが、だんだん難しい仕事が自分に回ってくると、決まった答えがあるものばかりじゃない。正解がわかっていない上に、上司もわかっていない時には、もう雑に相談するしかないんですね。

答えのない問いに向き合うスキル

倉貫:「お客さんが来た時には、最初にお水を出すんですか? 名刺を渡すんですか?」という疑問は上司に相談すればいいんです。それは上司もわかるから、ただ答えるだけですね。

だけど、「いや、どうやってお客さんとしゃべるのか?」みたいな、相談しても答えがないことに関しては、考え抜いてから相談しても、相談された側も、「うーん、わからん」ってなってしまうので、一緒に話しましょうということです。でも、雑に相談することにもスキルが必要なので、(親方と一緒に)やっていく。

そうすると、正解がない仕事には雑談・相談できるし、与えられた仕事は分解して、目的と見積もりを持てる。その中で振り返りも改善もできるようになっていく。

この3つができるようになって、ようやく自分で考えて動ける土台ができるよので「まず、そこがスタートラインなんじゃない?」って思いますけどね。

自律的に動くためのスキルを得るには時間がかかる

倉貫:だけど、けっこう難しいスキルなんですよ。このスキルなしで「自律的に動けるやり方ってありますかね?」みたいなのは、ちょっとがんばってから考えようっていう。

——まずは基本のスキルを身につける必要があると。

倉貫:そうですね、そこを身に付けるのには数年かかると思っています。だから、自律的に考えてもらうことが大事って言うけど、まずは仕事ができるようになってから考えませんかっていう気がします。

じゃあ、もう基礎ができている場合で、自律的に働いてもらうにはどうすればいいか。これが先ほどの、僕がマネージャーに対してやっているのと一緒で、仕事を任せることです。任せるんだけど、任せた人の味方をすることで、自律的に動いてくれるようになるだろうと思います。

責任は渡すが丸投げはしない

——任せた人の味方をするというのは、具体的にはどういったことなんでしょうか?

倉貫:例えば新規事業を立ち上げるとして、「じゃあ、半年後までによろしく」。半年経って、「できたの? できていないのか。お前、駄目だな」という環境では、自律的に動くのはムズいじゃないですか。

「新規事業を立ち上げましょう。責任者はあなたです。だけど、いつでも相談に乗りますよ」というスタンスを取るし、予算が必要だったらどうにかして出すだろうし、人が足りないなら、「じゃあ、どうやって人を集めようか」という話を一緒にするかたちになります。

責任は渡すけれども丸投げはしない。そうしないと、自分で考えて動くようにはならないですね。自律的に動いてほしいんだったらそうするかなと思います。

「マネージングプレイヤー」と考える

——徒弟制度は親方自身もプレイヤーであるということで、いわゆるプレイングマネージャーの課題も生まれてくるのかなと思います。

倉貫:親方は、プレイヤーとして成果を出せる人に追加で育成もしてもらっているので、いわゆる「プレイングマネージャー」ですし、むしろ「プレイヤーである」というのが主なので「マネージングプレイヤー」と呼んでいます。

どちらもやる、というのを前提にしています。ところで、プレイヤーとマネージャーを兼ねていると、何が問題なんでしたっけ?

——やはり業務範囲が広がってしまうとか、部下の育成というのが自分の評価にも関わってくるのが大変だとか……。

倉貫:でも、大変なだけじゃないですか。大変な仕事ができる人がマネージャーになるわけじゃないですか。

僕はそんな大きな会社じゃないとはいえ社長をやっているので大変ですけど、だからやりたくないわけじゃないですよね。何が駄目なのか、僕にはちょっとわからない。

大変なことは、イコール駄目なことじゃないでしょう? 総理大臣だって弁護士だって、みんな大変じゃない? だけど大変なことを駄目だとする社会って、誰もがんばらないということに……(笑)。

(一同笑)

やり方がわからないからこそ、一緒に考える

——たぶんマネージャーの人は、そもそもマネジメントについて教えられていないことも多いのかなと。プレイヤーとして優秀でも、マネジメントのやり方を知らないので部下が育たないし、自分の仕事ができないと思ってしまう。

倉貫:そうですね。なので、マネジメントしたことがない方にとって、当然マネジメントの仕方がわからないから難しい。そこの大変さは当然あるかもしれないですね。

だけど、例えば新規事業を立ち上げるとか、起業する時とかって、わからないことだらけで大変じゃないですか。でも、やるしかない。

その時に、先ほどの新規事業の話のように、僕も親方をやろうという人と一緒に考えるんですよ。チームで取り組んでいるので、大変なことは半分になる。なので、やれるのかなと思います。

AIを使った成果物に責任を持つ

——エンジニア組織はAIによって受ける影響が大きいかと思うのですが、変化を感じる部分はありますか。

倉貫:AIが入ってきて、一番変わるのはベテランの生産性が爆上がりするということですね。

なので、能力が高い方がAIを使うと、すごく生産性が上がる。けど、そうではない人は違う。上がりはするけど、ちょっとだなっていう感じが、ソフトウェア開発に限らない、AIをめぐる環境だなという感じですね。

——新人の方たちもAIを使われているんでしょうか? 

倉貫:使っていますね。

——ある程度、技術が習熟してからじゃないと、AIに頼ってしまうことにはならないんでしょうか?

倉貫:野菜の千切りをする時に包丁を使うのか、「千切りマシン」を使うのかみたいな違いであって、別に道具なんて何でもいいんですよね。

大事なことは、それで出来上がったものが、「AIが作っているから出してきました」という状態は駄目ですね。作ったものに対して責任が取れないので。

なので、AIで書かせたとしても自分で書いたものと同じクオリティにしなきゃいけないし、作られたものが説明できなきゃいけないので、そこの指導はしています。

利益率だけで考えたら、若手を育てる必要はない

倉貫:「この肉じゃが、どうやって作ったの?」と聞いたら、「うーん、わからないですけど機械に入れたらできました」という答えでは駄目なんです。これはもう、仕事として成立していないじゃないですか。

だから、クオリティを自分でコントロールできて、それがどれぐらいの見積もりでできるものなのかが見えないと仕事を頼めないですよね。

この間、韓国に行ってきましたけど、AIの影響で新卒採用をかなり絞っているんですね。日本はまだまだこれからかもしれないですけど、そういう変化は起きているんだろうなとは思います。

僕らの会社も、単に利益率だけを追いかけるんだとしたら、若い人を採用する意味がないんですよ。だって、若い人を育成している時間をAIに使ったら、なんぼでも利益が上げられるので。

「いいソフトウェアをつくる。」という理念を体現していく

——それでも人を育てるところにお金や時間をかけているのは、そうしないと続いていかないからでしょうか?

倉貫:いや、続きはすると思うのですが、僕らの場合はどちらかというと、「いいソフトウェアをつくる。」という会社の理念があるからです。

世の中にいいソフトウェアをたくさん生み出していきたい時に、やはりソフトウェア開発者がいないと生み出せないんですよ。じゃあ中途採用をいっぱい集めてくればいいじゃないかと思っても、優秀なソフトウェア開発者が転職市場にあふれている状況でもないわけです。

僕らのやっているお仕事は非常にユニークなものだし、それをやれるだけのスキルセットを持った人があまりいないので、だとしたら若い人から育てたほうがいいねということで、僕らにとっては経済合理性もある。一方で、会社の理念にも合っているという感じですね。

——その思いが徒弟制度という仕組みにつながっているんですね。倉貫さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。


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