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倉貫義人氏インタビュー(全3記事)

セルフマネジメントの前に“自己管理”ができているか 自律的な部下を育てるステップのヒント

【3行要約】
・株式会社ソニックガーデンでは、先輩を親方、若手を弟子とする独自の教育システム「徒弟制度」を導入しています。
・ソニックガーデン代表の倉貫義人氏はマネジメントは「管理」ではなく「活かす」ことであり、経営者はマネージャーの味方になることが重要だと語ります。
・ マネジメントの成功には経営者がマネージャーを支え、セルフマネジメント能力を段階的に育てる環境づくりが重要だと示唆しています。

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弟子を評価する「キャリブレーション」という仕組み

——今、エンジニアの方々の中の何割ぐらいが親方なんでしょうか?

倉貫義人氏(以下、倉貫):ベテランが30人ほどいる中の5人です。基本、親方1人につき弟子を1人〜5人見ています。理想は3人ぐらいじゃないかという感じがしますね。でも、ずっと親方が弟子だけを見ているわけじゃないので。弟子なのでいなくなりはしないけど、手はかからなくなります。子どもも、赤ちゃんの時と5歳では手のかかり方が違うじゃないですか。

なので、そうするとまた次の人を入れることはできるでしょうし、今もちょっとずつ実験しています。1年生だった人が今は4年生になっていて、そうすると、今度新しく入る1年生を見れるようになる。兄弟子みたいな感じですかね。

——徒弟制度を運用しながら変えていった部分はありますか? 

倉貫:変えたわけじゃないですけど、弟子の人たちが入って1年、2年してくると、やはり弟子同士でも差が出てきます。よりできる人と、まだまだマイペースで進んでいる人が出てくるので、弟子全員を同じ給料というわけにはいかないんですね。

なので、その人の段階に合ったお給料の設定をしていく、一般的には評価みたいなことをする必要があります。

(一般的には)目標設定があって、達成したら評価されるという考え方になっちゃうんですけど、別に弟子に目標なんかないんですよ。なんだったらうちの会社にはそもそも売上目標がないので、ノルマがないんですよね。ないけれども、一人ひとりがベストを尽くすという考え方で経営をしている。

でも、ベストは尽くした結果、腕が伸びた人と、そこまで伸びなかった人が出てくる時に、「じゃあ、その人の今の状態に合わせてお給料の段階を決めてあげたほうがいいんじゃない?」ということで、僕はその制度をキャリブレーションと呼ぶことにしたんです。

その人が今5段階目なのか4段階目なのか3段階目なのかというのを見て、お仕事と報酬を設定していく。まだ改善の途中ではありますが、半年に1回「今、この人はどの段階だろうね?」と確認する制度を導入しました。

技術だけではなく、セルフマネジメントができているか

——それは技術の習熟度などを見て段階を決めていくんでしょうか?

倉貫:そうですね。それと、例えばセルフマネジメントができるようになったとか。「今、自分がどの段階なのか」みたいなことを見るものです。

「この段階ですね」「いや、もう十分にこの段階の仕事ができていますね」というのが親方と本人と会社の三者ですり合えば、(その人のレベルが)わかると思っています。

——社員の自律的な行動を促すために一般企業のマネジメント層の方ができることを挙げるとしたら、どういった点になるでしょうか?

倉貫:いくつかあるなとは思うのですが、先ほどのセルフマネジメントを身につけることは、自律的に動くことにつながると思うんですね。

僕らにとってのセルフマネジメントは、いわゆる自己管理みたいな話ではないんです。まず、管理とマネジメントは違うと思っていて。これ、当たり前の話なのですが、みんな驚かれるので、「なんでだろうな?」と思っているのですが。

例えばExcelで一覧管理をするとか、勤怠状況を管理するとか、把握して守らせることが「管理」ですね。マネジメントは、管理じゃなくて活かすことです。

最低限のスキルなくして自律的な働き方は不可能

倉貫:(ピーター・)ドラッカーの引用になりますけど、(マネジメントとは)「なんとかする」ということなので、別に管理しなくても、なんとかできたらいいわけじゃないですか。

プロジェクトマネジメントって、別にプロジェクトを管理しなくても、プロジェクトが成功すればいいわけです。でも、プロジェクトをめちゃくちゃ管理しても成功しなかったら、それはマネジメントをしていないということになりますよね。なので、管理とマネジメントは大きく違う。

やるべきことはマネジメントなんですね。僕はマネジメントを「いい感じにする」と言っています。セルフマネジメントは「自分自身をいい感じにしていく」ということになるので、自律的に働けることにつながるのです。

僕らはセルフマネジメントを大きく5段階ぐらいに分けてレベル感を設定しています。弟子として入ったばかりの人はレベル1。セルフマネジメントレベル1は、まず、朝は普通に出社するとか(笑)。

あとは報告・連絡・相談するとか、自分の仕事の進捗管理をできるとか、もう最低限の自己管理なんですけど、実はこれができていない人だって山ほどいる。最低限ができないのに「自律的に働きましょう」って言っても無理なんですよ。

自分の仕事ぶりを客観的に見られるようになる

倉貫:自律的に働く前に普通の勤怠管理、進捗管理、報連相をしましょうねっていう話なので、まずそこを身に付けてもらう。

この時点では、まだ自分の視座なんです。だけど、僕らは次のレベル2ぐらいが難しいと思っています。例えば「振り返りを自分でできるようになる」ということです。

振り返りとは、仕事の中で起きたことをどうすればもっとうまくできたのかを改善していくことです。それができるようになっていくと、自分のことを自分で見るというよりは、客観視して見えるようになる。いわゆるメタ認知ですね。

振り返りは鏡を見るようなものなので、自分を外から見れるようになってくる。そうすると、フィードバックで傷つくこともないんですよ。

こういうことができるようになっていけば、上司が、「これを直せ。次はこれをしろ」って言わなくても自分で改善できるんですね。なので、振り返りのスキルを身に付けてもらうようにしています。

でも、いきなりそんなことを言われても自分で改善するのは難しい。なので最初のうちは親方が付いて、週1回のミーティングで、この週はどういうことをしてきたのかを共有します。本人が気づいていないので、親方が「この間のこういうのが良くなかったよ」と言ってあげないとわからないじゃないですか。

——最初のうちは、良くない部分に気づけるレベルにはいないですよね。

倉貫:そう、気づかないんです。鏡を見ることもできていないので、外から言ってあげる。練習したら自分でできるようになるので、そうやって振り返りを身に付けていく。

カレーを作っているのか、シチューを作っているのか

倉貫:あとは、僕が「タスクばらし」と言っているスキルです。これは仕事の内容を自分で分割することですね。仕事の全部の工程を指示されながらやるのは、ただの作業をやっているだけなんです。

例えば、「ニンジンを10本切ってください」と言われる。次に「ジャガイモを10個切ってください」「タマネギを10個切ってください」と言われて順番に切っていく。これは作業ですね。しかも、何を作っているかがまったくわからない。

——確かに。カレーの可能性もシチューの可能性もあります。

倉貫:そうなんですよ。でも実は、肉じゃがなんですよね。

——なるほど(笑)。

倉貫:「肉じゃがを作ってください」って言われて、「じゃあ、タマネギとジャガイモを買ってこよう。お肉は豚かな、牛かな?」みたいなことを分割して考える必要があります。責任を持った仕事をやるためには、自分で仕事を分解できないといけないんです。なのでそれをやることをタスクばらしと言っていて。

これもいきなりはできないので、親方が付いて教えていくことで、だんだんとできるようになっていく。

そうすると、振り返りをして改善もできる。タスクばらしをして自分で仕事の見積もりをできるようになると、これでようやく責任を果たす仕事ができるようになるということです。

クリエイティブな仕事に再現性はない

——先ほど「管理職になりたくない問題」という話題も挙げていただきましたが、やはり昨今のビジネスパーソンのみなさんはマネジメントに悩まれている方が多いと思います。

なので、徒弟制度を運用しながら見えてきた、何かマネジメントに活かせるアドバイスなどはありますか?

倉貫:これはそもそもの話ですけど、マネジメントってめちゃくちゃクリエイティブな仕事なんですよね。なので言いたいことは、「ケースバイケースなので、共通のアドバイスはないですよ」ということなんです。

——再現性がないタイプの業務であると。

倉貫:そうそう。僕は再現性がない仕事をクリエイティブな仕事と言っていますけど、クリエイティブな仕事では「ここでこうしていたからこれでうまくいく」というやり方は絶対にないと思うんです。

どちらかというと、僕自身は経営者なので、マネージャーの人たちを束ねて見ているという立場です。その立場から言えば、経営者の人たちは、マネジメントを管理職に丸投げはしないほうがいいのでは、とは思います。

徒弟制度はマネージャーの負担を減らすことにつながる

——管理職に丸投げしないという方針の中で工夫していることなどはありますか。

倉貫:責任は当然マネージャーが持つんだけど、僕はマネージャーの味方であろうとしています。

それこそ親方たちとは、少なくとも毎週1回は絶対にミーティングをやっているんですね。弟子一人ひとりをどう見るかというよりは、弟子たちを見ている親方の悩みを聞くし、親方の相談に乗ります。「弟子が育っていないじゃないか」とただ報告に対してフィードバックするのではなくて、一緒に考えるようにしているんです。

なので、親方と経営者である僕は、一種のチームでやっています。一緒にやるということにすれば、親方としても難しいことは僕と話をして改善していくので、「親方が1人で抱え込んでつらい」ということはまずないですね。

僕も親方と話をするので弟子についても解像度が高く見ることができる。それこそ弟子が5人いれば一人ひとり悩むポイントも、考えなきゃいけない課題が違います。ある弟子の課題の解決策を別の弟子にもそのまま使えるかというと、そんなことはないんですね。

だけど、それを僕がそれぞれと話をしながらやっているので、別の課題でも活かせるかもしれない時は伝える、みたいなことをしているので、その構図を作るほうが大事なんじゃないかな。

徒弟制度はある意味、親方とかマネージャーが仕事をしやすくするために作っています。「マネージャー」って言わずに「親方」って言ったほうが弟子も言うことを聞きやすいし、本人たちもやりやすいとか。

マネージャーのためにキャリブレーションという仕組みを作るのも、放っておくとマネージャーの負担が大きいので、「じゃあ会社で制度を作りましょう」みたいな感じで、なるべくマネージャーの負担を減らすことを経営として考えています。

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