【3行要約】
・終身雇用が崩壊し、SNSで同世代の活躍が日常的に目に入る現代において、Z世代の若者たちは「長期的な安定」より「成長実感」を重視しています。
・北の達人の執行役員・高橋一雄氏は、Z世代は2~3年スパンで「個として成長できるか」を重視し、環境を選択していると指摘。
・管理職は「べき論」の押しつけを避け、フィードバックの仕組みを通じて若手の成長実感と納得感を両立させることが重要です。
終身雇用の崩壊とZ世代の仕事観
——高橋さんは1997年生まれのZ世代でありながら、北の達人の執行役員 WEBマーケティング部長としてご活躍されています。新卒入社からわずか3年で管理職に抜擢されたとのことですが、北の達人ではZ世代の社員も多いのでしょうか。
高橋一雄氏(以下、高橋):そうですね。メンバーも20代が多いです。特に僕がやっているWEBマーケティング部に関しては、20代のメンバー中心で構成されています。もちろんもっと上の年齢の方もいますが、20代前半から32~33ぐらいのレンジに収まっている感じです。
——マネージャー層も若手の方が多いのでしょうか? 一般的な会社よりもステップアップしやすい環境なのかなと感じました。
高橋:はい、20代でも課長や部長、チームを束ねるマネージャーとして活躍しているメンバーが数多くいます。
ステップアップしやすいかどうかは人によると思います。うちの会社の特色として、年齢に応じた評価ではなく結果に応じて評価されるというのはありますね。ちゃんと力をつけていける環境かどうかを重視しているメンバーが多いのではないでしょうか。
——ふだんマネジメント業務をされる中で、Z世代ならではの仕事への向き合い方や価値観の傾向はありますか。
高橋:これまでの価値観、つまりZ世代より上の世代で言うと、会社に勤め上げて出世していくのが仕事における幸せの定義だったのかなと思います。
これは自分も含めてですが、(Z世代は)それよりも、この環境で何が経験できるか、その上でどういった成長を得られるのかといった部分を重視しています。2~3年ぐらいの短いスパンで何が得られるのかを考えて環境を選択している人が多いのかなと思います。
それには終身雇用が崩壊したという点も、大きく影響していると思います。新卒で入った会社でそのままそこにいれば安泰という時代ではないと思っているので。やはり自分自身が個としてちゃんとキャリアを築いていける力を身につけないといけないと考えています。
Z世代は「成長実感」を重視する
——Z世代は2~3年スパンでキャリアチェンジされる方が多いのでしょうか?
高橋:キャリアチェンジをしていくという意味ではなく、だいたい2年〜3年でちゃんと自分自身が変化できているよね、という部分を実感できるのかどうかを意識しているのではないかと思います。そういった変化を1つの環境の中で得続けられていれば、それで問題はないと思います。
僕自身、新卒で入社して今6年目ですが、あまり転職を考えたことがないのは、結果的にそこが担保されているからだと思います。僕は今部長をしていますが、メンバーに今5年目の26歳の課長がいます。もともとは「すぐ独立しよう」とうちに入ってきたらしいのですが、実際に入ってみると、この環境だからこそすごく高い角度で成長していけると感じ、それが楽しいということで結果的にずっといる、という感じです。
先ほど、こうしたZ世代のキャリア観の背景として、1つは終身雇用の崩壊があると言いましたが、もう1つはSNSの存在が大きいと思っています。SNSを見ると、同年代ですごく活躍している人がたくさん見られるじゃないですか。
そこと比べて自分はどうなのかというところが、意識せずとも情報として入ってきてしまう。そういった中で「10年後には部長になれる」と言われても、「いや、今すぐ比較しちゃうんですけど」みたいに思いやすいのではないでしょうか。なので、ちゃんとスピーディに成長していけるのかといった部分は、必然的に意識しやすい環境にあるのかなと思います。
——SNSで同世代と比較して「自分はこのままでいいのかな」と焦ってしまい、短いスパンで転職をする方も少なくないですよね。そうした点でも、会社の中で成長実感を持てるのは大事だと感じました。
Z世代だからこそ持っている「強み」
——Z世代の価値観についてお話しいただきましたが、チームリーダーとして、Z世代だからこそ得意なことや、仕事で活躍してくれる強みを感じる瞬間はありますか。
高橋:正直人によりますが、やはりデジタルネイティブではあるので、その部分の柔軟さは、それ以前の世代と比べると一定共通してあるのではないでしょうか。
僕たちはWebマーケティングの仕事をしているので、それこそSNSで今ユーザーがどういうものを見ているのかも含めた上で、刺さる広告を考えて打ち手を出していく。これをがんばらなくても普通の感覚でできるというのは、デジタルネイティブとしての強みかなと。Z世代以降のより若い人たちには、そういった部分を感じますね。
あとは、今だったら生成AIとか新しいツールに対して抵抗感を持たずに試行錯誤しているメンバーが多いですね。

——会社でもAIは積極的に業務に導入されているのですか?
高橋:もうめちゃくちゃ使っています。広告の作成もそうですし、結果の分析、あとは新しい商品の見せ方や切り口を抽出するために、どういった切り口が考えられるかという案出しに使ったりしています。もう一緒に働いているみたいな感じです。
今の大学生とかはもっとすごいと思います。僕たちも新卒の採用やインターンをやっていますが、もう普通にAIを使ってワークするのが当たり前。社会人歴が長い人って「今からがんばってAIを覚えよう!」という感じだと思うんですけど、今の大学生はもうインスタを触るみたいなノリでChatGPTに触っています。
入社直後は2週間スパンで役員と面談…「成長実感」を持たせる仕組み
——そうなんですね。今の大学生や新卒の方を見ていて、ご自身の世代とのギャップを感じることはありますか。
高橋:どうですかね。先ほど言った話に戻りますが、「個として実力がつくか」「組織に依存せず、自分自身の力でキャリアを歩んでいける状態を作りたい」という意識はどんどん加速している気がします。いわゆる大きい会社に入って逃げ切り、みたいな観点を追っている学生はどんどん減っているのではないでしょうか。
うちの会社に成長意欲の高い人が集まってくる部分もあるとは思いますが、話を聞いている限り、そこを重視する傾向は僕たちの世代からどんどん強まっていると思います。実際に、けっこう有名な大企業に入っても「この環境にいたらまったく成長できない」と半年~1年で辞めて、うちに面接に来る方もいます。
——そうしたZ世代のメンバーに成長実感を持ってもらうために、マネージャーとして意識して伝えていることはありますか。
高橋:そうですね。会社全体として、半期に1回査定があります。もっと細かい粒度で言うと、例えば入社直後に、部長・役員含めて2週間に1回面談をします。そういった中で日々の変化や成長実感を持ってもらう。
実感を持ってもらうだけでなく、ちゃんと成長させていくためには、今何に向き合うべきなのかという設定がものすごく重要だと思っています。そのあたりを社長や他の役員も入りつつ、最初はけっこうしっかりやります。
——なるほど。マネージャー陣や経営層も一緒になって、メンバーの成長をサポートする仕組みがあるのですね。
Z世代マネジメントの失敗談
——高橋さんがZ世代のマネジメントで失敗した経験をおうかがいできますか。
高橋:マネジメントを始めたのが早かったので、最初はすごく失敗していました。一言で言うと「こうやるべき」という、べき論の押しつけをやってしまったところがあったかなと思います。
僕自身はどちらかというと体育会系な感じで育ってきたタイプなので、目標が決まっていて、それに対してやるべきことは「いや、普通にやるよね」という感じなんです(笑)。なので「こういう時は、もうこうすべきだよね」「これぐらいやるべきだよね」といった、かなり自分の価値観でメンバーをマネジメントしてしまったなと思っています。
その結果、メンバー自身の納得感が得られなかったり、「違うと思うけど、言われているしやらないといけないな」という状態になってしまったり。やはり高い目標に向かっていく中ではそれ相応のハードさもある中で、納得感のないまま「しんどいな」と感じさせてしまったと思います。
「部下から上司」にもフィードバックできる仕組み
——そういった部分は、部下からの指摘がないとなかなか気づけないですよね。失敗に気づいたきっかけはありますか。
高橋:会社の仕組みとして、PBPPという研修があるんです。パーフェクトビジネスパーソンプログラムの略で、5人~6人ぐらいのチームを組んで、周りから見てその人の課題だと思うところをフィードバックし合うというものです。
3ヶ月か4ヶ月に1回ぐらい、レイヤーにかかわらず、業務上接点が多いメンバーでやります。その場では、「周りが自分の何を課題だと感じているかを、正義として受け止めましょう」というルールがあるんです。その中で、僕は周りからそういった面があるという課題をフィードバックされて、自覚できました。
——その制度、おもしろいですね。ネガティブなフィードバックも、みんなフラットに言い合うんですね。
高橋:全体の共通認識としてPBPPはそういう場だよねという前提が共有されているので、ある意味、言いづらいことも言えるというのは大きいです。
それから、ただ課題を突きつけるだけでなく、それを踏まえて次のPBPPまでの3ヶ月間で具体的にどのようなアクションを取っていくのか、そのアクションで本当に改善すると思うか、というところもしっかりすり合わせをします。
課題のフィードバックを受けた上で「じゃあこういうやり方で課題に向き合っていきましょう」というところもセットでやっていくので、建設的に課題に向き合うという前提があります。
——部下側から上司にフィードバックできる機会を設けることで、会社全体の風通しが良くなったり、心理的安全性が高まったりするわけですね。ありがとうございます。