【3行要約】・転職エージェントは便利だが、良い求人を紹介されないという不満も多い中、効果的な関係構築のポイントが注目されています。
・転職支援のプロ・森本氏は「エージェントは伴走者」と位置づけ、情報の全面開示が最短ルートだと指摘。
・希望条件や不安、他社エージェントの提案状況まで包み隠さず共有し、職務経歴書では成果と工夫を具体的に示すことが転職成功への鍵となります。
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転職エージェントとの上手な付き合い方
——ここからは転職活動についてのご質問です。森本さんは、新卒でリクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社され、転職エージェントとして3万名超の転職希望者と接点を持ち、2,000名超の転職に携わって来られました。ご自身のご経験から、転職エージェントとの上手な付き合い方を教えていただけますか?
森本千賀子氏(以下、森本):エージェントは伴走者です。理想の関係をつくる最短ルートは、長所も短所も含めた全面開示をすることです。希望条件や不安、他社エージェントの提案や進捗まで、ポジティブもネガティブも包み隠さず共有してください。情報が増えるほど提案の精度は上がります。AIと同じで、良いインプットが良いアウトプットを生みます。
——ほかの転職エージェントの話もしていいんですね。
森本:もちろんです。むしろ歓迎です。「Aは刺さる、Bは刺さらない。その理由は……」と意思決定の軸を言語化していただけるほど、マッチ率は高まります。
——なるほど。「転職エージェントがあんまりいい求人を持ってきてくれない」「転職エージェントが自分に合わない」と思っている方こそ、もっと自己開示するのが大事ですね。面接官ではないので、自分の弱みや不安も、気負わずに相談してもいいのかなと思いました。
森本:そうですね。「弱点だけどそれを克服したい」とか、「自分的にはネガティブなポイントなんだけど、裏返せばこれがプラスのポイントだと思っている」とか、そういうポジティブ、ネガティブも全部共有するといいと思います。
あとは職務経歴書の書き方。「自分はこういうことをやってきました」という業務内容の羅列で終わっているケースがほとんどなんですよね。「こういうことをやってきました」で終わってしまうと、「じゃあ、何ができる人なの?」となってしまう。なので、成果やあなたならではの工夫、「ほかの人と違って自分自身はこうだ」という部分をちゃんとアピールすることが大事です。
そして忘れないようにしたいのが、「なぜその成果が出せたかというと、こういう工夫をしてきたから」という裏付け。どういう工夫をしたのかとか、あなたならではのそこへの関与は何だったのかという裏付けをしないと、「それは企業のブランドがあったからできたことでしょう?」とか「周りのサポートがあったからできたことでしょう?」となってしまいます。なので再現性があるという裏付けまで話していただきたいですね。
口コミサイトに惑わされないブラック企業の見極め方
——会社選びにおいては、自分に合わない会社やブラック企業を避けるために口コミサイトを見る方も多いと思いますが、効果的な活用方法はありますか?
森本:総合評価の点数だけで判断しないことですね。投稿時期・職種・年齢層が自分とどれだけ一致しているかを確認し、できれば現社員の“今”の声を取りに行くのが最も有効です。数年前の口コミが現状とズレていることもありますから、鵜呑みは機会損失につながります。

——反対に口コミがまったくないと「この会社大丈夫なのかな」と不安になってしまいそうですが、このケースはどうなのでしょうか?
森本:規模や離職の少なさが要因で、書き込み自体が少ないだけのケースもあります。大事なのは“口コミがない=危険”と短絡しないこと。まずは現社員にヒアリングし、一次情報で補完しましょう。
最終面接後の内定フェーズで「同世代の中途入社の方とお話しできませんか」とお願いするのは有効です。タイミングや言い出し方は、エージェントに相談すれば円滑に運べます。それを打診をしたからといって、選考で不利になるってことはぜんぜんないですよ。
さらに「離職率と採用内訳(新卒/中途)」は要チェックです。数字は嘘をつきません。判断に迷う点はエージェントに照会を依頼しましょう。エージェントには「辞めたい」という相談も集まるため、地上戦の情報を持っていることが多いんです。口コミは材料の1つとして、総合判断が肝要です。
経験の少ない20代が面接でアピールすべきこと
——ありがとうございます。面接についてのご質問です。スキル、経験がそれほどない20代が面接でアピールすべきポイントを教えてください。
森本:企業が見ているのは、素直さ・学習意欲・行動力という“伸びしろの質”です。仕事外の具体例でも構いません。コミュニティ参加、読書会、ボランティア、部活のマネージャーなど、日常の行動でコンピテンシーを示してください。経験量の多寡より、学びを回す姿勢が評価されます。
——書籍の中では、マネジメント経験がない30代に向けて、プライベートのことでもアピールになると書かれていましたね。
森本:はい。フィールドは問いません。「役割を担い、周囲を動かした経験」を、目的・工夫・結果の順に語るといいと思います。職場外のエピソードでも、再現性が伝われば十分なアピールになります。
キャリアに迷ったら「小さな越境」から始める
——最後に、自分のキャリアに自信が持てなかったり、将来が見えないというZ世代に、どんな言葉をかけますか?
森本:最初の一歩は場所を変えることです。社外セミナー、コミュニティ、ボランティア、副業、リスキリング——小さな越境を積み重ねてください。異なる価値観に触れることで視野が広がり、「次の仮説」が生まれます。それが結果として転職につながることも多いんです。偶然を待つのではなく、偶然を迎えに行く習慣を持ってほしいです。
——迷っている時はすぐに転職と振り切るんじゃなくて、小さな越境から自分がやりたいことを見つけていくんですね。
森本:そうです。キャリアは一本線ではなく書き換え可能です。寄り道や迷いはマイナスではありません。そこで見えた景色が、本当にやりたいことに接続します。今は修正に寛容な時代です。
——Z世代はタイパ、コスパを重視するともよく言われますが、「無駄になるのではないか」とかを考えずに、まずは小さな越境を試してみるのも大事ですね。
森本:おっしゃる通り。計画的偶発性が示すように、キャリアの多くは予期せぬ出会いで動きます。だからこそ、小さく試す→振り返る→次を試す。この反復が最大のコスパです。偶然を味方に、歩幅は小さく、でも継続的に。読者のみなさんの“次の一歩”に寄り添えたら本望です。
——森本さん、ありがとうございました。
関連サイト:
『リミットレス時代の転職術 「選ばれる人」の新常識』 森本 千賀子/著(日経BP 日本経済新聞出版)