機嫌良く振る舞うのも上司としての技術
——技術として捉える上で、西原さんご自身が習得するのに「これはちょっと苦労したな」というものはありましたか?
西原:特に姿勢の部分はめちゃめちゃ苦労したかもしれないです。例えば僕は「上司が機嫌良く振る舞うことは、上司としての制服を着るようなものだ」と思っています。

一方で上司も人間じゃないですか。上司はその人自身がすごく力強いとか、人間的に能力が高いからじゃなくて、会社の中で評価されたから、たまたま上司になっているんですよね。「この上司、プライベートで会ったら絶対にコミュニケーションを取らないよな」っていう人もいっぱいいるだろうし(笑)。それくらい、会社からお膳立てされていてそのポジションに立っている。
そうなった時に機嫌の良さを保つことってめちゃめちゃ大事です。実は、機嫌が悪いだけで(部下にとっては)めちゃめちゃコストになってしまうんですよね。
——不機嫌がコストになる、というのは具体的にどういうことでしょうか。
西原:上司が物騒な顔をしているだけで、予想以上に(周囲に)圧力をかけている。自分の5倍、10倍かかっていると思わなきゃいけなくて、それによって同じ発言でもタイミングが違うだけで語気が強くなったりとか。
例えば部下に「今、ちょっとよろしいですか? 資料を確認してほしいです」って言われた時に、(ぶっきらぼうに)「何だよ」っていうケースもあれば、たまに機嫌がいい時に「あ、いいよ」って言う場合もある。
そうすると何が起きるのか。部下の人たちに、まずは上司の機嫌を確認するっていうフローを挟ませちゃうんですよね。
——本来、仕事には関係のない余計なフローですね。
西原: 上司にとって、本当は部下に活躍してもらうことが一番のはずです。成果を出してもらうことで自分の評価になるじゃないですか。なのに無駄なコストを与えてしまうんですよ。
だけど、この機嫌を良くする技術を自分にインストールするのは、やはりけっこう大変。「どうしてこんなこともできないの?」って思ってしまうこともあるので、アンガーマネジメントに近いところもあるかもしれないですね。そこがけっこう大変だったかなと思います。
優秀な上司に学んだ「障壁を下げる」振る舞い
——機嫌を良く保つ、あるいは部下にそう感じさせるために、意識すべき具体的なポイントはありますか。
西原:コンサル時代の上司で、めちゃめちゃ優秀で周囲に人が集まる人がいたんですよ。その人の姿勢はすごく身になっています。例えば誰かから声をかけられた時に、パソコンの手を止めて相手のほうを向くんですよ。
それで、まずは笑顔で「どうした?」って言う。それで(心理的な)障壁を下げ、次に話の内容を聞いて回答して、「相談してくれてありがとう」で終わる。
あとは会話の中でも、相手の名前をちゃんと呼ぶ。これは僕、その人気があった上司の方に聞いたんですけど、これが自分の中の上司としての振る舞いとして徹底しているものなんですね。
その人は、プライベートではコミュニケーションが嫌いで、コンビニとかに行っても、あんまり店員さんと目を合わせたくないタイプなんですよ。だけど、それは性格を変えているわけじゃなくて、技術としてこのポイントを実行しているんですね。
上司を救えば、部下も救われる
——なるほど。続いては、新刊で上司をテーマにした理由について教えていただければと思います。
西原:私はTikTokのライブを毎週、YouTubeのライブを2週間に一度やっているので、月に6回ライブをやっているんですよ。あと、いろんな企業で講演や研修をさせていただいています。そのような中で(参加者からいただく悩みとして)一番多いのが上司としての悩みなんですよね。
プレイヤーの時は自分とお客さんのことだけを考えていれば良かったのが、上司になると相手に関連する悩みが出てきてしまう。しかも、その解決策を適切に教えられている人もいなくて、あるべき技術を持たずにプレイヤーのまま上司になった結果、みんなが苦しんでいる。これがね、すごく多かったんです。
もう1個挙げるとすると、上司のマネジメントが変われば現場の部下はハッピーになるんです。
上司が個人的な好き嫌いでマネジメントしていたりすると、「仕事もお客さんも好きだけど、会社を辞めようと思います」となってしまう方も多いんですよね。上司そのものを救うのもそうだし、そこに付随する部下の人たちも救いたい。この2つの観点があるんじゃないかなと思います。
——特によく聞くお悩みの具体例はありますか。
西原:やはり多いのが、「もっと部下に自発的に動いてほしい」ですね(笑)。「なんでこれ、先手を打てないの?」「もっと考えて動いてくれよ」「俺の時はもっと考えて動いていたよ」っていう、あるべき部下像とのギャップはまず大きいですね。
——そういったお悩みに対し、本書のテクニックを1つおすすめするとしたら、どんなものになりますか?
西原: まず「自発的に動いてください」と言っている上司のほうが間違っていることが多いです。上司と部下の「自発的」がすれ違う時って、ほとんどのケースで「どう動いてもらいたいか」を上司が正しく伝えられていないんですよ。
言葉にできないので、つい「新人のあの子は3ヶ月でここまでできるのに」と比較したり、比喩的な表現で察してもらおうとする。でも本人には伝わっていない。「自発的」を求めるなら、どの事象に対してどう動いてほしいかを明確に言語化しなきゃいけないんです。
例えば「お客さまがいらっしゃったら、雨なら傘を用意して、タクシーを呼ぶアクションまで取ってほしい」というレベルまで伝える。「それくらい、わかってよ」と言いたくなる気持ちもわかりますが、面倒くさがらずに言語化していくことが今の時代のマネジメントには不可欠なんです。
“ひろゆき化”する部下には根拠を示さなくていい
——なるほど。昨今はハラスメント扱いを恐れて部下への指摘や指導がやりにくくなっているという声もあります。
西原:僕は「叱る」というより「違いを伝える」ことが大事だと言っています。
例えば、エレベーターでお客さまを先にお通しすべきところを、部下が先に自分から乗っちゃったというケースがあるとします。「なんで先に乗ってんだよ!」と怒鳴るのではなく、「うちのルールはお客さまを先にお通しすること。でも、あなたは自分から乗ったよね。これがルールとの違いだよ。だから次は直しておいて」と。ただ、それだけです。
特に最近は一時期の論破ブームの影響もあってか、何に対しても「根拠」を求める人たちが多くなっています。「挨拶って声だけでよくないですか? 笑顔でやる根拠は何ですか?」とか。こう、ひろゆきさんみたいな(笑)。でも、ビジネスマナーって論理的な根拠が薄いことも多いじゃないですか。
——確かに。あらためて考えてみると伝え方が難しいですね。
西原:そうなんですよ。それを根拠で論破しようとすると、絶対に論理が破綻します。だからシンプルでいいんです。「会社として、こういうルールです。今、それと違う行動をしているので直してください。以上」と。
「なんで10時に来るんですか?」「会社のルールだから」。それと同じです。納得させるための強い根拠なんて要らない。明確にルールと現状の「違い」を振り分けて伝えていけばいいんです。
「これは部の方針として、お客さまが来たら立って挨拶し、お茶を出します」っていうルールをただ伝えるだけでよくて、根拠は要らないんですよね。そういうものをちゃんと明確にしていったほうがいいなと思っていますね。